第627話 山岳都市ユアン
「主、たくさん鳥がいる?」
山岳都市ユアンに到着して聞こえてきたのは鳥の鳴き声だった。
山岳都市ユアンは三メートルぐらいの木の壁で町を覆っているけど、これは外敵から守るためというよりは、鳥が町の外に出ないようにしているためのようだ。
また町の中もいくつかの壁で区切られていて、住民たちの生活空間と、鳥たちの飼育空間に完全に分けてある。
鳥は夜は専用の建物で休み、朝になると外に出て自由気ままに動いている。
もちろん建物の扉の管理をしているのは飼育をしている人たちだ。
基本放し飼いではあるけど、急な天候の変化などがあれば対応出来るようにしているみたいだ。
またユアンは自給自足が出来るように、町の中や、山の傾斜を利用して野菜の栽培もしている。
ただどうしても手に入らない物資はあるため、自慢の鳥を売ったお金で必要な物資を手に入れている。
そしてこの山岳都市はエレージア王国とエーファ魔道国家の国境線に位置する町でどちらの国にも所属していないが、どちらかというと王国との取引が盛んだ。
それは王国寄りの人が多いというよりも、単純に王国方面からだと山岳都市に来やすいからだ。
それでも魔道国家との取引を続けているのは、大人の事情があるのだろう。
「それじゃ可能な限り鳥を買うか」
「主、それは良い考え」
個人が買うとなると難色を示す町もあるけど、こういう時は商業ギルドのカードが役に立つ。
ギルドに貢献らしい貢献をしていないのと、最低限の会費しか払っていないので相変わらずランクは変わらないけど。
そもそも本気で商売をしようという考えがない。
基本買うものは自分たちで消費するものだし、魔物の素材を売る場合は、別に冒険者ギルドで事足りる。
まずは宿を取って、それから宿の人に聞いて鳥を管理している人を紹介してもらうことになった。
「それなら夜まで待てばいいよ。どうせ食事をしにくるからさ」
ということらしい。
「俺は少し町の中を見て回るけど、皆はどうする?」
俺が尋ねれば、ヒカリとミアがついてきて、ルリカたち三人とカイナは宿で休むそうだ。
通常の道なら問題ないが、さすがにこの山道は体に堪えたみたいだ。主にルリカが。
クリスとセラはどちらかというと付き添いだな。
ルリカが申し訳なさそうにしていたけど、それを見たヒカリがお土産を見つけてくると力強く言っていたけど、土産になるようなものが果たしてここにあるかだ。
町の中を歩いていると、町の人たちが色々と声をかけてきた。
どうやら見慣れないため警戒されているみたいだ。
俺がギルドカードを見せて、評判の鳥肉を買いにきたことを告げるとある程度警戒を解いて、話をしてくれた。
ヒカリとミアの存在も大きかったのだと思う。
特に小さなヒカリが魔道国家側から来たことを聞いて驚いていた。
町に入る時に馬車はアイテムボックスに収納して、歩いて手続きを済ませて入場したからな。
だから町の人たちにも歩いて登頂したと伝えてある。
それでこの町のことだけど、何でも屋みたいなお店が一軒あるだけで、他は何もないということだ。
その何でも屋で売っているのは日常品と趣向品だけだそうだ。
食料品は町から支給され、お金の方は働いた日数と商品の売れた価格で各自に払われるそうだ。
俺たちも何でも屋で商品を見させてもらったけど、いくつかのお酒とポーションを交換した。
特に欲しいものがあったわけではないけど、お店の人と話をしていてポーションが不足気味ということだったため交換した感じだ。
ミアのどうにかならない? 的な視線もあったからね。
「ルリカ姉。お土産なかった」
宿に戻るとヒカリは何の成果もなく戻ってきたことを誤っていたが、
「いいのよ、ヒカリちゃん。それに宿の人は鳥を使った料理を出してくれるって言ってたし、それで十分よ」
とルリカは答えていた。
確かにこの町の特産物は鳥肉だしな。
それでも宿の人が呼びに来るまで、ヒカリは町を回った様子を話していた。
やっぱり一番は見晴台のようなところから見た景色かな?
南北にそれぞれ建っていて、王国側と魔道国家側の景色を見ることが出来た。
眼下に見える傾斜具合を見ると、よくこんなところ登ってこられたな、と言ったところだ。
それを聞いたルリカたちは、ここを出発する前に一度見たいと答えていた。
話が盛り上がる中、宿の人が呼びにきたため俺たちは食堂へと下りた。
宿の客は俺たちだけで、他は全員町の人たちだ。
俺たちは空いた席に通されたけど、最初に料理を出してもらい早速いただいた。
出された料理は鳥の丸焼きから焼き鳥のような串料理。さらに鍋と鳥肉を前面に押し出した料理だ。
それを見たヒカリは目を輝かせて肉を頬張る。
一口食べて噛みしめれば、その頬が緩んでいる。
俺たちもそれに従い食べれば、ヘリアの町で食べた時よりも間違いなく美味しい。新鮮さ? それとも調理方法? そのどれもが当てはまっている気がした。
まさに鳥肉を知り尽くした人の作る料理といったところだ。
自然と口数が少なくなり、目の前の料理が次々となくなっていく。
俺は料理を噛みしめながら密かに料理スキルを使って、どんな調味料を使っているかなどを解析しながら料理を堪能した。
これと同じ味が旅先でも出来れば、また俺たちの食レベルが上がるからね。
俺たちが料理を完食するまでに、それほどの時間はかからなかった。
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