第662話 ズィリャダンジョン・26
「かなり歩いたが、今どの辺りにいるんだ?」
九階に降りてきて、今日で九日目になる。
未だ五〇〇の討伐数を達成することが出来ていない。
残り八八体。一〇〇は切っているが、初日のように一気に数を狩れた日はない。
それを考えると、あのロードの集団を狩れたのはかなり幸運だったのかもしれない。
「だいたい真ん中あたりか?」
ⅯAPで見ると、階段と端の壁の中間地点にいる。
ちょうどその近辺をグルグル回っている感じだ。
意図して回っているというよりも魔物の反応を追った結果こうなってしまった。
「魔物が居て、人が近くにいない場所ってのはあるのか?」
「あるにはあるが……」
今俺たちがいるところは、ⅯAPで言うと北東方向になる。
アルゴの求めている魔物がフリーでいる場所は、南西正方向と真逆に位置している。
人が近くにはいないけど、宝箱探索をしていると思われる一行の反応がある。
もし彼らが階段目指して戻って来ると、たぶん魔物と遭遇する。
それを聞いたアルゴは腕を組んで黙ってしまった。
「いっそ一度町に戻る? 別に一度の探索で五〇〇体狩る必要もないんだしさ」
それはルリカの言う通りだ。
それに疲れの色も見えてきた。
これよりも長い時間ダンジョンにいたことはあったけど、ここは色々な魔物が出るため結構神経を使い消耗している。
特に今までの階が単一種族で統一されていたため、それに慣れてしまっていたというのもあるかもしれない。
「ルリカの言う通りだな。一度階段目指して行くか? その途中で近場に魔物が現れるようなら、そこで狩ればいいしな」
そう結論を出したアルゴに、俺たちは頷いた。
結局二日かけて階段まで戻ったが、その間に狩れた魔物はたったの五体だった。
「はー、空気がおいしい」
地上に出ると、ミアが大きく息を吸い込んだ。
別にダンジョン内の空気が淀んでいるというわけではないけど、やはり日の光が気持ちいいのだろう。
宿に戻る前に、俺たちはギルドに寄って不要なものを売却する。
連れていかれたのが倉庫なのは、俺たちが解体しないでまるまる売るのを向こうも理解しているからだ。
今回倉庫に出したものの中には、他の階で狩った魔物の死体もある。
また売った中にはオークの死体も入れておいた。
ちょっと供給量が少なくなったらしく、買取価格が上がっていたからだ。
お金には困っていないけど増える一方だし、上位種をそれなりの数狩れているから残すのはそちらにした。上位種の方が美味しいし。
別に供給量が少なくなっているのはたまたまかもだし、わざと供給を止めて吊り上げているのかもしれない。
ま、その辺りの事情は俺たちには関係ないか。
清算が済んだら、俺たちは真っ直ぐ宿に戻った。
そこで風呂に入ってリフレッシュだ。あ、宿代も払っておかないとだ。
基本宿は何日泊まるかで前払い方式だ。
ダンジョンに入る時はパーティーによっては一時支払いを止めるところもあるけど、俺たちはその間も借りている。
やっぱりダンジョンから出てきたらゆっくり休みたいからだ。
宿が決まっていないと、宿探しからしないといけない。
それに長いこと利用しているから、宿の人の好意で不在の時は部屋代だけにしてくれている。
食事をすることがないから、その分は免除されている感じだ。
それは普通では? と思うが向こうの世界とこちらの世界では色々ルールが違う。町によっても違うけど、ズィリャはダンジョン街という事情も多少はある。
あとは俺たちが料理場を借りる時に、一緒に料理をして多少なりとも親しくなったというのもあるかもしれない。
味付けや珍しい料理もあるし、それを覚えて近頃は時々宿泊客に振る舞っているという話だ。
しかもなかなか好評だとか?
「それで明日はどうする?」
食事をしている時、アルゴたちから二日ほど休まないかと提案された。
アルゴ曰く、明日は浴びるように飲んで、一日苦しむから二日用意したと言った。
うん、二日酔い前提での提案みたいだ。
ある意味アルゴたちは俺たちのダンジョン攻略を手伝ってくれているわけだし、俺たちにも休みは必要だから反対する理由はない。
ただここだとやることがないんだよな。
特に観光出来る場所もなければ、そもそも外を歩くと変に注目される。
それに俺たちが町の中を歩くと言うと、アルゴたちの方から誰かしらついてくると言ってくる。
そうするとせっかくの休みを台無しにしてしまう。
「何も考えずにゴロゴロ過ごすのもいいんじゃない?」
「ふふ、ルリカちゃんにそれが出来るの?」
「わ、私だって本気を出せば出来るよ」
ルリカはジッとしているのは苦手だからな。
体を動かすのが好きだし、本当だったらギルドの鍛練所にいって模擬戦をしたいと思っているかもしれない。
いや、ダンジョンでは毎日体を動かしていたから、さすがにそんなことはないか?
「……いっそ転移で別の場所にいくか? 宿の人には二日間部屋で休むから食事もいらないって言っておいてさ」
何気なく言った一言は、即採用された。
そのことをアルゴたちに伝えたら、何かあったら困るからアルゴたちは予定通りここに残って飲むと言ってきた。
……何かあった時に二日酔いで大丈夫かという不安は残るが、その辺りはアルゴたちも分かっているから大丈夫だろう。
「あ、それじゃ酒に合いそうなやつをいくつか置いていくよ」
別に酒の肴のために作ったものじゃないが、これなら合いそうだというものをいくつか置いていくことにした。
それが終わったら次にすることは何処に行くかだが、満場一致でエリルに行くことになった。
モリガンに連絡を入れたら、今そこにいるらしいからだ。
「……アルゴに言うべきか?」
とルリカたちに尋ねたら、
「んー、別にいいんじゃない? 会いに行こうと思えば行けるのに私たちに付き合ってくれてるのは、きっと踏ん切りがつかないんだと思うし」
という答えがルリカから返ってきた。
その辺りの事情に疎い俺は、ただ従うのみ。
その後転移用の魔道具を作って設置したら、その日のうちに俺たちは元遺跡のあった場所で、黒い森の中で生活していた人たちが移住して出来た町エリルへと転移した。
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