第633話 ズィリャダンジョン・2

 MAPに従い魔物のいる方向を目指す。

 ただフリーで動く魔物までは、一番近い場所でもかなり歩く必要がある。

 だいたい二〇〇〇〇歩ぐらいか?

 次の魔物まではその半分ぐらいになりそうだけど、一〇体倒すとなると一日では終わりそうもないな。


「主、人と魔物がいる?」

「ああ、次のT字路の先にそれぞれいるな」


 右と左、どちらに進んでも反応がある。

 冒険者の人数は右が七人、左が三人。魔物の反応は右が一八。左が一一といったところか。

 俺たちがT字路の突き当りに到着した瞬間。右側から口笛のような音が聞こえてきた。

 その音に反応して右を向けば、口元に笑みを浮かべた男が立っていた。


「見ない顔だな。ここは初めてか?」

「用件は何だ?」


 俺が何か答える前に、アルゴが一歩前に出て尋ねた。

 その怒気の乗った声に冒険者一瞬怯んだが、すぐに再び笑顔を浮かべて尋ねてきた。


「いや、実は魔物を捕えていてよ。買わないかって話だ。ここのダンジョンは広いし、自力で探すとなると大変だ」

「結構だ。必要ない」


 アルゴの冷たい声に、男は頬をヒクヒクさせている。

 その態度に男の背後にいる仲間たちから、剣呑な空気が漂う。


「おいおい、俺は親切で言っているんだ。この辺りには魔物はいない。下の階に早く行きたいならお得だぜ?」

「ソラ。どっちの方が近いんだ?」

「向こうだな」


 男の言葉を無視してアルゴが聞いてきたから、反対方向を向く。

 アルゴはそれを聞いて歩き出す。

 俺たちも別にわざわざ買うつもりはないからアルゴの後に続く。

 完全に無視された男は声を荒げて罵声を浴びせてきた。

 どうやら営業モードは終わったようだ。

 そのやり取りの一部始終を見ていた左の冒険者たちは、口を開きかけてすぐに噤んだ。

 アルゴが睨んだ結果だ。

 俺は冒険者から捕縛された魔物に目を向けた。

 通路の幅は一〇メートルほどあり、拘束された魔物が壁際に寄せられている。

 手足を拘束されているが抵抗はしていない。

 目を瞑って眠っているみたいだ。

 アルゴが言うには、魔物専用の睡眠薬のようなものが使われているということだ。


「ここのダンジョンの魔物は、階によっては鳴き声で仲間を呼び寄せるみたいだからな。それを利用して魔物を集めたりしてる奴らもいるって話だ」

「ここは前からそうなのか?」

「いや、俺たちがいた頃はこんなことをする奴はいなかった。聞いた話だと、三年ぐらい前から始まったみたいだな」


 どうやら俺たちが来る前に色々調べてくれていたみたいだ。


「そういえばアルゴたちは、こっちに来てからランクを名乗ってないのか?」


 冒険者の中には率先して自分のランクを吹聴する者もいる。

 やはりランクが高いということは、一種のステータスだからな。

 特に帝国はランクが高いものほど偉いという話を聞いたことがあるし、威張る奴も多いと言っていた。ような気がする。


「確かに帝国ではランクが高ければ高いほど周囲に与える影響は大きい。ただ面倒ごもと多かったりするから、知られなければ知られないままでいきたい。まあ、さっきのは少し大人げなかったかもしれないけどよ」


 しつこい奴というか、関わりたくない奴を追い払うという点ではさっきので間違いないと思う。

 ただ一階にいてこんなことをしているからもっとレベルが低いのかと思ったけど、先に会った冒険者たちは二〇台前半、次に会った冒険種たちは二〇台後半とそれなりに高かった。

 上位種が出るとはいえ、ゴブリンたちなら余裕を持って倒せるレベルだ。

 アルゴたちの話では、二階はホブゴブリン。三階はゴブリン系の上位種のみ出るという話だったけど、三階でも普通に戦えそうなレベルだ。

 それこそ四階に出るオークたちとも。


「ま、あいつらのことは忘れようぜ。ソラがいれば別にああいう奴らは相手にしなくていいしよ」

「主その通り。魔物を買うなら、肉を買うべき」


 アルゴの言葉に、ヒカリが主張してきた。

 その言葉に、思わず皆から笑いが零れた。

 アルゴたちにはMAPについて事前に説明してある。


「ただ俺のスキルも万全じゃないから。一階は大丈夫だったが、他の階でも有効かは確かめないと分からないぞ?」


 実際MAPが上手く機能しない時は今までにもあったわけだし。


「その時はその時だ。ま、まずは一〇体討伐しようぜ」


 ダンジョンを歩くこと二日間。俺たちはゴブリンを一〇体倒し終わった。

 時間がかかったのはやはりフリーの魔物がダンジョンの奥までいかないといなかったからだ。

 あとはそういう狩りをしているのは、俺たち以外にもいくつかのパーティーが存在していた。

 そして俺たちが階段のところまで戻って来た時には、魔物を捕縛していた者たちはまだいた。

 いたといっても俺たちを罵倒してきた七人組の方だけで、休憩でもしにいったのか人数は二人減って五人になっていた。魔物の数は減っていない。

 彼らも俺たちのことには気づいたようだったが、特に何かを言ってくることはなかった。

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