第640話 ズィリャダンジョン・6
「相変わらず美味いな」
アルゴが肉串を噛みしめながら呟いた。
ギルフォードたちも同意するように頷き、皿に盛られた肉串に手を伸ばす。
ヒカリ作の肉串は一つの塊が大きいけど、大の大人には一本ではお腹が満たされないようだ。
ヒカリも負けじと二本目に手を伸ばす。
「今回はタイミングが悪かったな」
三階では階段近くに魔物を捕縛して売ろうとする人はいなかったが、見事に階段近くには魔物がいなかった。
魔物が湧く場所はランダムだが、近くにいれば普通の人なら狩る。
三階はボスがゴブリンロードということで、ボス周回する人は他の階と比べると比較的少ない。
それでも狩る人がある程度いるのは、目当ては野良で出現するゴブリンキングだ。
ここはゴブリン系のロードを除く上位種が出現して、キングも稀に出る。他の上位種と比べると強敵だが、キングは時々魔剣を持って現れるため、それを皆が狙う。
もっとも個体によって持つ武器が違うため、当たり外れは存在する。
また魔物が死ぬと同時に装備品も消える時があるから、運要素は高いみたいだ。
「ま、ゴブリンとはいえ、上位種となれば魔石も高く買い取ってくれるからな。あとはアイテム袋を持ってない奴らは、こっちの方が稼げるってのもあるかもしれないな」
稼ぎとしては四階の方がオークの肉の分だけ稼げるけど、問題はその肉を持ち帰ることが出来るかどうかだ。
大容量を収納出来るアイテム袋ならそのまま持ち帰ればいいけど、色々条件はある。
一番はやはり保存状態。時間経過と共に腐るから、素早く戻る必要がある。血抜きをすれば劣化するまでの時間を長くすることが出来るが、ダンジョンで血抜きは難しい。
特にここは迷宮型だから、吊るす場所がないからな。
「そういえば、ここのダンジョンは入り口に戻ることが出来るマジックアイテムはないのか?」
「入り口に戻る?」
俺はアルゴたちにマジョリカダンジョンにあった脱出用の帰還石の説明をした。
「聞いたことあるか?」
「俺はないな」
アルゴがギルフォードに尋ねたが、知らないと言った。
「まあ、貴重な物だと情報を隠す輩もいるからな。もしかしたら存在はするかもしれねえけどな」
「確かに。そういう物はオークションにかけられたりするけど、俺たちとは無縁だし。魔物に関する情報は集めたけど、アイテム関係は見掛けないと分からないな」
アルゴに続いてギルフォードが答えた。
ちなみにシャマルの角笛のことをアルゴたちが知っていたのは、アルゴたちが利用していた時は格安でシャマルの角笛が売られていたかららしい。
「俺たちがここに到着してダンジョンのことを調べている時に、売ってないか確認したことがあったんだよ。そしたら見事に何処の露店にも置いてなくてな。貴重品になってるって聞いて驚いたものだ」
「……なら売った方がいいか?」
「別に金には困ってないしな。それにこれだけ美味い飯が食えるならそっちで十分元が取れるってもんだ」
リックたちも頷き、すっかり王国や他の国で美味いものを食べてきたから、いまさら帝国の不味い飯は食えないと言った。
宿だと普通に美味しい料理も、屋台だと微妙だったしな。
保存食の栄養価は抜群に高いんだけど味は……終わっているからな。
「よし、それじゃ午後の狩りと行くか」
食休みを挟んで、ダンジョン探索を再開した。
ゴブリンキングに会うことはなかったけど、入り口から離れるほどさすがに人は減っていって遭遇することは増えた。
「これから戻るのが大変なんだよな」
予定数を狩り終えたあとに、アルゴがため息交じりに言った。
これにはアルゴたちのパーティーだけでなく、ルリカたちも頷いている。
歩いて嬉しいのは俺ぐらいだからな。それは仕方ない。
結局三階のダンジョン探索は、四泊五日かかった。
戻って来てボス部屋を覗けば、誰もいないからそのまま申請して狩った。
「ボスが一番楽だな」
三階のボスはゴブリンロードとその取り巻きだけど、倒すのに十分もかからなかった。
威圧のことを思い出したから試しにロードに使ったけど、一秒も満たないほんの一瞬だけ動きが鈍っただけだった。
やはりロードは耐性があるのか効きが悪い。取り巻きには普通に効いていたしな。
宝箱の中身は……何もない?
「あー、極稀に出るって話だったけど、本当に何もない時があるんだな」
アルゴによれば、高価なアイテムを引き当てるのと同じぐらい、いやそれ以上に滅多にないことのようだ。
「それでゴブリンロードの魔石はどうする?」
「出来れば俺の方で買い取りたいかな」
「分かった。それ以外のやつはどうする?」
「そっちは売ってくれていいよ」
貴重な魔石は錬金術や創造で使う時があるかもだから一応残しておいてもらう。
他の魔石はギルドで売って、一度人数分で割って、そこから俺が皆にロードの魔石分のお金を払う。
遠慮されたけどそこはしっかり受け取ってもらった。これはアルゴたちだけでなく、ルリカたちにしもしっかり渡した。
最終的にパーティーのために活用されるにしても、本当に使うかどうかはまだ分からないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます