第647話 錬金術ギルド
「ボスはどうする?」
アルゴが聞いてきたが、
「今回は宿で一度休んでもいいんじゃないか? どうせ待たされることもないだろうしよ」
とギルフォードが答えたことで、今日は素直に宿で休むことにした。
一〇日間ダンジョンの中で過ごしたため、さすがに皆に疲れの色が見えたからな。
解体した労力も大きかった。
ただ俺が錬金術ギルドに行きたいと告げると、
「主について行く!」
とヒカリが言ったため、リックとハロルドも同行すると言ってきた。
確か錬金術ギルドはここから近くにあるが、一応念のためみたいだ。
ミアたちも付いてくるかと思ったけど、流石に疲れたようで宿で休むことを選んだようだ。
錬金術ギルドは冒険者ギルドの二軒隣にあったが、活気は皆無だった。
複数ある受付には一人の職員が座っているだけで、室内も何処か薄暗かった。
気配察知をすれば建物の奥の方に人の気配はするが、その人数も少ないような気がする。
俺たちが扉を開けて入っても、その受付の職員はゆっくりした動きで顔を上げたが、すぐに下を向いてしまった。
近付いて分かった。どうやら本を読んでいるみたいだった。
声を掛けると、
「何か?」
と受付の男は顔を上げた。
が、何処か迷惑そうだ。
錬金術の本を読んでいるようだけど、暇とはいえ人が入ってきたらそれなりの態度で対応はすべきだと思う。
その態度を見て、ちょっと物を出すのを迷った。
「主、ここは駄目。商業ギルドか冒険者ギルドの方がまし」
ヒカリは俺の心情を酌んでかそんなことを小声で言ってきた。
肉の流通を希望していたヒカリが止めようと言うほどだから、印象がかなり悪かったのかもしれない。
リックとハロルドは判断を俺に任せたようで、特に何も言ってこない。
「何か?」
黙っていると再び問い掛けてきた。
ちょっとイライラしているような声音になった。
「……いや、何でもない」
結局ここでアイテムを提供するのは止めることにした。
ここの冒険者にとってはマイナスになる行為だけど、仕方ない。
それに……エルド共和国を攻めたことやセラの件で元々帝国に対する印象が悪かったのも少なからず影響していたと思う。
「戻って休むか。わざわざついてきてもらったのに……」
「気にするな」
「そうそう、あれじゃ俺たちだって売ろうとは思わないさ」
謝ろうとしたらリックとハロルドは呆れ顔で言った。
人の利用が少ないのはなんとなく分かるが、それでも人が来たら最低限の対応はしようよとは思った。
せっかく研究の材料をもってきたというのに。
この装備品は、今度プレケスに行った時に、ボーゼンに送ればいいか。
ここから送ることも可能だけど、帝国からだと時間がかかるだろうからな。
あとは物を送ってもしっかり届くかどうかの不安はやはりある。
俺たちはそこまで遭遇したことがないが、この世界には盗賊もいるし、魔物に襲撃されることだってある。
荷物を運ぶ仕事をしている人間はその対策で護衛なども雇っているが、確実に届く保証はない。もちろん失敗する可能性は限りなく低いけど。
だからこれに関してはアイテムボックスの中でその時がくるまで仕舞っておくことにした。
「あれ? もう帰ってきたの?」
宿に戻って部屋に入ると、ルリカが顔を上げた。
どうやら装備品の整備をしていたようだ。
その隣にはミアもいたから、きっとミアに整備の仕方を教えていたんだろう。
俺がことの顛末を話すと、
「それなら仕方ありませんね」
とクリスが言ってきた。
やはり半ば呆れ顔だ。
結局その日は、寝るまでの間装備の整備を俺もした。
【セロのローブ】耐久値 34/100
創造で作った火耐性と闇魔法耐性付きのローブだ。
見た目の損傷はないけど、解析で調べると耐久値が減っている。
それだけレッドオークやブラックオークの特殊攻撃を防いでいた証でもある。
俺は右手をローブに添えて、左手に魔石を握って魔力を流す。
赤い輝きを発していた魔石の色が徐々に薄くなっていき……やがて透明になった。と同時に、魔石が砕けた。
【セロのローブ】耐久値 88/100
魔石一つでは耐久値が完全に戻らなかったため、魔石をもう一つ用意して魔力を流す。
再度確認したら耐久は完全回復していた。
皆からローブを受け取り、その全てを修復する。
明日忘れないようにアルゴたちの分も回収して修復しないとだ。
今回のダンジョン攻略では、これ以上レッドオークとブラックオークと戦うことはないから、もうセロのローブの出番はないと思うけど。
いや、七階にデーモンが出るって話だし、一応装備しておいた方がいいのか?
八階に出るレッドオーガは、特に火に関する特性はないって話だから、こちらは必要ないようだからな。
装備の整備が一段落したところで夕食の用意が出来たということで、俺たちは食堂に通された。
今日の夕食はレッドオークとブラックオークの肉を使った料理で、ヒカリは嬉しそうに食べていた。
もちろんこれは俺たちが持ち込んだもののため、他の客たちは普通の料理だ。
ただ何人かの顔見知りがアルゴたちから料理を分けてもらい、その味に驚いていた。
もしかしたらこれがきっかけで、五階で狩りをする人が増えるかもしれないな……って、そんな単純じゃないか。
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