第625話 道中

 プレケスを出た俺たちは、エーファ魔道国家の首都マヒアに寄り、ヘリアの町を通過した。

 マヒアでは一泊し、主に露店巡りで食料を補充した。

 マジョリカと違って野菜中心の料理が多くて、色とりどりの野菜のサンドイッチが並んでいた。

 その種類は二〇を優に超えていた。

 もちろん全て購入した。

 肉料理に関しては、やはりダンジョンのあるマジョリカの方が豊富だった。

 あとはマヒアは研究所の多い街で、マジョリカで冒険者が集まってクランを作っているのと同じように、いくつかの集団に分かれて魔道具の制作を行っている。

 その中には錬金術ギルドのギルド員が立ち上げた研究チームもあるようだ。

 またこの研究チームは魔道具だけでなく、過去の歴史について調べたり、魔法について研究している人たちもいるそうだ。

 中央図書館という大きな図書館もあるということで、機会があれば一度中に入りたいな。

 そんなマヒアから馬車で三日走らせたところにあるヘリアは、すぐ隣に川が流れている町だ。

 マジョリカの隣にあるロキアはこの水を利用して農業が盛んだけど、ここはこの水を使って畜産に力を入れている。

 育てているのは豚、牛、馬、羊、鶏みたいな鳥だ。

 馬は食用半分、あとは農業や馬車、騎馬用で育てているみたいだ。

 町は高い壁に囲まれていて、壁沿いに家が建てられていて、中央に向かって畜産をするための土地が広がり、また中心地に家が建っている。

 もちろん放牧している場所にも多くはないけど家は建っていて、そこは作業者が寝泊まりする宿舎みたいな感じで、町が管理している建物のようだ。


「鳥は少ないんだな」


 町の中を通り、思ったことを肉屋さんで聞いたところ、ユアンの町で鳥を育てているため、ここでは食用ではなくて卵を確保するようの鳥だけを育てているそうだ。

 その理由は宿に泊まった時に食べた鳥料理を食べて納得した。

 普通の家畜と比べて、肉なら魔物肉の方が美味しいけど、ユアンの鳥肉はオーク肉と比べても負けていない。


「主、ユアンにいったらたくさん買う!」


 とヒカリに言われたほどだ。

 だからここでは他の肉を購入し、あとは卵もある程度購入させてもらった。

 魔道国家内でこれだけ食料を確保しているのは、俺のアイテムボックスなら食料品が腐ることがないということもあるけど、一番の理由は帝国に行く前に出来るだけ多くの食料を確保したいと思っているからだ。

 前回ボースハイル帝国に行った時は魔王討伐隊が派遣される時だったというのもあるけど、ルリカやクリスの話だと、元々帝国は食料が不足しがちだということを聞いていたからだ。


「ダンジョンは多いけど、出る魔物に偏りがあるみたいなのよ。あとは魔物を持ち帰るってのは大変だからね。ソラは何でも運べるから気にしてないと思うけど」


 ダンジョンではわざわざ運搬用の人員を雇うなんてこともあるから、アイテム袋とか持っていない人たちは高く売れる素材を優先して集めるからな。

 長期ダンジョンに潜るなら肉は腐ってしまうし、それならいっそその場で食べれば、食料に困らないというのもあるみたいだしね。

 帝国の冒険者の多くは、不味いと有名な保存食を持っていくことが多いみたいだけど。

 一応不味いってだけで、栄養は摂取出来る優れものみたいだしね。不味いけど。


「他に何か買うものはあるか?」

「とりあえず全部欲しいものは買えたかな? 珍しい調味料は手に入ったし、一般的なものは王国でも買えると思うし」


 ミアに確認したところ、そんな答えが返ってきた。

 その日は最後に屋台を巡って、その翌日にヘリアの町を発った。

 ヘリアの町を出ると、そこから山の麓まで緩やかな傾斜が続く。

 そのため街道沿いには、馬車の馬を休ませるための平地が用意されている。

 ここは夜になったら馬車を停めて、野営にも利用される。


「人がいませんね」


 御者台に座ってゴーレム馬車を走らせるけど、確かに周囲には馬車が一台も走っていない。

 MAPを見れば、山の麓まで反応は一切ない。


「ナオトたちも王国の行き帰りで他の馬車とは合わなかったって言ってたしな」


 あとは確かこの辺りでギードたち魔人に襲撃されたようなことを言っていた。

 その現場は、ヘリアの町を発ってから二日後に到着した。

 街道には真新しい整備したあとがある。


「もしかして人がいないのって、それが原因でしょうか?」

「んー、元々人の行き来が少ないところに何者かに襲われたって話が広まって、さらに人が少なくなったっていうのはあるかもしれないな」


 確かこの時、魔人に襲われたという発表はされなかったという話だ。

 勇者の、異世界人たちの存在を王国が隠したかったからなのか、その理由は分からない。


「それでどうする? このまま夜も進むか? それともこの辺りで野営するか?」

「麓まで進んで、そこで休みましょう。どう行くかは、実際に山道を見て決めればいいし」


 俺がどうするか尋ねたら、ルリカが答えたためそのまま馬車を走らせた。

 夜通し走らせられるのは、魔力さえあれば走り続けることが出来るゴーレム馬車の特性と、あとは周囲に人がいないお陰だな。

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