第646話 ズィリャダンジョン・11

「あと一体か……ソラ、場所は分かるんだよな?」

「場所は分かるけど遠いかな」


 五階に入って一週間経った。

 レッドオークは既に二五体以上狩っているのに対して、ブラックオークは二四体しか狩れていない。


「ソラが作ってくれた装備で狩り自体はかなり楽に狩れるんだけどな」

「まったくだ」


 アルゴとギルフォードが頷き合う。

 今アルゴたちはローブを纏っている。

 これはレッドオークとブラックオークの素材を使って創造したローブだ。他にも魔物の素材や聖水を使っているが、効果は火耐性に闇魔法を防ぐというものだ。

 まさにこの階特化の装備となっている。

 一応他の闇魔法を使ってくる相手にも有効だと思うけど、魔法特化の、例えばリッチクラスとなると何処まで防げるかは試してみないと分からないけど。

 これは錬金術でも作ることは可能だが、創造で作るよりも必要素材が多いのと、効果が少し劣っているという違いがある。

 もっともその劣っている点は火耐性の方だけで、闇魔法は一部を除き殆ど防いでくれる。

 ただ魅了は完全に防いでくれるみたいだから、十分役には立ちそうだ。

 一応錬金術で作った方に関しては、ダンジョンを出たら錬金術ギルドに装備をもっていくことにした。

 名前だけになっているが一応ギルド員であるのと、これがあればここで狩る人が将来的には増えるかもしれないということで、特にヒカリが勧めてきた。

 主な理由は肉の流通なんだけど。

 将来的にといったのは、すぐには無理だろうと思ったからだ。

 何せこの装備を作るためには、それを作るための素材から集めないとだからな。

 一応装備を渡す時は、マジョリカの錬金術ギルドのマスターであるボーゼンの名前を借りることにしよう。

 他国ではあるが、ギルドマスターと知り合いということで多少は便宜を図ってくれるかもしれないからな。

 誰がこの装備を提供したのかなど、他から聞かれても黙っていてもらうとか。


「どうする? シャマルの角笛を使ってみるか?」

「……今分かっているブラックオークのところまで行くと、戻るまでどれぐらいかかりそうだ?」

「五日はかかるかな?」


 俺の問い掛けにアルゴが逆に聞いてきたから答えた。

 ちなみに今いるところから戻るだけでも三日はかかる。

 というところまで実は移動していた。

 何故こうなったかというと、新たに湧いた魔物に大きな偏りがあったからだ。

 お察しの通りレッドオークばかりが近くに湧いた。

 逆にブラックオークは他の位置で湧き、どうやらここで狩っている冒険者たちはブラックオークを狩らずに回避しているようで、新たな湧きがなかったからだ。

 どうしても戦わないといけない時は戦っているみたいだけどね。


「回数も残ってるし、一回か二回使っても良さそうだな」


 そう結論を出したアルゴはヒカリを見た。

 ヒカリは頷き、シャマルの角笛をアイテムポーチから取り出した。

 それを見た俺たちは武器を構える。

 一度目の音が鳴り魔力反応が生まれる。

 これは……。


「レッドオーク。数は三体!」

「こっちは俺たちに任せな。ヒカリの嬢ちゃん。続けて吹きな」


 アルゴの指示が飛び、再びヒカリが笛を吹いた。


「! ブラックオーク。数は七体!」


 今度の反応はブラックオークだった。


「よし、そっちはソラたちに任せた!」


 アルゴたちの目の前にレッドオークたちが現れた。

 俺たちはレッドオークをアルゴたちに任せて、ブラックオークへと向き合う。

 セラとルリカが駆け出し肉薄する。

 既に二人の武器には光属性が付与されている。

 それでも一撃で葬ることは出来ない。有利に戦いを進めているけど。


「クリス、足止めを頼む」


 俺は挑発を使いセラたち以外のブラックオークの注意をひく。

 五体が俺の方を向き、その一体が視界から消えた。

 崩れ落ちるその背後にはヒカリの姿があった。

 死角からの一撃で、魔石をピンポイントで破壊したみたいだ。

 それを見たブラックオークがヒカリの方を向いたため再び挑発を使った。

 どうやら仲間の死で、俺の挑発が一度外れてしまったようだ。

 だから俺は挑発を使いながらライトアローを放ち再びヘイトを稼ぐ。

 ヒカリは再び気配を消して死角へと回り込み機会をうかがうようだ。

 ブラックオークが一斉に俺の方へと向かってくるが、クリスの範囲を絞ったトルネードで動きが阻害される。

 距離が出来て、二体が集団から遅れる。

 その内の一体にミアが、もう一体にヒカリが攻撃を仕掛ける。

 この二体は二人に任せて、俺は目の前の二体に集中する。

 何度か闇魔法の使用を確認したが、ローブの効果で全て防いでくれている。

 盾を使って攻撃を受け流し、時々反撃のため剣を振るうが無理に前に出ない。

 その内の一体が他と比べて大柄だったというのもあるが、仲間たちが今対峙しているブラックオークを倒したら援護に来てくれると思っていたからだ。

 実際最初にセラが、続いてミアが援護に来てくれて、三対二となったところで俺も攻撃主体に切り替えれば、ブラックオークを全て倒すことが出来た。

 俺たちがブラックオークを倒してアルゴたちの方を見れば、向こうも最後の一体をちょうど倒すところだった。

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