第644話 ズィリャダンジョン・9

 ダンジョンに行く途中。多くの冒険者たちの注目を浴びた。

 その視線は大きく二つに分かれているような気がする。

 畏怖と興味。


「もしかしたらあいつらが話したかもしれないな」


 アルゴの指すあいつらというのは、ダンジョンの目撃者たちのことだ。


「これで少なくとも有象無象が声を掛けてくることは減るだろうな」

「有象無象は確かにそうだろうな」


 アルゴに相槌を打つギルフォードはため息を吐いた。

 俺は興味を示している人たちを横目で見た。

 見覚えがある顔だ。

 一階のボス部屋の待機所で見ている。確か【漆黒】のクランの人たちだ。

 ただこちらに声を掛けてくることはなかった。



「ソラ、あれは使えてる?」

「ああ、大丈夫だ」


 ダンジョンに入るなりルリカが聞いてきた。

 ルリカがあえてあれ、と言ったのはMAPという言葉を避けるためだろう。

 別にこの周辺にはいないけど、思わず言わないように常日頃から心掛けているようだ。

 俺はMAPを表示させながら気配察知と魔力察知を使う。

 人の数は少ない。一五人のパーティーが二組いるだけで他は全部魔物だ。

 魔力反応は二種類、レッドオークとブラックオークのものだが、どちらがレッドオークで、どちらがブラックオークかは分からない。


「北と東の方向にパーティーがいるから、そっち方面の近場には魔物がいない……行くなら南方向かな? 一つのパーティーが西方向に向かっているから、そっちに行くと魔物の取り合いになるかもしれない」


 西側の方が魔物の数は多いけど仕方ない。

 変に競っても仕方ないし、近場にいなくなったら最悪シャマルの角笛を使ってもいいしな。

 二分の一の確率だからハズレを引く時があるかもしれないけど。

 歩くこと一五分。あの角を曲がった先に魔物の反応がある。


「どっちだろうな」

「……ブラックオークだと思う」


 アルゴが剣を引き抜きながら呟いた言葉に、ミアが答えた。


「どうして分かるんだ?」

「んー、邪悪な感じがするから?」


 神聖魔法を得意とするミアの直感が働いたようだ。

 事実角を曲がれば、いたのはブラックオークだった。

 ブラックオークたちは俺たちを視認すると、叫び声を上げながら走り寄ってくる。

 それに対して俺、クリス、ミア、ヒカリの四人が遠距離から攻撃を仕掛ける。

 俺は光魔法、クリスは風魔法。ミアは神聖魔法でヒカリは斬撃。

 けど効果があったのは俺とミアの魔法だけ。クリスのヒカリの攻撃はブラックオークの纏う闇に阻まれて霧散した。

 それでも三体のブラックオークが倒れた。


「セラ、頼む」

「任せるさ」


 距離が近付いたことで、セラの射程距離に入った。

 両の手に持つのは光属性の付与された投擲斧だ。

 その投擲斧が投げられた。

 鋭い回転の加わったその斧は、手前のブラックオークの体を斬り裂き、勢いそのままにさらに背後のブラックオークへと命中した。

 脳天への直撃を受けたブラックオークは、静かに後ろへ倒れていった。

 そしてもう片方の投擲斧も、ブラックオーク一体の命を刈り取った。

 これで残りは一体。

 最後の一体は、俺とミアで戦うことになった。

 接近するとブラックオークの体から魔力が放たれた。

 詠唱をした様子がない。

 ブラックオークの闇魔法は、どうやら自動的に発動するようだ。

 ただ連発は出来ないようで、次の魔力は飛んでこなかった。


「ミア、少しだけ倒すのは待ってくれ」


 一応二発目がどれぐらいで使えるようになるかを確認しようと思った。

 それはこの個体相手なら、一体だけならそれを確認するだけの余裕があったからだ。

 剣を交えて通常のオークよりも力強いことは分かったが、オークジェネラルよりは劣っている。

 それに最初に放たれた魔力も、俺たちに届くことがなかった。

 俺の作った魔道具の耐久力が落ちていないことから、ミアが使った神聖魔法の防御を突破出来なかったことが分かった。

 さらにその神聖魔法の効果は継続中だ。

 個体差によって魔法の威力は変わるかもしれないが、これなら他の人たちが接近戦で戦っても大丈夫そうだ。

 本当は何処まで魔法の防御が続くかの実験もしたいところだけど、皆を待たせているためそれは自重した。

 最初に魔力が放たれてからだいたい五分後、再びブラックオークから魔力が放たれたのを確認した俺は、ミスリルの剣に光属性を付与して決着をつけた。

 ブラックオークの死体を回収しながら、戦って分かったことを皆に話した。


「なるほど。俺たちが簡単に倒せたのはソラやミアたちのお陰だし、そんなに弱いわけではないだろう。少なくとも今狩りをしてる連中は、その対策がある程度出来ている奴らってことなんだろうしな」

「そうだな。それにアルゴ、ギルドでレッドオークとブラックオークの素材の買取依頼が結構張り出されていただろう?」

「ああ、そう言えば結構あったな」


 先日情報収集に行った時にギルドで見掛けたとアルゴとギルフォードの二人は言った。


「攻撃はソラに光属性を付与してもらうか、ミアの神聖魔法頼りになるね。ミア、負担が増えるかもだけど大丈夫?」

「ソラじゃないけど、歩いている間に回復するから大丈夫よ」


 ルリカの心配に、ミアが笑いながら言った。

 それを受けてルリカたちも笑みを浮かべた。

 連戦することは魔物の分布からしてあまりないだろうけど。

 一応次の戦闘ではどういう動きをするかの話し合いを済ませると、次の魔物を求めて俺たちは歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る