第665話 鬼人・1

 一〇階。ズィリャダンジョンの最下層にして、狩りをする者が殆どいない階層。

 あの漆黒でさえあまり手を出していない。

 記録を遡れば、ここ三〇年の間に一〇階のボス部屋を攻略したパーティーは僅か四組しかいないという話だ。それが多いのか少ないのかは分からないが、九階を攻略したパーティーの数を考えると少ないみたいだ。

 この一〇階に出る魔物は鬼人と呼ばれている。

 このダンジョンでしか存在が確認されていないという話だ。

 この鬼人の一番の特徴といえば角、と言いたいところだけど眼だ。一つ眼の個体もいれば、三つ眼の個体もいる。人と同じように二つ眼の個体も存在する。

 中でも特殊個体と呼ばれる鬼人は魔眼を持っていて、様々な特殊能力を使ってくるということだ。

 この魔眼が厄介で、それゆえここでの狩りは敬遠されている。

 魔眼はどんな効果があるか使われるまで分からないからだ。


「それでもおおよその分類は出来ているみたいだな。過去の冒険者たちに感謝だ」


 それはアルゴの言う通りだ。

 一応ギルドに残された資料には、目の数で魔眼の能力がある程度決まるという記録が残っている。

 一つ眼は状態異常。

 二つ眼は放出系。いわゆる攻撃系スキル?

 三つ眼は特殊系。これは一つ眼と二つ眼の両方の特性を持っている者もいるし、まったく別物の魔眼を使う者もいる。


「あと厄介なのが身体能力の高さか? ロード並みの身体能力って話だ。しかも体の大きさは俺らと変わらないって話だな」


 感覚としては魔物と戦うというよりも対人戦に近いようだ。

 使う武器も剣から槍、斧、盾、弓と個体によって違うみたいだ。

 しかも使う武器の中には魔法武具もあるということだ。

 ただその魔法武具は倒しても手に入らない。

 鬼人は死ぬと角、眼、魔石のどれか一つを残して死体も残さず消えるという。

 この素材はどれも高額で取引されて、中でも魔石は重宝される。眼も錬金術ギルドには人気だそうだ。

 それにもかかわらず狩る人が少ないのは、それだけ危険が多いということでもある。


「なら出来るだけ少数で行動してる奴らを探すのがいいか?」

「それが無難だな。あとは一〇階もソラのMAPが機能してくれることを祈るばかりだ。ソラとミアがいるから狙い目は一つ眼の個体だが、こればかりは選べないからな」


 確かにダンジョンによってはMAPが機能しないということもある。

 ズィリャダンジョンにおいては今のところそういうことはないけど、一〇階も同じようにMAPが使えるかは実際に行って確認しないことには分からない。


「けど討伐数は五〇体なんですね」

「そうみたいだ。だからこそ逆に難易度の高さがうかがえるな。討伐数が少ないにもかかわらず狩る奴が殆どいない。まあ、一〇階のボスが強過ぎるってのもあるかもしれないがな」


 クリスの言葉にアルゴは溜息を吐いた。

 クリア報告が少ないのはボスが強いからというのもあるか。

 それこそここのダンジョンにはセーフティーゾーンがある。

 戦ってみて無理だと判断したら、その後行かないという選択肢が生まれる。

 再挑戦をする人はいると思うけど、セーフティーゾーンがあっても、絶対に安全が保障されているわけではないからな。いや、セーフティーゾーンに入れば安全だけど、引き際を間違えて死ぬなんてこともゼロではないから。

 俺はボスに関する資料から目を離し、魔眼についておさらいする。

 一つ眼の状態異常は主に麻痺や呪い、認識阻害と幻惑という厄介なものだ。麻痺と呪いは特に動きを阻害するという効果が似ているため初期症状だとどちらにかかっているか分からないみたいだ。

 しかも即効性のものもあれば、徐々に症状が出るものもあるため、後者はさらに気付きにくい。

 認識阻害と幻惑も似ていて、認識阻害は相手が何者か分からなくなり、幻惑は視界に入った者が襲ってくるという強迫観念に襲われることもあるみたいだ。厄介度でいえば後者だ。認識阻害だけなら襲ってきたものだけに対処すればいいからだ。

 またこの状態異常にはレベルが存在し、重ね掛けされることで状態異常の重症度が上がるみたいだ。重症度が上がると治療するのも大変で、例えば二回麻痺を受けたら、麻痺の治療薬を二回服用する必要があるみたいだ。

 高品質な解毒薬一つで回復とはいかないようだ。

 アルゴが狙い目と言ったのは、俺の鑑定と、俺とミアが使えるリカバリーがあるからだろう。

 特に鑑定で状態異常にかかったのが分かるのが一番大きな理由だ。

 その都度回復させればいいのだから。


「こっちの放出系はちょっと厄介だな。どうも資料を読むと、魔法ってよりもヒカリの嬢ちゃんが使う斬撃に近い感じか?」


 確かに資料を読むとそんな感じを受ける。

 眉間に皺を寄せたギルフォードが、食い入るように資料を読んでいる。

 俺も目を通すと発火や電撃系の攻撃を受けたような記述もある。

 剣を交えた瞬間体が痺れて動きが止まったとかそんな記録も残っている。

 魔法だと魔力の動きでスキルの発動を予測は出来るけど、ヒカリの斬撃と同じだとそれを知る術はない。

 仲間が使う分には心強い攻撃も、敵が使うとなると厄介極まりない。

 唯一の救いは、一個体に一つの攻撃手段しかないという点か? これは一つ眼の個体も同様だ。


「……一番の問題はこの三つ眼の個体ね」


 ルリカは言いながら何故か俺を見た。

 それにつられるように他の面々も何故か俺を見てきた。

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