第666話 鬼人・2

「もうこいつがボスでもいい気がするよな」


 アルゴの言葉に無言で何人かが頷いている。

 三つ眼の鬼人は複数の特殊能力まがんを使ってくる。

 その中には一つ眼と二つ眼が使ってくるスキルもあれば、それとは全く異なるスキルもある。

 この一瞬で目の前に現れるなんて記述は、転移に似ている。もしくは疾風?

 戦っているうちに強くなったように感じたのは強化?

 腕を斬り落としても腕が生えてきたというのは再生能力、かな? 魔物によっては同じような能力持ちはいたけど、欠損したものまで再生するという強力なものは初めて聞いた。

 それよりもこの特殊能力、最早魔眼とは関係なさそうだけど、アルゴたちは気にしていないようだ。


「これは確かに手を退く奴らがいるのも納得だ」

「こいつ一体狩る労力を考えれば仕方ないよな。すべての個体が魔眼を使うわけじゃないから、魔眼を使わない個体に当たれば楽に……は狩れないか? 元々の身体能力は高いわけだから」


 俺はアルゴとギルフォードの会話に耳を傾けながら、何の魔眼の効果が一番厄介なのかを考えていた。

 二つ眼の放出系の魔眼は殺傷能力の点でいえば一番高い。

 けど俺が一番厄介だと思ったのは一つ眼の幻惑だ。

 鬼人と戦っている時に仲間に襲われるのが一番の脅威だと思った。

 特にここのメンバーは誰もが強いし、そんな相手を生け捕りにするとなるとただ倒すのと違って難易度はかなり上がる。

 そのことを告げると、


「あー、それはソラの言う通りね」

「それと魔眼の有効射程範囲がどのくらいなのかも気になります」


 ルリカはそれだと複数人で戦うのは逆にリスクが大きいかもしれないと言い、クリスは魔眼の射程次第では一方的に攻撃を受けることになると言った。

 一対一で倒せる相手ならいいけど、魔眼なしの相手の強さに関する記述がないんだよな。


「これは通路の曲がり角を上手く使う必要がありそうだな」

「あと一つ眼はソラに頼むとか? けどそれだとソラに負担がかかり過ぎるか。三つ眼だって一つ眼の魔眼を使ってくるわけだし」

「……ソラ、幻惑だけでも防げる魔道具を作ることは出来ませんか?」


 幻惑を防ぐ魔道具か……。

 創造のリストにはあるけど材料がない。

 ドライアドとアルラウネから獲れる素材が必要みたいだ。

 一応鬼人から獲れる素材の鬼人の眼を使えば作れるみたいだけど、一応ギルドに在庫があるか聞いてみるか。

 それと商業ギルドの方に取り寄せられるかも聞いてみるかな? 今回は間に合わなくても何処かでまた使うこともあるかもしれないし。


「ここで一度探索を終了するのも手かもな。別にすぐに攻略する必要はないんだろ?」


 それはアルゴの言う通りではある。

 一〇階まで到達したという記録は残るから、十分アイテムを揃えてから攻略を再開するのも一つの手だ。


「とりあえず入り口近くで狩りをして、実際どうかをみてからでいいんじゃないか? 最初は俺が一人で戦ってもいいし」


 空間魔法の結界術もあるし、時空魔法の時間停止、さらに転移もあるから余程のことがない限りは大丈夫だと思う。

 あとは状態異常系のスキルに関しては、状態異常耐性があるから効かないと思う。

 もちろん過信はしないけど、この中で試しに戦うなら俺が一番適任であることは間違いないと思う。

 それに使ってくる魔眼が分かれば、そこから参戦してもらえばいい。

 一つ眼と二つ眼は魔眼を一種類しか使えないわけだから。


「そのやり方だと、魔眼を使わない個体にあたったら大変だけどな」


 アルゴが苦笑しながら言った。

 ただ俺ならソロでも大丈夫だろうとは言ってくれているから、それなりに信頼はあるのだと思う。

 結局話し合いはここで終わり、一日休みを入れてから一〇階に行くことになった。



 一〇階。まず下りて確認するのはMAPが正常に機能するかだ。

 ……うん、大丈夫だ。気配察知と魔力察知を使えばしっかりMAP上に魔物の反応も表示される。

 人の反応は……なしだ。

 また魔物の分布だけど、階段近くの反応は単体で動いているものばかりだ。


「なら近場から回っていくか。ギルにルリカ、ヒカリも周囲の警戒を頼むぞ」


 アルゴの言葉にギルフォードたちは頷く。

 MAPで魔物の反応はある程度分かるけど、それに頼り過ぎるのも危険だから毎度のやり取りだ。

 俺たちは警戒しながらダンジョン内を進み、やがて一番近い反応の近くまでやってきた。

 この角を曲がれば鬼人がいる。


「凄い存在感ね」


 ルリカの言葉にクリスとミアも頷いている。

 確かに察知系のスキルを使っていなくても、何かがいることがひしひしと伝わってくる。

 俺は盾を構えると、自身に結界術のシールドを自身に使う。

 いや、これは俺だけでなく皆にもかけておく。

 ついで気配遮断と隠密を使う。

 ミアは補助魔法を使ってくれた。


「それじゃ行くぞ」


 俺は覚悟を決めると一歩踏み出した。

 俺一人が通路に出ると遠くに鬼人の後ろ姿が見えた。

 まだこちらには気付いていない。

 俺はそこでファイアーストームを使うと、通路内を這うように炎が突き進み、目の前にいた鬼人を呑み込んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る