第653話 ズィリャダンジョン・17

 デーモンロードの討伐が終わり、宿まで戻ってきた。

 正直疲れた……。

 疲れた原因は複数のデーモンと長い時間戦っていたからではなくて、ギルドに戻ってからの冒険者たちの反応だ。

 まさかあそこまで騒がれるとは。

 アルゴたちがいなかったらまだ戻ることが出来なかったかもしれない。


一時いっときのことだよ。どうせ今騒いでいるのは、漆黒の手を借りないで七階を突破したことに驚いているだけだろうしね。そのうち静かになるよ」

「そうだといいんだけどな」


 ルリカはこれが一時的なことだと言う。

 そう願いたいものだ。


「それでソラ。明日の予定はどうなったの?」

「一日完全に休んで、次の日に八階について調べるって話になった。実際にダンジョンに潜るのは三日後だな」

「なら明日は休めばいいのね。外に出るのも面倒だし……ゆっくりお風呂に浸かる感じになるのかなぁ?」


 それは魅力的な提案かもしれない。

 特に疲れの溜まっている時とかね。

 皆もミアの提案に賛成している。

 そしてその宣言通り、翌日は宿でのんびり過ごした。

 アルゴたちも宿から外には出ないで、宿泊客のみが利用出来る酒場……バーのようなところで飲んでいたみたいだ。

 そんなところがあったのか……お酒なんて飲まないから知らなかった。

 そしてその翌日。俺たちはギルドの資料室に向かった。

 時間をずらして少し遅い時間にいったから人は少なかった。

 冒険者の朝は早いからな。ダンジョンの中に入っていると時間感覚は狂うけど。

 しかし次は八階か……出る魔物はオーガにレッドオーガ。必要討伐数は二〇〇体か。

 特にオーガ何体、レッドオーガ何体という縛りはないようだから、とにかくただ狩ればいいみたいだ。レッドオーガを倒せば何体分というルールもないようだし。


「レッドオーガが強いってだけで、特に気を付けることはなさそうだな」

「そうでもないぞ? ほら、ここにオーガとレッドオーガが同時に出た場合、レッドオーガが指揮を執るから普通よりも狩るのが大変だってあるだろう?」


 アルゴのお気楽な発言に、ギルフォードが注意している。

 それとレッドオーガは追い詰めると狂戦士状態になるから、そうなると面倒だとある。

 この場合の面倒というのは、倒すのが面倒ということではなく、敵味方関係なく攻撃をするため、レッドオーガが同族である仲間を倒した場合、それは討伐数に含まれないため面倒だということらしい。


「なら同時に出た場合はオーガ優先で倒せばいいってことか?」

「そうなるな。あとは七階のボス戦みたいに、誰かがレッドオーガの相手をするってのもありだな。レッドオーガは指揮を執るっていっても、どうも前に出て戦うスタイルみたいだからな」


 それと指揮を執るとあるけど、オークジェネラルとかの上位種と違って、そこまで緻密な指揮を執ることはないようだ。


「ま、力と力のぶつかり合いならその方が楽でいいな」


 アルゴの言葉に、ギルフォードたちも頷いている。

 その辺りは相性の問題もあるが、それだけ自分たちの力量に自信を持っているのだろう。あとは経験かな?

 これがデーモンみたいに物理攻撃が通りにくいとかだったらまた別だったんだろうけど。


「あとは俺たちみたいに狩りやすいって奴が多いと、魔物の取り合いになるかもだからそれが心配だな。九階は九階で結構面倒そうだしよ」


 アルゴは九階の資料を見ながら言った。

 九階は一階から八階まで出た魔物が勢揃いということで面倒みたいだ。何せ八階までのロードたちも低確率だけどダンジョン内を徘徊しているみたいだし。

 ただそれでも九階で狩る人が多く一定数いるのは、宝箱が多いからみたいだ。

 ダンジョン内の宝箱は、命のリスクを負っても手に入れたいというのが、冒険者の心理みたいだ。

 それこそ超レアを引き当てたら、もう生活に困らないなんてこともあるから夢はある。

 長く堅実に活動してお金を貯めるか、リスクを負ってでも夢を求めて、早々に冒険者の一線から退くかの差だ。レアを手に入れても、まだまだ現役を続ける人もいるけど。

 結局八階だけでなく九階のことまで調べて、俺たちは宿に戻った。

 その翌日には既にダンジョンに入るための準備が整っているから、そのまま八階へと向かった。


「ソラがいると準備が楽でいいな。食糧に装備の整備、本当だったら一回ダンジョンに潜ったら、次の探索まで時間がかかるんだぜ? 装備品は予備を買う余裕があれば、交互に使ってダンジョンに潜っている間に整備を頼むってのもありだけど、その方法だと使用武器を最低でも三つは用意しないといけないからな」


 装備の整備を任せてダンジョンに行く場合でも、さらに予備は必要だからな。

 もっともそれは個人の場合であって、クランならその辺りの心配はなくなったりするみたいだ。

 クランが装備品を用意してくれるみたいだから。

 それがクランのメリットではあるが、活動方針などで行き違いはあるだろうし、その分の成果も必要になってくるはずだ。

 あとは人が多くなれば、人間関係で好き嫌いも出てきそうだし難しいところだ。

 俺には縁のない話だろうから、その辺りは考えても仕方ないだろうけど。

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