第660話 ズィリャダンジョン・24

「ソラ、周囲に人はいないんだよな?」

「ああ」

「ギルも間違いないな?」

「ああ」

「なら……クリス頼む」


 アルゴの言葉にクリスは頷くと魔法の準備を始め……精霊魔法を放った。

 通路を埋め尽くす炎が前方に進んで行く。

 その進路上にいた魔物の反応が次々と消えていく。

 そこにさらにクリスは魔法を追加する。

 今度使ったのは風の精霊魔法だ。

 風は炎を強め、激しく燃え盛る。

 その熱量に俺は水の膜を張って仲間たちを守る。

 やがて炎が消えた後に残ったのは三体の反応のみ。

 右からオーガロード、オークロード、そしてデーモンロードの三体だ。


「よし、それじゃ話し合いの通り行くぞ!」


 俺は頷くと駆け出し、挑発を使う。

 俺が受け持つのはデーモンロード。ミアと二人で相手をする。

 オーガロードはアルゴたちパーティーとクリスが、オークロードはヒカリたち三人が担当する。

 クリスがアルゴたちの方に行くのは魔法を使えるからだけど、今は連続で魔法を使ったため回復に努めている。

 俺はデーモンロードを引き連れながら、ライトアローを撃った。

 けどその魔法はデーモンロードが張った障壁で防がれる。

 オークロードがあれだけの魔法の中で生き残ったのは、たぶんデーモンロードが防いだからだ。

 デーモンとオーガなら障壁がなくても高い魔法耐性と耐久力で生き残ったけど、オークロードではたぶん耐えられなかったはずだ。

 決してオークロードが弱いわけではなくて、クリスの魔法の火力がそれだけ強いからだ。

 あとは相性の問題かな?

 そんなことを考える前に、デーモンロードが闇魔法を使ってくる。

 しかしこの魔法は俺には通らない。

 光魔法と神聖魔法でしっかり防御を固めているからだ。

 俺はミスリルの剣に光魔法を纏わせて攻撃するけど、ダメージはそれほど入っていない。

 いや、他の属性に比べれば与えているダメージ量は多いだろうけど、そもそも耐性が高い。

 なら俺たちは二人で引き付けて、先のロードを倒したパーティーからの援護を待つのか?

 というと、そうでもない。

 デーモンロードの攻撃を俺が防いだ瞬間、ミアが槍でデーモンロードを突いた。

 デーモンロードは障壁でそれを防ごうとしたけど簡単に貫く。

 さらに槍の先端はデーモンロードの脇に深く突き刺さった。

 悲鳴が上がり、ミアを攻撃しようとするけどミアは槍を手放し離脱した。

 どうやら抜こうとしたけど深く突き刺さって抜けなくなったようだ。

 普通の冒険者なら武器を手放すなんてことは簡単にしないけど、俺たちには関係ない。

 それが無限に続くと無理だけど、予備はそれなりにあるからね。

 実際ミアはアイテムポーチから新しい槍を取り出すとそれを構える。

 穂先が白く輝くのは、祝福をかけているからだ。

 そして今のミアを注意して見ると、その頭には耳が乗っている。

 獣人化している。

 以前は神聖魔法を使いながらの獣人化は無理だったけど、ダンジョン探索の間も練習してそれが出来るようになっている。

 デーモンロードの障壁を破り、肉体深くに槍を突き刺したのは獣人化して身体能力がかなり上がっているからだ。

 そして俺たち二人でデーモンロードと戦うことになったのも、そんなミアがいるからだ。

 戦いは時間の経過と共に熾烈を極めた。

 デーモンロードの体からは七本の槍が生え、今八本目の槍をミアがアイテムポーチから取り出した。

 俺はメインの攻撃こそミアに任せているけど、隙をみては斬撃を放ち、デーモンロードの注意を引き、魔力を削っていく。

 デーモンロードも反撃をしてくるけど、物理攻撃は俺が完全に受け止め、魔法も完封する。

 やがて九本目の槍がデーモンロードを貫くと、ついに力尽きた。

 ただそれと同時にミアも膝を突き、深呼吸を繰り返している。


「うー、疲れた」


 見れば額に汗は滲み、髪の毛が張り付いていた。

 俺もそれなりに汗をかいているけど、ミアほどはかいていない。動きの差かな?

 べ、別に俺がサボっていたわけではないぞ?

 俺が洗浄魔法をかければ、ミアは吐息を漏らした。


「他の人たちは?」

「ルリカたちはオークロードを倒して、今はアルゴたちと一緒にオーガロードと戦ってるよ」

「……いつから?」

「結構前からかな?」


 俺の場合は見ていたというよりも気配察知で反応が消えたのが分かったからだ。

 並列思考を使えば様子はうかがえたかもだけど、さすがに二人だけでロードと戦っていたからそんな余裕はなかった。


「早く終わったらなこっちを手伝ってくれてもよかったのになぁ」

「それはちょっと難しいかな。ミア、あんまり周囲を見る余裕がなかっただろう?」

「……確かにデーモンロードに集中していたかも」


 ルリカたちはミアの動きを見て、下手に近付くと巻き込まれると思ったんだと思う。

 あの速度でルリカが下手に疾風を使ったりしたら、激突してもおかしくないと思った。


「そっか。確かに周囲を見る余裕までなかったかも」


 今回は獣人化しながら神聖魔法を使っていたから、他に割く余裕がなかったみたいだし仕方ない。

 むしろその二つを同時に行使出来るようになったことが凄い。

 今まで出来なかったわけだから。


「とりあえずクリスのいるところまで移動するか。歩けるか?」


 今はいないけど、魔物が沸くこともゼロではないからな。

 ミアが頷いて立ち上がると、俺たちはゆっくりとクリスの元へ向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る