第663話 森の中での一幕
久しぶりに訪れたエリルは見違えて栄えていた。
それと同時に物々しさも増していた。
物々しく感じるのはその防壁のせいだろう。
ここは一度エレージア王国の間者から攻撃を受けたという経緯もあるから、余計に厳重になっているのかもしれない。
まあ、魔人たちが多く在住するここを攻めようという酔狂な人がいるかは別だけど、ここにはエルフの人たちもいるから仕方ない。
俺たちがエリルに転移すると、モリガンから話が町の人に伝わっていたのかちょっとしたお祭り騒ぎになった。
歓迎されたというのもあるけど、それを口実に騒ぎたかったというのもあったかもしれない。
それでも久しぶりにモリガンやエリスに再会して嬉しそうなクリスたちを見て、俺は来てよかったと思った。
その翌日。俺たちは町を出て森の中にいた。
俺たちだけでなく同行者もいて、エリスや子供たち、また護衛の魔人たちと結構な大人数になった。
一つはダンジョンや町に籠っていて自然を感じたかったというのもあるけど、久しぶりに薬草採取をしたいと思ったからだ。
気晴らしもあるけど、一応ポーション類を補充しておきたいというのもある。
特にマナポーションを。
あ、それとせっかくエリルに来たから、そこに出来たギルドで、魔物の処分もした。
ロードを出した時は驚かれて、何処で狩ったかも聞かれたから正直に答えておいた。
ただ俺たちが売ったということは内緒にしてほしいと頼んでおいた。
一応俺たちは今ズィリャの町にいることになっているからだ。
「ソラ、この辺りに薬草がいっぱい生えているんだ!」
子供たちに案内されて到着した場所は、森の中に出来たちょとした広場だ。
確かに草花が咲き乱れていて、そこに薬草の群生地らしき場所もある。
俺と一緒に薬草採取に勤しむ子供もいれば、エリスたちの手を引いて花が咲いている場所に向かう子供たちもいる。
俺はいつものように鑑定は使うが、ゆっくり採取していく。
話し掛けてくる子供たちの声に耳を傾けて相槌を打ち、俺たちが何をしていたかの質問に対しては旅の話をした。
「けど良質な薬草が多いな」
思わず呟いた言葉に、ここはスイレンたちが定期的に訪れて薬草類を育てていると胸を張って言ってきた。
そんな場所で採取していいのかと思ったら、こういう場所は町の近くに複数あるということだった。
「あ、ソラ。そろそろ食事の準備をしたいから、調理場を作ってもらっていい?」
二時間ほど集中して採取していたら、ミアがやってきた。
食事という言葉に子供たちが顔を輝かせる。
俺は草花のない場所を選んで、そこで土魔法で地面を整えた。
すると早速料理が始まるが、興味津々な子供たちにミアは囲まれた。
「一緒に作る?」
ミアが尋ねると満面の笑みを浮かべて頷いている。
「それじゃ、私がカットした物を串に刺していってもらえるかな?」
ミアが目で訴えてきたから、俺は頷いて串を出していく。
「やり方はソラに聞いてね?」
「ミア姉ちゃん大丈夫だよ。俺たち出来るから!」
「そう? ならお願いね」
なら俺も串に刺すための材料を切るか。
肉にピーマン、玉ねぎと野菜を切っていくが、子供たちは手を動かさない。
子供たちが作業を開始したのは、串用の材料を全部切り終わってからだった。
バランス良く作るためかな?
「ふふ、個性が出ているよね」
別の料理を作りながら、ミアが出来上がっていく肉串を見ながら言う。
うん、いつの間にか混ざっているヒカリが肉オンリーの串を作り上げていく。
子供たちに野菜も入れないと駄目だよと指摘されると、肉の種類が違うから大丈夫だと熱弁を始める。
それを聞いた子供の中には、まるで天啓を受けたかのように同じようなものを作り出す子もいる。
さらにヒカリは一つ一つ味付けを変えればさらにいいとタレと塩コショウなど、一つ一つ肉の味付けを変えていく。
さらに子供たちのテンションが上がっていく。
うん、見なかったことにしよう。
ミアも気付いたようだけど苦笑するだけで指摘しない。
ま、楽しそうだし。
それに普段からこんな風に料理をすることもないだろうし、特別な日ぐらいは許して欲しい。
料理が出来上がる頃にはクリスたちも合流して、その頭には花で作った冠をしていた。
ワイワイ騒ぎながら食事をして、それが終わると二組に分かれた。
一つはここの広場でのんびりする組。主に子供たちが昼寝をするのを見守るといった感じだ。
もう一つは森の中に入って果実や木の実を探す組。
俺はこちらの組に入って、ヒカリやミアが同行している。
クリスたちは待機組で、子供たちを見守りながらエリスとゆっくり過ごすようだ。
「ヒカリちゃん、あんまり無理させないでね」
森の中の子供たちはヒカリを先頭に果実や木の実を回収していく。
ヒカリがひょいひょい木に登るものだから、子供たちも挑戦している。
俺を含め大人たちが見ているからいいものの、結構無茶な登り方をしている子も多い。
余程の重症じゃなければミアがいるから大丈夫だけど、見ていてハラハラする。
「……ならコツを教える」
そして木登り教室が始まり、今まで苦戦していた子たちもすいすい登っていく。
ヒカリの教え方がいいのか、子供たちの身体能力が高いのか……きっと両方なんだろうな。
その後はたくさん果実の生っていた木を見つけたため、そこで果実を採ったら少し森の中を歩いて回り、日が暮れる前にエリルまで戻れるようにクリスたちと合流した。
そして翌日、昼過ぎまでエリルで過ごした俺たちは、ズィリャの町へと転移で戻ってきた。
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