第657話 ズィリャダンジョン・21
翌日の午後。俺たちはダンジョンを訪れていた。
今日の目的はボス部屋の突破だけど、珍しく待っている人が多くいた。
その中には昨日ダンジョンで助けた人たちもいれば、俺たちが道を塞ぐオーガたちを倒しにいく直前に合流した人たちの姿もあった。
ちなみにパーティーメンバーから死傷者が出たところは、ここにはいないようだ。
人数が減った状態でボスに挑むのは無謀だろうし仕方ない。
このまま冒険者を辞めるのか、新たにパーティーを組んで続けるのかは分からない。別の町に移動してそこで活動する人だっているかもしれない。
俺は果たして仲間の誰かが命を落とした時、どうするのだろうか?
あまり考えないようにしていたことを、昨日の死の現場を見て頭を過った。
いや、そんなことにならないように立ち回ればいいだけなんだけど、そのためにも歩いて、スキルを覚えて、といきたいところだ。
もっともスキルを覚えるにしても、選択肢が多過ぎて何を習得すればいいのか迷うのは困ったものだ。
こんなことを誰かに相談したら、なんて贅沢な悩みだと言われそうだ。いや、絶対に言われる。
はあ、今は余計なことを考えるのは止めよう。
まずはここのボスを倒すことが先決だ。
「結構待ってるな。ひとまず予約だけしておくか」
俺が物思いに耽っていると、アルゴが手続きをしてくれたようだ。
画面を見ると、画面には六つの名前が並んでいる。
現在戦っているパーティーと、ここにいる五つのパーティーといったところか。
七階は閑散としていたけど、八階はそれなりの数のパーティーが狩りをしていたからな。
この辺りの階になると、ボス部屋を攻略するのにどれぐらい時間がかかるのだろうか?
誰かが残って、他の人は宿で休んでいた方がいいかな?
「あの……」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。
「よかったら先にどう……ですか?」
と順番を譲る申し出をしてきた。
しかも一つだけでなく、複数のパーティーからその言葉をもらった。
「いいのでしょうか?」
「いいんじゃないか? 昨日の礼だって言ってたしよ。あとは……たぶん俺たちがどれぐらいでボス部屋を攻略するのか興味があるんじゃないか?」
恐縮するクリスに、アルゴが言った。
そんな理由で? と思ったがどうやら図星みたいだ。
アルゴは特に声を抑えて話していないから、部屋にいる冒険者たちにも聞こえていて、苦笑したり困った顔をしていた。
それでも待ち時間がなくなるのはいい。
あ、一番上の名前が消えた。
どうやら攻略が終了したようだ。
二番目に待っていたパーティーが扉の中に入って消えて行った。
それは昨日のダンジョンにはいなかったパーティーだ。
俺たちはその次に入る予定だ。
とりあえずどのぐらいで終わるかな?
待っている時間は暇だから話していると、部屋にいる冒険者が話し掛けてきた。
主に話をしていたのはアルゴたちだけど、話を聞いている分には他の国にいるような普通な冒険者といった感じだ。
助けられて恩を感じての対応なのか、これが元々なのかは分からないけど、帝国の全ての人間が傲慢で高圧的ではないようだ。
いや、頭では分かっているよ? 実際アルゴたちも帝国出身でも普通の気のいい人って感じだし。
それでもクリスたちから聞いた帝国の影響と、やはり実際に初めて会った帝国の冒険者の印象がどうしても頭に残っている。
エーファ魔道国家に行く途中で会った四人組の帝国の冒険者。どうしようもない奴らだったな。
俺は溜息を一つ吐くと、そのことを頭から追い出してここに来る前に話したことを思い出した。
一応八階のボス部屋に入ってからどう戦うかの作戦だ。
……普通に考えれば作戦というほどのものじゃないな。
とりあえず魔物が出現したら、俺とクリスが範囲魔法で先制攻撃を仕掛ける。
その魔法で生き残ったものがいたら、それを狩る。以上だ。
実にシンプルだ。
七階みたいに取り巻きを倒してもオーガロードは強化されないみたいだし、何も考えないで戦うことが出来る。
下層階にもかかわらずボス部屋を利用するパーティーがいるのは、狩りやすいというのもあるからだろうか?
「へえ、徐々に強くなるね」
「ああ、俺らの感覚だから間違っているかもしれないが、定期的に表れる取り巻きの強さが、現れるごとに強くなっているような気がするんだ。まあ、長期戦になるから俺らも疲れるからそう感じるだけかもなんだけどな」
考え事をしているとそんな会話が聞こえてきた。
「お、終わったみたいだぞ」
アルゴの声に顔を上げると、確かに先のパーティーの人の名前が消えて、一番上にアルゴの名前が表示されている。
「それじゃ行くか?」
俺は頷き立ち上がる。
待った時間はだいたい二時間半といったところか?
別に討伐する時間を競うわけじゃないから、気にする必要はないが、少なくとも八階で狩りをするような人たちでもそれだけ時間がかかるというのは、オーガロードは耐久力が高い魔物なのかもしれない。
「アルゴ、さっきの会話だけど、ちょっと確認したいことがあるからそれが終わってから魔法攻撃をするのでもいいか?」
「気になることか? まあ、いいんじゃないか?」
ギルフォードたちも構わないということで、魔法を放つ前に鑑定を使い、俺は魔物のレベルを確認するのだった。
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