第643話 対策

 ダンジョン五階に出る魔物はレッドオークとブラックオーク。

 見た目はオークだが、肌の色が赤と黒なのが特徴だ。

 ただの色違いかと思う人もいるが、力も素早さもオークジェネラル並みに高い。

 もっとも一番厄介なのは、レッドオークは炎を、ブラックオークは闇系統のスキルを使ってくるところだ。

 レッドオークは炎の力で自信を強化して高い攻撃力を誇る。火の魔法を使うから遠距離からも攻撃出来るが、一番の脅威は武器による斬撃だ。

 武器に炎を纏わせるため、まるで火の魔剣みたいだという。


「あとは個体差もあるが、高レベルのレッドオークはオークキングやロード以上の力を持っている。そいつに遭遇したら逃げた方がいいという話を聞く。まあ、外見からはあまり分からないって話だけどな」


 これが五階で狩りをする人が少ない理由みたいだ。

 ならこの階はレッドオークが厄介なのかというと、ブラックオークも面倒な相手だ。

 レッドオークは攻撃に秀でているが、ブラックオークはどちらかというと守りよりの魔物だ。

 その身に闇を纏い攻撃を防ぎ、状態異常を引き起こす闇魔法を使ってくる。

 その中でも一番危険視されているのは魅了の効果だ。

 魅了にかかると仲間同士で戦うことになる。

 魅了状態になった者はこちらを敵と認識して全力で襲ってくるのに、相対する方は仲間を傷付けることに遠慮して本来の力を発揮出来ないから、どうしても不利になる。


「ただ闇魔法は対策すればかかることはない。実際それ用の魔道具も売ってるからな」

「それでも狩る人は少ないのか?」

「その魔道具が高いというのも理由の一つだが、一番は討伐数の関係だな。レッドオークとブラックオークをそれぞれ二五体ずつ狩らないといけないんだよ」


 合わせて五〇体では駄目だということだ。

 今までの階はどの魔物を一体狩っても討伐数が一カウントされていたからな。

 二分の一ではあるけど、それが面倒な魔物となると敬遠されるのか。


「まあ、俺たちはソラやミアがいるからその辺りは大丈夫だと俺は思ってる。あとは遠距離攻撃出来る子も多いからな」


 闇魔法の状態異常は神聖魔法で防ぐことも、治すことも出来る。

 あとブラックオークの状態異常を引き起こす闇魔法の効果範囲は、術者本人を中心に五メートルぐらいとのことだ。

 その距離を維持して倒すことが出来れば、安全に狩りをすることが出来る。

 俺やクリスの魔法、ヒカリの斬撃スキルなら遠距離から安全に攻撃出来る。

 魔法使いが重宝されるのもそれが理由みたいだ。

 ここで狩りをしたいけど狩りが出来ない。そんな人が多いようだ。


「それで一日休むか? それとも明日ダンジョンに行くか?」

「今から休めば十分疲れは取れるし、俺たちは明日出発でもいいよ」


 この辺りはルリカたちにも確認済みだ。


「なら明日行くか」


 俺は頷くと、


「そういうアルゴたちの方こそ大丈夫なのか?」


 と逆に尋ねていた。


「ああ、大丈夫だ。ていうか、昔行ってた頃に比べると、かなり楽だよな。正直信じられないペースで狩りしてるわ」


 ギルフォードたちが当時のことを思い出したのか、遠い目をしている。

 前回来た時は冒険者になったばかりで、五人でダンジョンに挑んでいたから一回ダンジョンに入って戻ってきたら、それこそ二、三日。多い時は一週間近く休んでダンジョンに挑戦するを繰り返していたらしい。



 部屋に戻った俺たちは、体を休めつつ明日の準備をする。

 ミアに聖水を作ってもらい、闇魔法を防ぐための魔道具を創造する。

 魔石は……オークのものを使う。

 強い魔物の魔石の方が魔道具の効果は高いけど、複数使用することで同等の効果まで高めることは可能だ。

 それがゴブリンやウルフの物となると、かなりの数が必要になってくるけど。

 今回わざわざ魔道具を作ったのは、安全確保のためだ。

 遠距離で倒すにしろ、神聖魔法で防げたり治療出来るにしろ、ダンジョンでは何が起こるか分からないからな。

 不意を突かれることはないと思うが、突然近くに魔物が湧くこともある。

 それが終わったら魔力付与をした投擲武器を作る。

 これは光属性を付与した斧がメインだ。闇を纏うということで、対ブラックオーク用の武器だ。

 素材を気にしないで倒すだけなら今の俺たちのレベルなら簡単に出来そうだけど、今回は肉を確保したいからな。

 あとアルゴたちの話では、レッドオークとブラックオークの皮は素材として高値で買い取りをしてくれるそうだ。

 お金には困ってないが、稼げる時に稼いでおきたい。

 あとは自分たち用の素材もある程度確保しておきたい。

 錬金術や創造スキルを使えば、火と闇の耐性のついた装備が作れるみたいだからな。

 だからルリカたちには素材を回収出来るように出来れば狩って欲しいと伝えた。

 もちろん余裕があればとも言った。

 五階への攻略には間に合わないが、今後別のダンジョンに行った時に役に立つはずだ。

 少なくともプレケスダンジョンの最下層に出る魔物は、ドラゴンという話だしな。

 俺は人数分の魔道具とその予備を作り終えたら、明日に備えて早めに休むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る