第656話 ズィリャダンジョン・20
オーガの数が多いとはいえ、冒険者たちも八階までくることが出来た猛者揃いだ。
戦いの火ぶたは切って落とされたが、冒険者有利に戦いは進んでいる。
ⅯAP上ではオーガの反応が一体、また一体と消えていっている。
しばらくすると、冒険者たちの二倍近くいたオーガの数も、同数近くまで減っていた。
オーガの数も冒険者が攻撃を仕掛ける頃には、一五〇体近くまで増えていたのにもかかわらず、だ。
この調子でいけば冒険者の勝利で終わる。
そう思った時、冒険者の反応が一人消えた。
「どうしたの?」
俺の反応を見たミアが心配して聞いてきた。
「……一人消えた」
その意味するところは一つ。オーガに倒され、死んだということだ。
ミアもそれが分かったから息を呑んだ。
顔も知らない相手だけど、心に響くモノがある。
ただ、これは始まりでしかなかった。
一人、また一人と消えていく。
その消えた反応の近くには、一際強い魔物の反応があった。
やがて一二の反応が消えたところで、冒険者側の敗走が始まった。
物凄い勢いでオーガたちから離れていっている。
それに対して、オーガは深追いしない。
こうして冒険者とオーガの戦いは終了した。
被害の度合でいえば間違いなくオーガの方が大きかったが、勝ち負けでいったらオーガ側の勝利だろう。
だって冒険者たちは目的を達成することが出来なかったわけだから。
「アルゴさん、どうするの?」
俺がⅯAPで見た結果を告げると、ルリカがアルゴに尋ねていた。
「俺たちで倒すにしても、一度奴らと接触した方がいいな」
「今戦っていた冒険者たちと?」
「ああ、仮に相手が変異種だった場合、情報はあるにこしたことがないからな。情報を渋って出さないってことはないだろう。奴らとしても倒してくれるならありがたいと思うだろうしよ」
冒険者を撃退するほどの相手だ。ただの個体とは考えていないようだ。
それこそ思いもよらぬ攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
一番厄介なのが、そんな特殊な攻撃は何一つない場合だ。
それって純粋に、そのオーガ自体が強いってことだからだ。
俺たちが件の冒険者たちと合流した時、ダンジョン内の通路は重苦しい空気に包まれていた。
心が折られ、最早死を待つだけといった感じで横になる人がいれば、傷付き苦しんでいる人もいた。
どうやらアルゴの言った通り、回復させるための消耗品が尽きていたみたいだ。
なかでも一番酷いのが毒を負った人たちだ。
毒? オーガが毒攻撃を?
と思っていたら、冒険者たちから一体色違いのオーガがいて、そいつの攻撃を受けた者が毒を受けたと言う。
俺とミアで負傷者たちを回復させ、とりあえず水を渡した。
それを受け取り休むと、どうやら落ち着いたようだ。
「しかし毒か……確かにここだと備えがないかもな」
アルゴもその予想外の攻撃に驚きを隠せないでいる。
ここのダンジョンにはマジョリカのダンジョンと違って罠がないから、階によっては持ってなくても不思議ではない。
七階や九階、デーモンの出る階層なら持っていないと駄目だけど、オーガは状態異常の攻撃なんてしてこないから、状態異常の回復ポーションを持っていなくても不思議ではないかもしれない。
「しかし特殊個体か、レッドオーガよりも強いらしいし、しかも指揮も執るみたいだし厄介だな」
その指揮の仕方も大胆で非情だという。
アルゴが冒険者たちから聞いた話だと、最初は順調だったらしい。
ただこれは誘導されていたと今冷静に考えると気付いたという。
オーガを次々に倒していって調子にのり、奥深くまで誘導されたところで反撃にあったそうだ。
それは普段なら見落とさなかったであろう、通路脇からの不意打ち。
動揺し、そこで陣形が崩され、敗走したということだった。毒による攻撃も混乱に拍車をかけたみたいだ。
「それでどうする?」
「特殊個体がいても戦い方は特に変わらないんじゃないか? 毒攻撃も俺たちにとっては大した脅威にならないし」
クリスと俺の範囲魔法で殲滅してもいいし、遠距離攻撃の手段は色々揃っている。
「戦うのか?」
「ま、帰るには戦うしかないしな」
俺たちの話を聞いていた冒険者たちは、驚きの表情を浮かべた。
それは俺たちが新参者だからなのかもしれない。
「……行くなら少し待ってくれ。俺たちも協力する」
その申し出に俺は困惑する。
相手の力量も分からないし、信用していいかというのが一番の本音だ。
「ま、邪魔をしなければいいぞ。それに、たぶん出番はないだろうからな」
ただアルゴはあっさりと答えた。
そんなアルゴの言葉に、今度はそれを聞いた冒険者たちが困惑していた。
結果から言うと、特に苦戦することもなく戦闘は終了した。
特殊個体を見たが、色が黒かったな、という印象だった。
オーガたちが視界に入ったら、とりあえず遠距離から魔法を放った。
俺とクリスが交互に使い、近付くことなくオーガは消えていった。
特殊個体も見えたけど、気付いた時には首が飛んでいた。
「鈍い?」
あっさり倒れたそれを見て、ヒカリの零した言葉が今の一言だった。
どうも様子見で斬撃を飛ばしたら、そのまま死んでしまったらしい。
結局オーガたちは戦闘開始から三〇分もしないで全ていなくなり、俺たちはダンジョンを出た。
それを見ていた冒険者たちは、一言も発することなく、ただその後をついて来ていた。
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