第659話 ズィリャダンジョン・23

 九階に行ってまずやったことはMAPの確認だ。

 人の数も多ければ魔物の数も多い。

 けどそれ以上に気になるのは、複数の反応だ。

 特にMAPの右上の方の反応……他と比べても大きな反応が三つ固まっている。

 ……間違いない。これは上位種の……キングかロードの反応だ。

 キングとロードを複数同時に相手にしないといけない?

 しかもその周囲には他の魔物の反応もある。

 魔力を流してMAPの範囲を広げると、他にも二カ所キングかロードの反応がある。一つは単体で移動して、もう一つは取り巻きを連れて移動している。

 資料だと確率低いとあったけど……放置されている?

 またダンジョンの端の方に人の反応が結構ある。

 ここのダンジョンは下の方に行くほど広がっていく。

 八階だと歩いた感覚的に、端まで行くのに三日はかかる。

 もちろん真っ直ぐ歩き、尚且つ休まないで一日中歩いたら、の距離だから実際はもっとかかると思う。

 ダンジョン内は迷路のようになっているし、歩き続ければ体力も減るし、魔物だって出る。

 それなのに外周部の方まで移動するのは、宝箱の存在があるせいだろう。

 嘘か本当かは分からないけど、宝箱は回収されない時間が長くなるほど貴重な物が出やすいという噂がある。

 あとは他の人が行かない場所に行けば、それだけ宝箱がある確率も増えるらしいから、それを狙ってわざわざ遠くまで行くパーティーがいるとアルゴは言っていた。

 だいたいそういう人たちは人数が多い。

 例えば一番離れているところの人の反応は五〇人いる。

 たぶんクラン漆黒だろう。

 野良の複数パーティーが合同で行くなんてなったら、宝箱を見つけた時に分け前で揉めそうだから。

 それに漆黒ほどの大きなクランなら、アイテム袋とか持ってそうだしな。

 この辺りは宝箱からレアを狙うか、ボス部屋を周回するかで意見が分かれそうだけど、宝箱をわざわざ探しているところを見ると、宝箱の方が旨味があるのかもしれない?


「とりあえず右方向……あっちの方に行くとロード級三体がいる。ただそれを知ってか人がいないから、魔物の討伐数を稼ぐなら狙い目かもしれない」


 俺はMAPで見たことをパーティーメンバーに話した。


「ちょっと悩ましいな。ロードと戦うリスクを負うか、他を回ってコツコツと討伐数を稼ぐか」

「ただ八階みたいにそこに魔物が貯まると厄介だよな。しかも通路も広くなっているし」


 今まではフロア全体が広くなることはあっても、通路の幅が広くなることはなかった。

 それが広くなっている以上、魔物が多くいる場合は一度に戦う数が増えるということになる。


「あー、確かに。けど一番の問題は、あれをここの奴らが意図的に放置しているかなんだよな」

「意図的に?」

「ああ、例えばわざと放置して集団を大きくして、ギルドからの緊急依頼を待つとかかな? 報酬目当てにな」


 サイフォンに昔聞いたことがあった。

 わざと放置して報酬を吊り上げるとかいうやつか。


「大人は汚い」


 ヒカリのストレートな言葉にアルゴが苦笑している。


「それじゃ放置した方がいいのか?」

「んー、狩っちまうか。どうせ俺たちはここに腰を据えて狩りをするわけでもないし、わざと放置していてそれを狩られても表向き文句は言えないだろうからな。仮に言ってきても新参者だし知らなかったで通せばいいだろう」

「こっちにも悪い大人がいる!」


 けどヒカリは口元に笑みを浮かべている。


「それにクリスがいれば物量はあまり関係ないからな」

「うちのクリスは優秀だからね」


 アルゴの発言にルリカがうんうんと頷いている。

 褒められたクリスは頬を赤らめてちょっと恥ずかしそうだ。


「ということで、ソラ、案内よろしくな」


 俺は頷くと、MAPを確認して魔物たちのいるルートを探す。

 複雑に入り組んでいると結構目が疲れるんだよな。

 あ、こっち行き止まりだ。あ、こっちは元の道に戻るのか。

 悪戦苦闘しながらルートを探すこと五分。やっと俺は歩き出した。

 MAP上の迷路は印をつけることが出来ないから、記憶スキルがなかったらもっと時間がかかっていた。



「今度はゴブリンか……。ソラ、頼んだ」


 俺は向かってくるゴブリンに対して魔法を放つ。

 ファイアーストームに巻き込まれた二三体のゴブリンは炎の渦に巻き込まれ、炎が消えた後には塵一つ残らず消滅していた。

 ゴブリン、オーガは俺とクリスがそれぞれ魔法で倒し、オークはアルゴやルリカたちが、デーモンはミアを中心に皆で狩っている。

 魔物は一体、二体でいる時もあれば、時々今みたいに団体でいる時もある。

 魔法で簡単に倒せるならいいけど、そうでないと大変だ。

 ちなみにオークも魔法で倒せるけど、そこは食料になるということで回収している。

 稼ぎの効率としては悪いけど、魔石を売ったお金で十分元は取れている。

 俺たちでお金がかかるのは基本食料だけで、ポーション類は殆ど使わない。

 負傷したら俺とミアがヒールで治せるし、装備品に関してもアルゴたちは自分たちで整備しているけど、俺たちパーティーの分は俺が錬金術で修復しているからね。

 日々の細かい整備は各自やっているけど。

 そしてダンジョン探索から二日後。俺たちは上位種三体が集まっている場所へと到着した。


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