第632話 ズィリャダンジョン・1

 翌日早速ダンジョンへと向かった。

 昨日アルゴたちから話を聞いたからか、途中にある露店で拘束用の道具が多く売られているのが目についた。


「そういえばアルゴたちは何階まで行ったことがあるんだ?」

「俺たちは七階までだ。七階で宝箱の当たりを引いてな。まとまった金も貯まったし、そこで王国に活動の場所を移した」

「それはボスを倒した宝箱から?」

「いいや、ダンジョンを回っている時に見つけた。あの時はボス部屋の魔物を倒せるか自信もなかったからな」


 だからアルゴたちは七階のボスとは戦ったことがないと言う。

 昨日聞いた話では、ズィリャダンジョンのボス部屋はマジョリカのダンジョンと違って、時間制限があるという話だった。制限時間をオーバーすると討伐失敗となって強制退出されるそうだ。

 またボス部屋にはセーフティーゾーンもあり、そこにいる限りボスに襲われることはないため、倒せないと判断したらそこまで移動して時間がくるのを待てばボス部屋から安全に出ることが出来るということだ。

 ただしそこにはルールが存在し、セーフティーゾーンから攻撃した場合は、それが解除されてしまうということだった。ズルは駄目みたいだ。

 もちろん再び入った時は再びセーフティーゾーンは復活しているが、その戦闘が終わるまでの間は二度と使えなくなるそうだ。

 また時間制限で強制退出された場合は、一〇日間ボス部屋への再入場が出来なくなるということだ。

 ここでの注意点は、例えばパーティーを一度解散して別パーティーを組んでも駄目で、ペナルティーを受けている者が一人でもいると、ボス部屋を利用することが出来なくなる。

 さらにこのペナルティーは、他のボス部屋にも適応されるため、六階のボス部屋で時間制限のペナルティーを受けると、他の階のボス部屋も利用が出来なくなると厳しい。


「命があるだけいいんじゃない?」

「確かにその通りだ」


 ルリカの言葉にアルゴは頷いている。

 実際マジョリカのダンジョンはボスを倒すまで外に出ることは出来ない仕様になっていたからな。



「よし、それじゃ行くか」


 アルゴの気合の入った声に俺たちは頷き、入り口の台座でパーティー申請をしてダンジョンへと入っていった。

 ズィリャのダンジョンは迷宮型だ。石造りの壁は仄かに発光しているため視界は良好だ。


「長時間いると時間の感覚が狂うのが難点だけどな。近場で活動する奴らはいいが、泊まりで活動する場合は注意が必要だ」


 この辺りはマジョリカと変わらない。

 まあ、うちには優秀な時間管理者がいるから大丈夫だ。

 ヒカリの腹時計の精度は高い。


「一つ気になったんだが、例えば魔物を今日五体討伐するじゃないか。それで外に出た場合はどうなるんだ? 次に入場する際は続きからになるのか? それとも最初からになって、一〇体狩らないとボス部屋には入れないのか?」

「それは討伐数が記録されて残る。台座でそのように手続きをすればいい。ただそうだな。例えば一階で魔物を五体狩って、記録を残す。この時既に次の階に進める権利を持っているから途中で止めて二階に進む。そこで二階の魔物を一匹でも狩ると、一階で狩りした討伐数はゼロに戻るようになってる」


 討伐数が初期化されるのは別の階の魔物を狩った時か。

 階を跨いだだけでは初期化されないということか。

 何故このような機能があるかといえば、下の階に行くほど魔物は強くなり、討伐数も増えていく。

 そのため一度のダンジョン攻略で討伐数をこなせない場合もあるし、仮に狩れたとしても消耗品などの補給や疲れを癒したいと思う場合もある。

 そのためすぐにボス部屋に挑戦する人は先の階に進むほどいないそうだ。

 あとはボス部屋に行けばその理由が分かるとも言われた。

 ボス部屋からの退出もそうだけど、かなり親切な設計のダンジョンだ。

 俺はアルゴとの会話が終わるとMAPを呼び出した。

 うん、ここでも普通に使える。

 気配察知に魔力察知を使えば、MAP上に反応も表示される。

 なるほど。階段近くに反応が多い。

 こっちの反応が人で、こっちが魔物か?


「ソラ、どうなの?」

「問題なく見ることが出来る。けどアルゴたちの言った通り、階段に近いところに多くの反応がある」


 たぶん捕縛しているのだろう。

 では捕縛されていないで自由に動いている魔物は何処にいるかというと……入り口からかなり離れた場所には一定数いる。

 しかも一体か、もしくは二、三体で行動しているのが圧倒的に多い。

 ダンジョン内は迷路になっているから、場所が分かっても、そこに辿り着くまでに時間がかかる。

 その辺りのことを考えると、お金を払うのもありなのかもしれない。

 俺の場合はMAPがあるから魔物の位置が分かるけど、普通の人たちではこんな簡単に分からない。

 地図は売られているけど、道は分かっても魔物が何処にいるかは分からないわけだし。


「アルゴ。魔物を倒したとカウントされる場合だけど、パーティーメンバーが離れすぎていると討伐数にカウントされないとかあるのか?」

「そういうのはあまり聞かないが、何でだ?」

「例えばだけど、今は俺たちとアルゴたちの二つのパーティーが合流しているじゃないか。魔物を狩るのに二手に分かれた場合どうなるのかと思ってさ」


 効率を考えたら、そのような手段を取る人もいそうだと思い気になった。


「ソラ、普通はダンジョンでそんなことはしないぞ。たとえ相手がゴブリン系の魔物でも、危険の方が大きいからな。一応ボス部屋には一度に入れる人数も決まっているしな」


 ちなみにボス部屋の上限は一五人とのことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る