第651話 ズィリャダンジョン・15(ミア視点)
ファイアーストームとトルネードの魔法がボス部屋に吹き荒れた。
だけど魔法はデーモンたちに届くことなく相殺された。
たぶんソラもクリスも、魔法の威力を落として魔法を放ったのだと思う。
誤って倒してしまわないように。
出来るだけダメージを与えないように。
それでもデーモンたちは、攻撃を仕掛けてきた二人が誰なのか分かったようで、ソラとクリスの方を向いた。
そこで再び魔法がデーモンを襲う。
今度魔法を使ったのはソラだけ。
無数の風の刃がデーモンを襲い、デーモンの体を引き裂く。
間髪入れずに放たれた魔法に、デーモンたちは相殺するための魔法を使うことが出来なかったから。
ソラが連続して魔法を撃てたのはきっとスキルのお陰だ。
今までだって異なる魔法を同時に使ったりしていたしね。
その魔法を受けたデーモンが、一斉にソラに向かって歩き出した。
その数は一〇体。
盾を構えて守りの態勢に入ったソラでも、一〇体の魔物に同時に攻撃されると辛いはず。
短時間ならスキルを使って完全に防ぐことが出来そうだけど、スキルや魔法を永遠に使い続けることは出来ない。
どうしても回復が必要になる。
それでも私は焦らない。
だってアルゴさんたちが既に動いているから。
アルゴさんたちは五人で七体のデーモンを引き付けた。
相性の悪い相手だけど、守り主体で上手い立ち回りで対応している。
この戦いの難しいところは、相手を倒せないところだ。
デーモンは近接戦闘をしながら魔法も使ってくるから、気の抜けない相手だ。
ソラたちの方はソラが三体の攻撃を受け止めている。
危ない場面は今のところないけど、常にクリスが魔法を待機させて、いつでも援護出来るようにしている。
そのクリスはソラだけでなく、アルゴさんたちの方も援護出来るような立ち位置にいる。
私は大きく息を吸い込むと、動き出したルリカたちを追って走り出した。
目指すはデーモンロード。
槍を持つ手に力が入るけど、私は神聖魔法で補助を行いながらの戦いになる。
ヒカリちゃんが斬撃を飛ばし、セラとルリカが接近して攻撃を仕掛ける。
私も間合いに注意しながら槍で攻撃をする。
神聖魔法の補助が掛かった切っ先は、見えない壁に阻まれて攻撃が通らない。
それは私の攻撃だけでなく、ルリカたちも同様だ。
一番攻撃力のあるセラの斧による攻撃も、デーモンロードには届かない。
だけどこの現象は、既にフォルスダンジョンで経験しているから動揺はしない。
相手にダメージが入るようになるまで、攻撃を繰り返すだけ。
私は再び攻撃をしようとして、神聖魔法を唱える。
ルリカたちの体が光に包まれる。
魔法の補助は時間の経過で解けるけど、相手からの攻撃が蓄積されても解ける。
だから私は神経を集中して、補助が消える前に重ね掛けをする。
これも使いどころが難しい。
過剰に重ね掛けをしても効果は重複しないから無駄になる。
その方が安全に補助魔法の維持は出来るようになるけど、使える回数が決まっているからそれは避けないといけない。
マナポーションでMPを回復することは可能だけど、短い時間で何度も摂取すると回復しなくなるからね。
そのことをルリカたちも分かっているから、特にヒカリちゃんは攻撃を受けない遠距離主体で立ち回ってくれている。
ルリカも疾風スキルを使った攻撃を、ここ一番のところ以外では使わず、基本は攻撃を当てたら一度下がるのを繰り返している。
その分セラが常に接近して戦うことになるけど、セラに補助関係を集中出来るから私の負担はかなり減っている。
セラはデーモンロードの攻撃から身を躱し、時に斧の腹の部分で攻撃を受け止めて戦っている。
闇系統の魔法は私の補助魔法が防ぎ、火などの属性魔法は斧に魔力を流して受け止めている。魔力量が少ないから、常時使っているのではなくて攻撃が当たる時だけ使っている。
ただセラは守ってばかりではなく、隙をみては斧を振るっている。
攻撃の時に魔力を使わないのは、セラの魔力量が少ないのと、あとは聖属性がすでに付与されているからだ。
ただセラが強いといっても相手はロードの名を持つ魔物だ。到底一人では敵わなかったと思う。
実際危ない場面は何度もあったけど、セラが体勢を崩した時はすかさず誰かが割って入って、セラが復帰するための時間を稼いだ。
私も何度か助けに入ったけど、やはり攻撃は届かない。
今の状態で攻撃が届かないなら、獣人化して戦闘力を上げて、防御のための魔力を早く削るべきか悩んだけど、獣人化にはある問題があるためここでは使うことが出来ない。
旅の中で力の制御は出来るようになってきたから、力に振り回されることはなくなった。
獣人化した時の私の力はセラをも上回るから、攻撃面でかなり貢献出来ると思う。
けど獣人化すると、神聖魔法を上手く使えなくなる。
全く使えなくなることはないけど、今みたいに細かく使うことが出来なくなる。
この辺りも慣れれば使えるようになると思うけど、今の私には無理だ。
「ミア姉、今は我慢の時」
悔しさに槍を握り締めた時、ヒカリちゃんが近付いてきて声を掛けてきた。
「……うん、そうだね」
ヒカリちゃんに私は頷き、大きく深呼吸する。
相手だって消耗しているはずだ。
なら今は焦らないで、安全を確保しつつ相手を弱らせていけばいいんだ。
私は頭を切り替えると、隙の出来たデーモンロードに向かって突きを放った。
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