第623話 フォルトゥナ魔法学院・1

 翌日。俺たちは揃ってフォルトゥナ魔法学院へと訪れていた。

 所謂学校見学みたいな感じだ。

 魔法学院の入り口にはレイラの姿があり、俺たちに気付くと手を振ってきた。


「何で俺たちも来ることになったんだ?」

「それはソラたちがエルザちゃんとアルト君の保護者だからですわ」


 それを聞いてサイフォンとナオトは苦笑している。

 今日のレイラの服装は冒険者服ではなく、マギアス魔法学園の制服に似た服だ。デザインは似ているけど、全体的に色合いが黒っぽい。

 レイラと並んで学院の中に入って行くと、そこには一組の男女がいた。男性の方は年配で五〇代? 女性の方はユーノと同じぐらいの年齢のような気がする。

 二人ともレイラと同じような服を着ている。

 男性の方がオルッソ、女性の方がケイナとそれぞれ名乗った。

 俺たちはその二人に先導されて、学院の中を歩いていく。

 まず回ったのは校舎内。部屋の外から授業を受けている様子を見掛けたけど、だいたい五〇人ぐらいが集まって前に立つ講師の話を聞いている。

 前のボードは黒板のようなもので、図形のようなものが描かれている。


「ここでは魔法に関する授業を行っています。この学院では現在、座学を中心に指導しています」


 ケイナのその説明の理由は、いくつかの授業を見て回って分かった。


「見ての通り、魔法の練習用の施設でまともに使える場所が二つしかないんですよ。前学院長は確かに不正に手を染めていましたが、彼の手腕がなければ学院が回っていなかったのも事実なんです」


 施設を利用出来るように色々と動いていたとオルッソは言った。

 もっともその過程で私腹を肥やしていたことが分かって、現在首になったわけだけど。

 それと彼の手腕で回っていたのは、プレケスの状態が悪くなっての半年近くのみで、普通にダンジョンの利用が出来ていた時は、多くの冒険者がダンジョンで魔石を取ってきていたから、苦労することなく施設は利用出来ていた。

 もっともこの学院では実技よりも座学や、実験や研究に力を入れていたから、この施設を利用する人自体は少なかった。

 ただ他の実験や研究で使う魔道具にも魔石は使われるため、魔石の供給が少ない現状だと学院の施設の殆んどが利用出来なくなる。


「そんなに魔石に困ってるのか?」

「マジョリカでもそうですけど、魔石を使った魔道具が他の町と比べて一般の人たちにも普及しているんですの。だからどうしても生活優先になってしまうのですわ」


 確かにそれで不満を覚えて街を出て行くとなると、街存続の危険にすらなるか。

 さすがに住み慣れた街を離れるというのは余程のことがないと起こらないと思うけど、生きていけなくなればそれを実行する人は多く出るだろう。


「結構厄介なことを押し付けられたんじゃないのか?」

「だから最初はお母様に、ここの管理の話がいったのですわ。ただそうなると私のところの家が力を持ちすぎてしまうから反対して、私が来ることになったんですの」

「他に候補はいなかったのか?」

「何故かその話がいくと辞退したのですわ」


 普通にやったら再建は難しい。

 だから自分たちもやりたくないけど、レイラの母親にもやらせたくない。

 何より失敗したら、それを口実に力を削ろうと考えている。

 レイラは貴族たちの考えをそう予想した。

 まさに足の引っ張り合いだな。


「一応お父様の方で、ギルドに話を持ち掛けてくれるという話でしたが……」


 同じダンジョンとはいえ、ダンジョン内は別物だからな。

 マジョリカは迷宮型。こっちは自然フィールド型という話だから勝手が違う。

 一応マジョリカも五階、一五階と五のつく階は自然フィールド型になっているけど、やっぱり利用者は他の階層と比べると少ない。

 それにある程度生活が安定している冒険者は、慣れた場所で狩った方がお金も貯まるし、安全も確保出来るからな。

 ダンジョンではクランなどに所属して、より上を目指す志がないと、自分の限界を見極めて、最後は無理をしないで活動する人も一定数は出てくる。

 それでも一攫千金を夢見る人は、自分たちが安全に狩れるボス部屋を周回したりする。

 ダンジョン内で宝箱を探すよりもボス部屋なら確実に手に入るし、レアが出る確率も高いからね。

 だからボス部屋の前はどうしても人が多く集まる。一〇階と二〇階のボス部屋前は特に。それこそ俺たちが最初に行った時は不正も行われていたからね。



「それで最終確認ですが、講師の件どうですか?」

「ああ、俺たちは問題ない」


 レイラの問い掛けに、サイフォンはユーノを見ながら答えた。

 それを受けてレイラは次にナオトを見た。


「俺たちは条件次第かな。俺とカエデ先輩は臨時講師みたいな立ち位置で、シュンとミハル、コトリは生徒で。それでシズネは……寮母さん的な仕事をしたいそうだ。それならいいらしい。あとは俺たちもサイフォンたちがダンジョンに行くときは一緒に行きたい」

「……分かりましたわ。それでお願いしますわ」


 シズネはきっとエルザとアルトと一緒にいたいからなんだろうな。


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