第654話 ズィリャダンジョン・18

 レッドオーガが雄叫びを上げた。

 続いて足音が響き渡った。

 レッドオーガを先頭に、オーガ一〇体が突進してくる。

 三メートル近い背丈のオーガが迫ってくると、まるで壁が迫ってくるようで圧迫感が強い。

 けどその壁が、俺たちの元に到達することはなかった。


「はは、一撃かよ」


 炎に包まれ、焼き尽くされたのを目撃したアルゴが乾いた笑い声を上げた。


「……ただこれだと素材も採れません」


 クリスの言う通り、魔石すら残らず消滅した。


「それに今の魔法は魔力を多く使うので、頻繁に使うとなると難しいです」

「ま、それは仕方ない。これだけ威力があるんだからよ」

「それじゃ次はどうやって戦うんだ?」

「そうだな……普通に正面から戦ってみるか?」


 最初はクリスが魔法を試したいということで任せたが、結果は見ての通りだった。


「俺が引き付ければいいのか?」

「いや、それなしで戦ってみようぜ。状況によってはソラを頼れない場面に遭遇するかもしれないからよ」


 七階のボス戦はまさにそれだった。

 その後オーガの集団と何度か遭遇したが、危なげなく討伐数を増やしていった。

 アルゴたちは生き生きしている。

 七階では物理攻撃が通りにくいから我慢の狩りが多かったからか?

 特にアルゴの剣技は鮮やかで、オーガを子ども扱いだ。

 ただギルフォードたちも負けていない。

 一対一になっても危なげなく倒している。

 さすがAランク冒険者だ。その肩書に嘘はない。



 八階に入って五時間。討伐数は一〇〇を越えた。

 ただ順調なのはここまでで、討伐数の更新が止まった。

 この辺り一帯の魔物は全て狩り尽くしたからだ。


「当分歩く必要があるかな」


 俺はMAPで確認した周囲の状況を説明した。


「そうか……」

「ふふ、ソラは嬉しそうだよね」


 俺の言葉にアルゴはげんなりしていたけど、ミアが笑いながら指摘してきた。

 うん、ミアの言う通り嬉しい。

 ただ闇雲に歩いても魔物と遭遇することは出来ない。

 向かった先の魔物の近くに他のパーティーがいれば、彼らが先にその魔物と遭遇し戦うかもしれないのだから。

 暗黙の了解として狩りをしている冒険者の邪魔をしたり、魔物を横取りしてはいけない。

 それを考えると近くに冒険者がいなく、且つ魔物のいる場所を探す必要がある。


「んー、とりあえず今は多くのパーティーが魔物を探すのに動いている様子だし、食事でもしながら様子見をするのも一つの手だと思うけどどうする?」

「……ソラが言うならそうするか。もしかしたら狩りを終えて帰る奴らもいるかもだしな」


 逆に新しいパーティーが来る可能性もあるけど、その辺りは俺たちではどうすることも出来ない。

 それにMAPを見ていると、動かないパーティーもいくつか存在する。

 彼らも時間をずらして活動するのかもしれない。

 ダンジョンの中は常に明るいから、昼と夜が逆転しても気付けない場合が多いからな。それ故にただ単に、今は寝る時間としているだけかもしれない。

 結局食事を摂った後に仮眠を取ることにして、順番に休んでから移動を再開した。


「ソラ、どうだ?」

「うん、さっきよりも動かない人が多いね。ただやっぱり狩りをするなら、離れた場所の方がいいな。こっちのルートを進んだ先は人もいないし、結構な数の魔物が溜まってる」


 入り口に近い場所を拠点に活動する人が多いから、離れれば離れるほど魔物との遭遇率はやっぱり上がる。

 後はダンジョン内で寝泊まりしないで、一定期間を設けて戻るパーティーもいるみたいだ。

 二日前に戻ったと思われるパーティーが再びダンジョンに姿を現していた。

 そのパーティーは入り口近辺から離れることなく、探索している。

 この辺りは素材を持ち帰る手段……アイテム袋などの有無も影響しているようだ。

 オーガの皮膚は鎧で使うことがあるみたいだしね。

 そして歩くこと二日半。俺たちがオーガの群れをいくつか潰していると、MAP内にある変化が見られた。


「ダンジョンから人が出て行ってる?」

「ああ、入り口近くのこの辺りに、五〇体近いオーガの群れが出来てるんだ」


 どうやら俺たちが離れた場所のオーガを倒したことでリポップしたオーガたちが、運悪く一つのところに集まってしまったようだ。

 そのせいか、外側に移動するように動くパーティーの反応がいくつもある。

 オーガ五〇に対して、パーティーの人数は一五人前後だから分が悪いと判断したのかもしれない。

 しかもそのオーガたち、嫌らしいことに入り口近辺に陣とってあまり動こうとしない。

 まるで獲物がやって来るのを待っているかのように。


「ま、こういうこともある。俺たちが気にすることじゃないな。帰る時に残ってたら狩ればいいし、ゆっくり戻ろうぜ」


 アルゴは状況を聞いても、気負った様子がない。

 四倍近いオーガたちを相手にしても、負けないと思っているのかもしれない。

 実際数は多いとはいえ、通路の広さの関係上、一度に戦う数は決まっているから、五〇体のオーガに一斉に襲われることはない。

 マジョリカのダンジョンみたいに、広場みたいなところはズィリャダンジョンには今のところ存在しないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る