第636話 ズィリャダンジョン・4

 待機所で待つこと一時間。俺たちに順番が回って来るのには、まだ一六組前にいる。

 するとそこに、先ほど待機所を出ていったエッグが姿を現した。

 エッグは俺たちが見ていることに気付くと口元に笑みだけ浮かべて、そのままボス部屋の扉の前で立ち止まった。

 その数一四人。

 やがてエッグたちは順番に中に入って行く。

 二人一組で入ったのが三パーティー。三人一組と五人一組で入ったのがそれぞれ一パーティー。エッグは二人一組のパーティーで入って行った。

 彼らは五つのパーティーがボス部屋にかかった時間は、一組あたり一〇分もかかっていない。

 特にエッグともう一つのパーティーは、入ってから五分ちょっとで次のパーティーが入ったほどだ。


「さすが漆黒の人たちだ。凄い」

「けっ、これ見よがしに。楽勝で狩れるならもっと下のボス部屋に行けよ」


 などなど周囲から声が聞こえてくる。

 憧れ半分、やっかみ半分といったところか?


「ああやって力を見せつけているのかもしれないな」

「その通りだ。けっ、帝国の五大クランの一角なんて言われてるが、結局帝都では通用出来なかった名前ばかりの弱小クランだよ」


 ギルフォードの呟きに、近くにいた中年冒険者が吐き出すように言った。

 突然のことに俺たちが驚いていると、その中年冒険者はしまった、といった表情を浮かべた。

 どうやら今の発言は意図したものではなくて、つい本音を零したといった感じのようだ。

 俺たちの視線を受けて気まずそうにしていたが、


「少し、詳しく話してくれないか?」


 とギルフォードがにこやかに言ったら不承不承頷き話してくれた。

 そして一度口を開くと、男は色々溜まっていたのか吐き出すように話し始めた。

 その冒険者はこのダンジョンを昔から利用しているベテラン冒険者で、今のダンジョン環境を快く思っていないようだ。

 彼のような者は一定数いるようで、暗黙の了解となっているのが気に入らないようだ。

 男の話は仲間が呼びにくるまで続いた。

 男の話によれば、現在帝国には大きなクランが五つ存在する。漆黒はその中でも一番新しいクランということだ。

 ただ大手のクランは主戦場を帝都としていて、漆黒も帝都の騒動前は帝都で活動していたが、騒動の日を境に一部の人員を残して帝都から手を退き、活動の場をこちらに移したそうだ。

 それでこの街での活動人数が増えた漆黒は、いよいよ大きな顔をし始めたそうだ。


「まあ、半分以上は妬みだろうな」

「何でそう思うんだ?」

「まともに狩れるなら、ボス部屋を周回する必要もないだろう? 他の階のボス部屋の込み具合は分からないが、それこそ空いているならそっちで周回する方が早いだろうしな」


 ギルフォードはそういうが、ボス部屋に入るためにはその階層の魔物を一定数狩る必要がある。

 それを考えると一階を周回する人が増えるのは仕方ないと思う。

 ダンジョンは下に行くほど広くなるわけだから、索敵能力に優れていたり、安定してその階層の魔物を狩れないと、どうしても難易度の低い場所を選ばざるを得ない。

 それに今回ボス部屋に挑戦するのは、息抜きだって可能性もあるわけだし。

 俺がそんなことを話したらギルフォードとリックは苦笑していた。

 そこからさらに一時間半待つと、残りが五組になった。


「皆を呼びに行ってくる」


 俺が呼びに行こうと思ったら、リックが立ち上がって待合所を出て行った。

 それから十分もしないうちにアルゴたちが戻ってきた。

 合流したところで待合所で聞いた話をしながら待つことさらに一時間。いよいよ俺たちの順番になった。


「とりあえず全力で倒してさっさと出ようぜ。話を聞く限り、早く終わらせればこちらがそれだけの能力があるってことを、ここで待っている奴らに知らしめることが出来るだろうからな」


 ということで今回は魔法で倒すことにした。

 魔法で倒すと素材の回収が難しくなるけど、そこはゴブリンだからということになった。

 そして俺たちはボス部屋に入った瞬間、俺とクリスが広範囲魔法を放って倒した。

 その後宝箱の中身を確認し、角笛のようなものを回収すると、そのまま宿に戻った。

 たぶん、ボス部屋に入って出るまで三分もかかっていなかったと思う。

 宿に戻るとアルゴたちの部屋に一度集まって、宝箱から回収したアイテムの確認をした。


「これはある意味俺たちにとっては当たりのアイテムだな」


 アルゴの話によると、これはここのダンジョンでしか効果のないアイテムで、昔は外れアイテムだったみたいだ。


【シャマルの角笛】ズィリャダンジョン専用アイテム。魔物を呼び寄せる。使用回数残り八。


 魔物を呼び寄せるか。確かに探す手間を省けるなら俺たちにとって当たりアイテムだ。


「魔物を呼び寄せるってあるけど、どういう感じになるんだ?」

「近くに魔物が現れる感じだな。一回に現れる数はその都度変わるから、使う場合は前もって戦闘準備をする必要はある。多い時は一〇体を越すって話を聞いたことがあるが、まあ、俺たちなら大丈夫だろう。あと、これは何回か使うと壊れる」


 それが使用回数か。次の階から積極的に使うのもありだけど、下の階の状況を出来れば知りたいな。

 魔物の売る商売が何階まで行われているかが分かれば、このシャマルの角笛を何処で使うのがいいか決めやすくなるからな。

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