第655話 ズィリャダンジョン・19
俺たちが入り口の方に戻ろうとした時には、入り口周辺は酷いことになっていた。
気付いた時にはオーガの数が一〇〇体近くいた。
「入り口で待ってたらわざわざ探しに行く必要もなかったのかよ……」
そのことを伝えるとアルゴはぼやいたが、その半分以上は俺たちが狩った結果だから何とも言えない。
「俺たちで狩るか?」
誰も狩ろうとしてないから今のところ狩り放題だ。
なかには戻れなくなって孤立したパーティーもいくつかあるみたいだ。
俺たちがその場に行くには、少なくとも二日以上はかかるけど。
それと討伐数は既に達成しているから、無理に狩る必要もない。
これがオークとかなら嬉々として狩る者がうちにはいるけど、オーガの肉は癖があって美味しさで劣る。
美味しく食べる方法はあるけど手間暇がかかる。
あとは処分の方法で困る。
一括してギルドに売ってしまえばいいけど、それはそれで騒がれるかもしれない。
既に二〇〇近いオーガを倒してその素材があるのに、さらに一〇〇となるとね。
いや、素材すら残さず倒したオーガも一定数いるから正確には二〇〇もない。
「ちなみに迂回するルートはあるのか?」
「ない。というか、まるでそれを知っているかのように道を塞いでいる」
まさに入り口に戻れないように通行止めをしている感じだ。
それなら階段から降りたすぐのところに陣取って待ち伏せすればいいと思うけど、不思議とその近くには数体いるだけで多くはいない。
近くといっても階段からはある程度の距離はある。
階段から降りてきていきなり奇襲されることはないと思うが、ダンジョンの謎ルールで、近付けないとか?
「もしかして変異種が出たとか?」
「変異種?」
「ああ、上位種みたいな感じだな。普通の個体よりも知能が高かったり、特殊な能力を持っていたりな。まあ、滅多に遭遇する魔物ではないな。ネームドモンスターみたいな希少種みたいな感じか? ネームドモンスターよりは珍しくもないけど」
……その希少種に一度遭遇したことがあるんだよな。
「ま、難しく考えることはないさ。俺たちが通る時にいたら狩ればいいし、ただそれだけだ」
アルゴは気負った様子もなく言う。
まるで一〇〇体ぐらい、変異種がいようが倒すのは簡単とでも言っているようだ。
「なに、俺たちだけだと難しいが、ソラたちもいるからな。頼りにしてるぜ?」
逆に人が寄り付かない方が、高火力の魔法で殲滅という方法も使えるから、その方がありがたいのかもしれない。
他の冒険者たちと協力となると連携も難しいし、背中を預けるだけの信頼もない。
少しでも交流があれば別だけど、帝国のダンジョンに通い始めても特に誰かと親しくなってないしね。
アルゴたちも昔いた知り合いは、今ここにはいないって言っているし。
だからアルゴたちがAランク冒険者であることが広がらない。
話がまとまると、俺たちは急ぐわけでもなくいつも通りの調子でダンジョン内を歩く。
代り映えしない光景と魔物と出会わないから暇を持て余し、自然と口数が増える。
戦い方の話をする者もいれば、美味しい食べ物の話をする者もいる。モリガンに対する質問をする者もいれば、特に意味のない雑談をする者もいる。
ただ話しながらも周囲への警戒を怠っていない。
近くに魔物がいないのは俺のⅯAPで分かっているし、ルリカやヒカリ、ギルフォードも分かっている。
それでも注意するのは、近場に急に魔物が出現する時があるからだ。
といっても、歩いているすぐ隣に現れるというような、嫌らしい沸き方はない。
そんなことがまかり通れば、夜なんておちおち寝ていられない。
ただ本当にそんな沸き方がしないかと問われると、それは分からない。
少なくとも、今までそのような報告がないってだけだ。
死人に口なしなんて言葉があるからね。
「ソラ、向こうの状況はどうなってる?」
「今のところ戦ってはいないけど、少し動きはあったよ」
「どんなだ?」
「いくつかのパーティーが合流して一緒に行動してる」
「なるほど。ただそれだとどっちに動くか分からないな」
相手の数が多いから、攻められた時に撃退出来るように人員を増やしたか、それとも道を塞ぐオーガたちを協力して倒すために集まったかは、ⅯAPの動きだけだとはっきりしない。
「ん?」
「どうした?」
「集まった中から数人が離れだした」
「……偵察に行ったのかもな」
「偵察に?」
「ああ、これは一戦交えるのかもしれないな。もしかしたら奴ら、食料とか、消耗品に余裕がないのかもしれないな」
アルゴが言うには肉に関しては倒した魔物がいるからいいが、ポーション類の消耗品はそうはいかない。
なかでも一番深刻なのは水だと言う。
「ソラたちは魔法を使って出せるけどよ。魔法使いがパーティー内にいないとそうはいかねえ。それにいても水を出せるとは限らねえし、出来るだけ戦いのために魔力を温存したいって思うのが冒険者心理だ。戦闘中に魔法の使えない魔法使いなんているだけで邪魔になるっていう奴もいるからな。だから魔法使いがいても、水だけはしっかり用意するパーティーは多いんだ。例え水が荷物になると分かっていてもな」
なるほど。ないと生きていけないものだしな。
そしてアルゴの予想した通り、翌日、冒険者とオーガたちの戦いが始まった。
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