第642話 ズィリャダンジョン・8
昼過ぎ。その機会はやってきた。
「ヒカリ、いいぞ」
男たちがちょうどT字路の角から出る直前に、ヒカリがシャマルの角笛を吹いた。
背筋がゾクリとするような低音が鳴り響き、周囲に魔力反応が生まれた。
その数一一。
次の瞬間、魔力反応のあった場所に魔物が現れた。
ヒカリはその魔物たちを目にして目を輝かせた。
たぶん、他のパーティーだとこんな反応をするのは極一部だと思う。
「オ、オークジェネラルの群れ!」
通路の先から裏返った叫び声がした。
声の指摘した通り、シャマルの角笛で呼び出されたのはオークジェネラルたちだった。
通路から現れた反応は立ち止まり、金属の鳴る音がした。
オークジェネラルの壁に遮られて、きっと俺たちのことが見えていないのだろう。
次の瞬間、「えっ」という驚きの声が聞こえた。
今目の前で、三体のオークジェネラルが血飛沫を上げて倒れた。
飛び散った血がダンジョンの壁を汚す。
ジェネラルの悲痛な声が上がる。
仲間たちが倒されてもジェネラルたちは俺たちの方に襲い掛かってくる。
威嚇するような叫び声を上げて手に持つ武器を振り上げるが、その手は振り下ろす前に斬り裂かれ飛び散る。
腕は壁にぶつかり、鈍い音を鳴らした。
一体、二体、三体と次々とジェネラルたちが倒れていくと、向こう側にいた男たちの姿が見えた。
驚き表情を浮かべ、引き攣らせている。
最後にセラがジェネラルに接近すると、左右の手に持った斧を横に一閃、縦に一閃と十字に振り抜いた。
ジェネラルの体は四つに分かれると、断末魔を上げることなく地面に落下した。
切り裂かれたジェネラルたちの死体を回収すると、通路や壁は血で汚れていた。
本来ならこんな派手に倒さないが、今回は男たちに分かりやすく、またインパクトを与えるためにわざとこのような倒し方をした。
これはギルドでは売れないな、なんて思ったけど、自分たちで消化するから問題ないか。
「主、動かない」
「確かに動かないな。まあ、目的は達成したしいいんじゃないかな? 別にわざわざ声を掛けるほどでもないだろうし」
「そうだな。さっさと帰ろうぜ」
アルゴが男たちの方を見ながら言うと、男たちが視線をサッと逸らした。
俺はその様子を横目で確認すると、クリスと手分けして洗浄魔法を使い、入り口目指して歩き出した。
結局男たちが動き出したのは、俺たちが通路の先を曲がり、視界から消えてさらに時間が経ってからだった。
その足は遅く、進行方向は同じみたいだが、その差は開く一方だった。
「力差を見せつけられて、関わるのは危険だと思ったのかもな。リックたちからその時のことは聞いたが、かなり偉そうだったんだろう?」
俺がMAPで見た男たちの動きをアルゴに話したら、そんな言葉が返ってきた。
「確かにあれを見たらもう近付いてこないだろうな。本当ならやり過ぎだっていうところなんだけどな」
ギルフォードがリックたちの戦いぶりを思い出したのかそんなことを言った。
リックなんて力任せに斧を振り回し、刃の腹の部分で殴打させて肉片をばら撒いていたからな。
普段は物静かなんだけど、怒らせてはいけないタイプだ。
その様子も、男たちの目にはっきり映っただろう。
その後リックはヒカリに謝っていたけど、ヒカリはヒカリで気にした様子もなく、むしろビビっている男たちを見て満足している感じだった。
「戻ってきたけどボスはどうする?」
「……待ってるのは二つのパーティーだけみたいだし行くか?」
アルゴは俺たちの反応を見て、早速登録している。
その選択は正しかったようで、待っている間に次々とダンジョンから戻ってボス部屋の予約を入れる人たちが増えていった。
増えていった原因は、俺たちの前に登録したパーティーが、中に入ってからすでに三〇分以上戦っているからだ。
いや、その前のパーティーも同じぐらい時間がかかっていたか?
その理由は中に入って知った。
四階のボス部屋は三階までよりも広く、一辺が七〇メートルぐらいあった。
対面の最奥にはオークジェネラルの姿があり、その前にはオークウォーリアー、オークメイジ、オークアーチャーが隊列を組んでいた。
その数全部で三〇!
俺たちがセーフティーエリアから出た瞬間、オークジェネラルは叫び声を上げると、それが合図となって魔物たちが前進を開始した。
けど魔物たちが俺たちの近くまで到着することはなかった。
詠唱を終えたクリスが杖を振るえば、炎の波が魔物たちを呑み込んでいく。
悲鳴一つ上げることなく焼き尽くされ、炎が消えたあとにあったのは、一つの宝箱だった。
「今のが精霊魔法か……」
「はい。色々と使いどころは難しいですが、その分威力は強力です」
魔力の消費量が多いのと、魔法を発動するまで時間が必要といったところか。
今回はセーフティーエリア内で準備を済ませたからすぐ使うことが出来た。
「で、今回のお宝はなんだ?」
「笛があった」
宝箱を開けたヒカリは、シャマルの角笛を手にしていた。
鑑定すれば使用回数は四回となっていた。
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