第626話 選択
山の麓に到着した。
ここから先は、二つのルートからどちらかを選ぶことになる。
一つはこのまま馬車に乗って進む道。
歩かず登っていくことが出来るけど、急勾配の道だと馬車で進むことが出来ないため、大きく蛇行した緩やかな坂道を登っていくことになる。
もう一つは徒歩での登山ルート。こちらは真っ直ぐ山頂を目指すことが出来る。
どちらの方が早いかは、馬車を牽く馬の能力と、登山する人の能力次第ということではっきりしていない。
ただ一つ言えることは、ここはエレージア王国からエーファ魔道国家に入る最短ルートになっているけど、利用する人は殆どいない。
だからこそ王国はナオトたちを秘密裏に魔道国家のダンジョンに向かわせるのに選んだみたいだけど。
俺たちが今回このルートを選んだのは、単純に通ったことがない新しい道というのと、あとは山岳都市ユアンで食べた鳥料理が美味しかったとコトリたちから聞いていたからだ。
その理由はヘリアで判明した。
「それで山の麓まで来たわけだけど、どっちで行く?」
「ソラは歩いて行きたいんだよね?」
ミアの問い掛けに俺は頷く。
歩く分には疲れないし、そこまで差はつかないと思う。
休まず進めるゴーレム馬車でも、急カーブの多いここでは速度も抑え気味になると思うからね。
「私たちは馬車、になるかな?」
クリスがルリカを見ながら答えた。
ルリカは激しく揺れる馬車は苦手だからな。
それでも傾斜の強い山道を歩いて登るよりはましと考えたようだ。
「主一人で大丈夫?」
「んー、それは確かに心配だけど、居場所は分かるし大丈夫ないかな? それにヒカリちゃんは離れていても様子が分かるでしょう?」
「うん、主の周囲に変なのがいたら分かる」
MAPで見る限り魔物もいなければ、人の反応もないからな。
ただ時々鳥の魔物が出るという話だから、むしろ俺よりも馬車組の方が狙われやすいかもしれない。
何せ歩き側の山道は周囲が木で囲まれているから空の魔物からは襲われにくい。
ただ木が多いと地上の魔物の接近に気付きにくいから、その辺りは遠くまで視界が確保出来るように工夫して背の高い場所は枝葉が多いけど、地上近くの枝葉は切り落としてある。
「それじゃ行くさ。最悪合流は山岳都市さ」
「ああ、それでいいよ」
セラが手綱を握ると、馬車は発進する。
特に問題なければ登頂まで二日で到着出来る。これは通常の馬車の速度で、夜通し走れば一日で到着出来るが無理はしないと言っていた。
徐々に速度を上げていく馬車を見送って、俺は獣道に足を踏み入れていく。
決してお世辞にも整備されているとはいえないけど、それでも馬車が通れる道が出来る前はここを利用していた。いや、今も山岳都市の人たちは馬車ではなくてこちらを使うと聞く。
そのため地面は踏み固められていて、意外と凸凹していない。
ただ降り積もった落ち葉が多く、雨が降ったあとだと滑って大変だなと思った。
傾斜が強いから前傾姿勢になりながら俺は山道を登っていく。
大きく吸い込めば、新緑の香りが肺の中に入ってくる。
どんなにきつくても疲れることはないから歩いていても苦にならないけど、それでも寂しさを感じてしまう。
いつもは多くの人に囲まれて移動しているからだろうな。
それでも馬車移動や転移の移動が多くなっているから、歩ける機会があれば歩こうと決めている。
俺は時々MAPに目を落として馬車の位置を確認するが、最初に比べて少し速度を落としているみたいだ。
特にお昼を食べてからは、さらに速度を落としたみたいだ。
確かに食後に乗り物に乗っていると酔いやすいと聞くからな。
一応馬車は振動が少なめに作ってあるけど、山道だとそれを全てなくすことは出来ない。
途中で馬車の通っている地面を調べたけど、歩いて登っている道よりも状態は悪く見えた。
その全てが悪いというわけではないけど、車輪の通った跡で凸凹の大きなところが目に付いた。
道の補修なんてこの世界では気軽に出来るわけじゃないからな。
あ、それとも土魔法を使える人が依頼を受けて整備しているのだろうか?
一応ゴーレムはその辺りを注意して走ってくれると思うから、大丈夫だと思うけど。
万が一轍に車輪が取られても、あのメンツなら十分対処出来ると思うしね。
そんなことを思いながら周囲の景色を楽しみながら歩いていたら、時間はあっという間に過ぎていく。
そろそろ日が暮れるけど、スキルがあるからこのまま進むことが出来るけど、どうやら休まないといけないようだ。
それは中腹で馬車が停まっているのがMAP上で確認出来たからだ。
「主、ご飯食べる」
坂を上り切って中腹に到着すると、ヒカリから最初に言われた一言がこれだった。
「ソラは放っておくと夜中も歩きそうだからね」
とミアにも言われた。
ここで馬車を停めて野営をしていたのは、それが理由だったみたいだ。
あとはゴーレムに任せるとはいえ、この山道を夜中も走らせるのは少し不安もあったようだ。
ただ俺も皆と食事を食べられて正直嬉しかった。
これでまた明日一人で歩いても大丈夫と思いながら、その日はゆっくり休むことにした。
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