第652話 ズィリャダンジョン・16(セラ視点)
デーモンたちを避けて移動した先にいたのは一体の魔物。デーモンロード。
その背丈はボクの二倍はある。
接近して斧を振るえば、見えない壁にぶつかり斧が止まる。
これが初めてのことなら動揺していたと思うけど、既に何度も体験している。
ここからは地道な作業になる。
相手の防御を削り、攻撃が届くようにしないといけない。
ただいつもの違うのは、今回ボクのすることは攻撃ではなく防御優先の立ち回りだということ。
いつもはボクたちを守るように前に出て戦ってくれているソラは、取り巻きのデーモンを相手にしているからここにはいない。
それと防御優先といっても攻撃の手は緩めない。
普段よりも手数は減るけど、しっかり攻撃を仕掛ける。
注意を引く必要もあるし、ただ守るだけだと相手にとって脅威にならない。
それにボクには敵を引き付けておくスキルなんてものはないから、万が一攻撃目標がボクから他の人に移るのは避けたい。
ボクの戦っている感覚だと、ルリカとヒカリちゃんあたりなら攻撃を躱して戦えると思うけど、それはあくまで物理攻撃のみで考えた場合。
デーモンロードは要所で魔法を使い、自分が有利に戦える間合いを確保している。
あと一歩が踏み込めず、有効な攻撃を入れることが出来ないでいる。
それでも何とか渡り合えるのは、一つはミアの補助魔法があったから。
ミアの補助魔法がデーモンロードの魔法を防いでくれているのが、ボクには分かる。
昔のボクだったら分からなかったけど、マジョリカのダンジョンを攻略した時に授かったスキル、魔力操作のお陰だ。
魔力のささいな流れを感じられるようになったから。
それに相手の魔力の動きも分かるようになったから、前もって魔法に備えることが出来る。なんとなく魔法を使うのが分かる。
普段はここまではっきり分からないのに、今はいつも以上に神経を尖らせて集中しているからかな?
あとは魔力操作のスキルのお陰で、魔力を必要な時だけスムーズに使えるようになったのが一番大きい。
相手の攻撃を受けるその時だけ魔力を流し、防御力を上げる。
魔力量を底上げしてくれる魔道具を、フォルスダンジョンを攻略した時の報酬でもらったけど、それでもボクの魔力量はルリカやヒカリちゃんたちと比べても低いからね。
デーモンロードの放った炎を盾で防ぐと、前に出て斧を振るう。
けどこの攻撃は読まれていたようで、デーモンロードは余裕を持って後方に下がった。
攻撃が届かなかったけど構わない。
だってボク一人で戦っているわけではないから。
デーモンロードの下がった位置には、風の刃が殺到する。
今までの行動パターンから、ヒカリちゃんは先読みしていたに違いない。
不意をついた攻撃はデーモンロードの体を捕え……魔力の防壁に弾かれた。
コツコツと攻撃を当てていたけど、まだデーモンロードの防壁は健在だった。
でもボクたちの攻撃はここで止まらない。
デーモンロードが再び攻撃を仕掛けようとしたタイミングで、風が通り抜けていった。
次の瞬間、デーモンロードの背後にルリカが現れた。
疾風のスキルを使った攻撃は、防壁で防がれたけど、衝撃でデーモンロードのバランスを崩した。
そこにミアが前に出て槍を放つ。
そのタイミングでボクも前に出て、二方向から同時に攻撃を仕掛けた。
瞬間、攻撃を当てた時の感触が変わった。
続いてデーモンロードが悲鳴を上げた。
防壁がなくなった⁉
もう一度斧を振り下せば、攻撃が肉体に当たる。
昔のボクならここで一気に畳み掛けるように攻撃をしたけど、ここはグッと我慢する。
上位の魔物となると、どんな隠し玉を持っているか分からない。
それに今のボクは皆の盾だ。
相手の動きをよく見て守り、隙があったら攻撃をすればいい。
戦っている間にデーモンロードが身に付けていた装飾品がいくつか壊れた。
その都度動きが鈍くなり、攻撃を斧で防いだ時の衝撃が弱まった。
確か戦う前に、ソラが身体能力を上げているとか言っていたから、装備が壊れたことで恩恵が切れたのだと思う。
そして地味な攻防は、やがて終わりを告げた。
ルリカの一撃がデーモンロードを捉えると、ゆっくりとデーモンロードの体は消滅していった。
同時に周囲から聞こえていた戦闘音も鳴り止み、思わずため息が出た。
「セラ、お疲れ。大丈夫だった?」
「ミアのお陰で大丈夫さ。あ、もちろんルリカやヒカリちゃんたちの援護のお陰でもあるさ」
「そう? けどそれを言ったらセラのお陰で私たちは攻撃に集中出来たからね。まさか魔法の攻撃を正面から防ぐなんて思わなかったから。あれには驚かされたかな」
ルリカの称賛の言葉がこそばゆい。
「とりあえず今日は帰ってゆっくり休みたいさ。それと……いつものように攻めている方が気軽でいいさ」
前に出て守るっていうのは、自分だけでなくパーティーメンバーたちの命を背負っているような気になるから、正直精神的な疲労が大きい。
これをいつもやっているソラは、本当に凄いと思った。
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