第645話 ズィリャダンジョン・10

「次はレッドオークで、数は三体だな」


 MAPの反応を見ながら俺は皆に次の相手がレッドオークになることを伝えた。

 俺は先頭に立つと盾を構えた。

 角を曲がると、ちょうど通路の突き当り近くにレッドオークたちの姿が見えた。

 その距離八〇メートルぐらいか?

 レッドオークは俺たちが姿を見せると、魔法を放ってきた。

 ファイアーアロー二発にファイアーボール一発。点と面による魔法攻撃だ。

 距離も魔法を使ってくることもある程度予想していた俺は、慌てずオーラシールドを使いその攻撃を防ぐ。

 シールドに激突した魔法が爆散して、視線を遮り、爆煙を突き破ってレッドオークが姿を現す。

 手に持つのは大きな肉厚な斧。もう鈍器といったほうがよさそう……が、頭上高くから振り下ろされる。速い。

 それでも俺は慌てず腰を据えて盾で受け止める。

 視界は遮られていたが、接近していたのは気配察知で分かっていたから。

 ただ想定外だったのはその圧力。ジェネラルよりも力が強い。いや、魔法を放った距離から接近するまでの時間を考えると、速度も上だ。

 速度に力が合わさり、威力が上がったのか?

 そこまで考えて、俺は右手に持ったミスリルの剣を振り払った。

 その切っ先が、横から現れたレッドオークの斬撃を弾き返した。

 だが攻撃はそれで終わらない。

 何故ならレッドオークは三体いるのだから。

 最後の一体が、距離を詰めて、勢いそのままに突撃してくる。

 その手に持つのは槍。その切っ先が迫って来る。

 けどそれが俺に届くことはなかった。

 風を感じた瞬間、槍を持つレッドオークが血を撒き散らした。

 その体には斬撃の痕が二つあり、その背後にはルリカがいた。

 そして動き出していたのはルリカだけではない。

 セラやアルゴたちも続きレッドオークに攻撃を仕掛けた。

 俺もそれを受けて反撃に出たが、とにかくタフだった。

 それと熱い。

 近くにいるだけで汗が噴き出してくる。

 それは攻防が激しくなるほど周囲の気温が上昇していっているように感じた。

 それでも戦闘開始から一五分後、全てのレッドオークを倒し切ることが出来た。


「以前来た時もこんな感じだったのか?」

「……あ、ああ、そういえばこんな感じだったな。すっかり忘れてた。ただここまでは暑くなかった気がするんだが……」


 汗だくになりながら尋ねると、アルゴが答えた。


「ソラ、冷ましますね」


 そこにクリスが水魔法で周辺の熱を冷ましていく。

 俺は洗浄魔法をアルゴたちに使っていく。

 汗が消え、湿っていた服が乾いていく。

 その後は水を渡して水分補給をした。


「ここに人がいない理由が分かった気がするね」


 ルリカが美味しそうに水を飲みながら言った。

 レッドオークもブラックオークも癖が強過ぎて、対策するのが大変だ。

 俺たちは魔法を使える者が比較的多いからまだましだけど、他の人たちが狩るとなるとかなりの出費を覚悟しないといけないと思う。


「確かに俺たちも以前来た時は、金がなくなったんだよな」


 アルゴが思い出したように言った。

 いや、そういうことはもっと早く思い出してくれよ。

 俺は心の中で呟くだけだったけど、ルリカは声に出して突っ込みを入れている。

 それを受けて、アルゴは乾いた笑いをあげていた。


「主、主。次を狩りにいく」


 そんな中変わらずマイペースなのはヒカリだ。


「ヒカリは元気だな」


 俺も別に疲れてはいないが、ヒカリは目を輝かせているからな。


「早く数狩って、何処かで解体したい」

「肉が食べたいんだな」


 尋ねたらコクコクとヒカリは頷いた。


「ならダンジョン内で解体すればいい。どうせ人も少ないし、別に迷惑にはならないだろう。血抜き用の道具とかも、ソラなら作れるんじゃないか?」


 アルゴの発言を受けて、ヒカリがこちらを見てきた。

 期待の籠ったその瞳を見ると、否定するのは難しい。

 それにヒカリの希望を叶えるためには何処かで解体をする必要はあるから、ここで出来れば解体場所を探す手間は省ける。

 そうなると魔物を吊るすための道具が必要だ。

 血はダンジョンの地面に落とせばやがては吸い取ってくれるけど、容器を設けて回収すればいいか。

 血も錬金術や創造のスキルで活用出来るしな。


「それじゃ野営の時に、何体か血抜きするか」


 ヒカリが嬉しそうに頷いた。

 結局。この日に狩れたのはレッドオーク七体に、ブラックオーク一三体だった。

 その内血抜きしたのは各三体ずつ。

 通路に吊るされたこのオークたちを誰かに目撃されたら、きっと話題になったに違いない。

 血抜きの関係上、血生臭い臭いはどうしても消せないため、そこは俺とクリスが交代で休みを取って、風魔法で臭いを逃がした。

 臭いで新たな魔物を呼び出すことは、周囲にいなかったためなかった。



「ソラ、せっかくだし解体してしまおう」


 朝食を食べ終えると、リックが言ってきた。

 その言葉にヒカリは目を輝かせている。


「いいと思います。それにオークたちの素材を使って、火や闇対策の装備がソラならここでも作れるんですよね?」


 リックを賛成するようにクリスも言ってきた。

 確かにそれぞれのオークの素材を使うことで、火と闇魔法に対抗する装備は錬金術や創造スキルで作ることが出来る。

 それに関してはルリカたちにも話していたことだ。


「なら決定だな。あ、解体してる間に、まだ血抜きしてないやつを吊るしておこうぜ。せっかくだしよ」


 結局その日は解体と装備作りに時間を費やしたため、狩れたのはレッドオーク三体だけだった。

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