第650話 ズィリャダンジョン・14
七階のボスのデーモンロードに関する資料は、殆どが古い物しか残っていない。
その理由は明白で、ここ数年に関する情報の多くは漆黒が自分たちで抱え込んでいるからだ。
他者に情報を与えないことで、優位に立つためだ。
というのが多くの冒険者の認識らしいが、別に情報の提供は冒険者にとって義務ではないから非難することは出来ない。情報は時にお金になるわけだから。
それが気に入らないなら自分たちで情報を集めてギルドに報告すればいいのだ。
ここのダンジョンなら、敵わないと思った時点でセーフティーエリアに逃げることが出来るから、何十回と挑戦していればいずれ倒せるかもしれない。
ペナルティーと、ボス部屋に入るためにまたデーモンを狩らないといけないという手間に目を
「資料によると、デーモンロードは取り巻きを召喚するらしいのです」
この辺りはフォルスダンジョンの上層階のボスと同じような感じみたいだ。
また資料によれば、この取り巻き召喚は、一回のみではなく何度も使ってくるということだ。
「ただ召喚の条件ですが、全ての取り巻きを倒すまでは次が召喚されないみたいなのです」
「なら取り巻きは最後の一体になったら倒さずに、デーモンロードに集中すればいいってことか?」
それなら最後の一体になったら俺が引き付けて、耐えている間に皆にデーモンロードを攻撃してもらうという手が使える。
俺が問い掛けると、クリスは静かに首を横に振った。
「それが召喚されたデーモンなのですが、最後の一体になると自滅するようなことが書かれているんです」
「自滅?」
「はい」
クリスが言うには、二体以上残っていれば自滅はしないとのことだ。
それなら俺が二体受け持つか、誰かがもう一体相手してくれれば再召喚を防ぐことは可能か。
問題は誰が受け持つかだな。
こういう時、守りに強いカイナがいないのは正直痛い。
アルゴたちでも一対一で戦うことは出来るけど、安定感が違う。
リスクを回避するなら二対一などで人数を増やせばいいが、問題はデーモンロードを攻撃する者の手が減るところだ。
……ミアがいればその辺は大丈夫か?
「あともう一つ。デーモンロードは取り巻きを倒せば倒すほど、強化されるみたいなんです」
それが本当なら、取り巻きを倒すことは控えないといけない。
デーモンを一体倒してどのぐらい強化されるかによるかだけど。
「しかもその情報、漆黒の奴らが提供したみたいだ」
アルゴはわざと漆黒が流した情報だろうと言った。
確かにそれが本当なら、難易度が上がる。
ボスが強化されるという情報は、これから七階以降を目指す者たちがデーモンロードに挑戦しづらい環境になっているに違いない。
そのため先に進むなら漆黒の力に頼るという選択肢が生まれる。
彼らには実績があるし、先に進みたいなら手伝うと公言している。
「出来るだけ取り巻きは倒さない方向で、無理なら再召喚させないように立ち回る、でいいんじゃないか? 最悪取り巻きを倒し過ぎたとしても、倒せないほど強化されたらセーフティーゾーンに退避して、再挑戦すればいいんだしよ」
それはアルゴの言う通りだ。
どちらにしろ一度戦ってみるしかない。
それが出来るだけまだ精神的に楽だ。
もちろん戦う以上、様子見ではなくて倒すつもりでいく。
さすがに再入場のためにデーモンを狩るのは時間がかかるからね。
それにデーモンは肉を落とさないからヒカリのモチベーションが低い。
それから二日後。俺たちは七階のボス部屋に入った。
待機数はゼロ。誰も挑戦していない。
全員の入場が終わり、時間が経って扉が閉まるとボスが出現する。
デーモンの背丈は二メートルほどだったが、デーモンロードは三メートルほどあった。
他に違いがあるとすれば、装備が豪華だ。というか派手だ。
腕輪やら指輪やらをしている。
ただそれはただ見た目が派手というわけではなく、装備として効果がついている。
ステータスの上昇。ただ耐久値というものもついているから、破壊することで能力値を下げることが出来そうだ。
もっとも強度は不明だから、どれぐらいの衝撃を与えたら削れるかは不明だ。
戦っていて壊れたらラッキー程度に思っていればいいかな?
一応この情報は皆にも伝えた。
「とりあえずソラは最低二体を頼む。クリスも魔法で拘束出来るようなら拘束を。俺たちもデーモンを引き付けるから、ボスはルリカ、頼んだぞ」
今回の攻略は、出来るだけ取り巻きを倒さないでデーモンロードを倒そうということになった。
俺とクリス、アルゴたちのパーティーがデーモンと戦い、ロードはルリカ、セラ、ヒカリとミアの四人に任せることになった。
もちろん戦っていて無理そうなら戦い方を変える予定だ。
そしてデーモンたちのヘイトを集めるため、俺とクリスは同時に魔法を放った。
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