第639話 勧誘?
その男は嫌らしい目付きで、クリスたち女性陣を舐めるように見ている。
クリスとミアの二人は俺の背後に逃げるように隠れた。
「何だ、お前たちは?」
「あ? おっさんには用がねえんだよ」
リックの問い掛けに、男は吐き捨てるように言った。
「なあ、嬢ちゃんたち。そんなおっさんたちとは別れて、Bランク冒険者である俺らのパーティーに入らねえか? ちょうど五人分空きがあるんだ。そこの獣人も……まあ、入れてやる」
その言葉にルリカが体を小さく震わせた。手を見ると握り締めている。
俺はそれを視界の片隅に捉えながら男たちを鑑定した。
……うん、三〇台か。一番高くて三四。獣王国のダンジョン利用者に比べると低めだが、マジョリカダンジョンだと中堅ぐらいのレベルではある。
マジョリカのダンジョンの冒険者もそうだったけど、ダンジョンはランクが上がりやすいみたいだ。
「おい、そこの餓鬼。邪魔だ。どけ!」
考え事をしていたら怒声を浴びた。
どうやら男たちには俺がクリスとミアを庇っているように見えたようだ。
背後にいるクリスが裾を握ったのが分かった。その手は少し震えている。
レベルだけならクリスの方が上だけど、こうも威圧的な態度をとられると怖がってしまうのは仕方ないのかもしれない。嫌悪感や怒りを覚えているだけかもだけど。
それもあって、俺に矛先が向けられた時に無意識にスキルを使っていた。
威圧。このところ出番のなかったスキルだ。
正面から威圧を受けた男は、体を震わせ、一歩下がるとバランスを崩して尻餅をついた。
咄嗟に使ったのと、久しぶりに使ったため加減を間違えた。
うん、抑えるのを忘れて全力で使った。
しかも対象を、言葉を吐いた男一人に絞っていた。
男は口を震わせて何かを言おうとするが言葉が出てこない。
男の様子に周囲にいる仲間たちも困惑している。
俺は男が脂汗を流し始めたのを見て威圧のスキルを止めた。
すると男は大きく息を吐きだし、深呼吸を繰り返した。
どうやら威圧を受けている間、まともに呼吸も出来なくなっていたようだ。
基本魔物にしか使っていなかったのと、久しぶり過ぎてここまで効果が出るのかと驚いた。
男の仲間が大丈夫かと声を掛けているけど、反応がない。
その状態が続くと、何事かと周囲の人の視線が集まり出した。
男たちはその視線を受けて、倒れた男を立たせると俺たちの前から逃げるように去っていった。自分で歩けないのか、威圧を受けた男は肩を借りていた。
俺はMAPを呼び出して気配察知と魔力察知を使って男たちの反応をMAP上に表示させると、それを記憶スキルで覚えた。
また絡んでくるかもしれないし、一応覚えておこう。
襲ってくるなんてことはないと思うけど、念のためだ。
「ソラ、何かしたのか?」
男たちの背中を目で追っていると、リックが声を掛けてきた。
「……相手を威圧するスキルをちょっと……」
俺が答えると、ルリカは一瞬笑みを浮かべた。
良くやったと俺だけに分かるように合図も送ってきた。
「そうか……とりあえず宿に戻るか?」
リックの提案に反対の声は上がらなかった。
「少しの間、ソラたちだけで外に出るのは控えた方がいい」
「同じようなことが起きるかもしれないってことか?」
宿へ戻る途中、リックから忠告を受けた。
「可能性はある。ただ下の階に進めばそれも減るはずだ」
「リックの言う通りだね。下に行けば実力者だと理解するはずだよ。まあ、僕たちに付いて来ているだけなんて考える輩もいるかもだけどね」
クリフトが苦笑しながら言った。
実際は俺たちだけでも強いけど、それを知らない人は腰巾着と思うかもしれない。
一階、二階のボス部屋を短時間で攻略したといっても、それだけで実力者と認めらえることはないだろうからな。
宿屋に到着すると、リックたちと別れて部屋に戻った。
アルゴたちはまだ戻ってきていないそうだ。
「時間が余っちゃったね」
ベッドに腰を下ろしたルリカが、足をブラブラさせながら言った。
まだ昼前だしな。
「宿の調理場を借りられるか聞いてみるか?」
お昼の準備をするとなると借りることは出来ないかもだけど、調理場が空く時間があればダンジョンの中で食べる用の料理を作っておきたい。
今のところ一泊二日で戻ってくることが出来たけど、五階まではボス部屋に入るために必要な討伐数は増えていくし、ダンジョンも広くなっていくから、今よりも時間がかかるはずだ。
シャマルの角笛を使えばまた別だけど。
一応アイテムボックスの中には三カ月分の料理のストックと、調理前の食材なら半年は十分持つだけの量はある。
帝国に行くということで買いためてきたからだ。
ただこれはあくまで俺たちパーティーのみの場合だから、アルゴたちも食べれば消費はもっと早い。食欲旺盛だしな。
ダンジョン内で調理も可能だけど、匂いとか煙の問題もあるから、出来ればダンジョン内では料理はしたくない。
料理をしているところを見られたら変に注目されそうだし……いや、普通に料理を食べていればそれだけで目立つか。
かといって保存食は食べたくないからな。そこは気配察知を使うなりして食べる場所を選べばいいか。
「そうね。どうせ暇だし、聞いてみよっか」
ルリカは立ち上がると、宿の人に聞いてくると部屋を立出た
宿屋の中なら変な奴が寄って来ることはないと思うが、一応俺も付いて行った。
最終的に空いている時間なら調理場を貸してもらえることになった。
宿で使っている調理器具は魔道具のため、使用料を支払わないといけないと思ったが、宿の人は俺たちが料理をしたいと聞いて、俺たちの知る料理を教えるのを条件に無料で使わせてもらえることになった。
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