第649話 ズィリャダンジョン・13
「ここは私とも相性が悪いかなぁ」
七階に入り、デーモンとの一戦が終わった時にルリカが零した言葉だった。
俺は戦闘を振り返る。
遭遇したデーモンの数は三体。
デーモンは個体ごとに使う魔法が違い、また複数属性の魔法で攻撃してきた。
それも近距離と遠距離で魔法を使い分けてくるほど、戦い方が上手かった。
特に火属性魔法と風属性魔法を組み合わせて使うなど、相乗効果で威力が増す使い方もしてきた。
もちろん狙ってではなく、たまたまだったのかもしれないが。
そういうこともあって、通路を埋め尽くすような魔法を使ってきたため、ルリカの疾風スキルだと転移みたいに空間を飛んで移動しているわけじゃないため、使うと魔法の中に飛び込むことになる。
だからルリカは相性が悪いと言ったんだと思う。
戦闘は最初オーラシールドで俺が耐えていたが、ある程度時間が経つとデーモンたちが距離を取り始めたため前進しながら距離を詰めていった。
オーラシールドは展開する範囲を広げるとSPを多く消費するが、通路内という閉ざされた空間のため、多く消費をすることはなく維持することが出来た。
これに関しては俺たちにも優位になった点だ。
そして逃げるデーモンに対して、魔法が途切れた一瞬でクリスがデーモンの位置を把握して、左右と後方に風魔法で防壁を作って塞いだため、デーモンが逃げることが出来ずに足止めに成功し、そのまま接近戦に持ち込み最後は倒すことが出来た。
デーモンが魔法を多用して逃げるのは、フォルスダンジョンの上層階で出てきた魔物がそうだったように、魔力がなくなると攻撃が通りやすくなるためというのもあるようだ。
攻撃を当てて逃げるのも、どうもそれが関係しているみたいだ。
逆に言えば、それを判断することが出来る知能があるということ。
また挑発を試してみたが、効きはいつもよりも悪かったように感じた。
デーモンの討伐数は五〇と前の階よりも数は少なくなっているが、狩りにくさがその難易度を上げている。
さらに七階のボスはデーモンロード。
この階で狩っている人たちは、あくまで魔石などの素材を得るためで、決してボスの周回はしない。
それに漆黒が他の人たちから七階突破の手伝いを請け負う時も、一回の挑戦で二人もしくは三人と決めているそうだ。
それ以上戦える者を減らすと、デーモンロードを倒すことが困難になるからだろうというのが、アルゴたちの見解だ。
それに関しては俺もあっていると思った。
セーフティーエリアがあるとはいえ、失敗すれば再入場までペナルティーが発生するからな。
その後も俺たちは討伐数の条件を満たすために狩りを続けていたが、その途中であることに気付いた。
それはデーモンの個体差の違いだ。
どうやら使ってくる魔法でデーモンの属性が変わるようで、火魔法を多用するデーモンは火属性、水魔法を多用してくるデーモンは水属性、闇魔法を多用してくるデーモンは闇属性となっているみたいだ。
それに気付いたのは、明らかに闇魔法を使ってくるデーモンの動きが他と比べて悪いからだ。
デーモンはアンデッドとまではいかないが、それに近いみたいだし、やはりミアは天敵みたいだ。
俺たちは装備もあるからデーモンに手古摺ることはないが、もしかしたらミアがいたから多少は弱体化しているのかもしれない。
だからデーモンと遭遇して、狩るだけなら俺たちは七階で苦戦することはなかった。
そう、遭遇して戦いが始まれば……。
実は俺たちが今一番苦労しているのは、その点だ。
この階でも俺のMAPは正常に働いているし、何処にデーモンがいるのかも分かっている。
いつも通りにその反応を目印に進めば本来なら狩れるのに、デーモンのとある特性がそれを許してくれなかった。
「まさか逃走する時以外にも壁を通り抜けるとは思わなかったな」
クリスからデーモンが逃げる時に壁の中に逃げると言う話を聞いていたけど、まさか普通の状態でも壁を擦り抜けて移動するとは思わなかった。
さすがにMAPを見ていて途中で気付いたけど。
「残り八体が遠いな……」
アルゴがため息交じりに呟いた。
「いっそシャマルの角笛を使うか?」
あと六回使うことが出来る。
八階以降のことも考えると温存したいと思うけど、下手に残っても使い道がなくなるからな。
「……とりあえずあと一日は普通に索敵して、駄目だったら使うか?」
俺の問い掛けに、アルゴは考えた末答えた。
アルゴの提案に反対の意見はなかったため、今日一日は普通に探すことになった。
結局その日は五体狩ることが出来たが、それが限界だった。
ただ結局シャマルの角笛を使うことはなかった。
入り口へと戻るルートを歩いている時に、偶然デーモンが壁の中から現れて戦闘になって、倒すことが出来たからだ。
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