第622話 プレケス

 マジョリカを旅立って一〇日。プレケスに到着した。

 フォルスダンジョンで戦い、レベルが上がって体力は上がっているけど、さすがにエルザとアルトの二人には疲労の色が見えた。

 それはある意味仕方ない。

 二人が希望したため、ここまで来る間皆と同じように見張りなどもしたからね。

 最初の三日間は休憩中に模擬戦もしていたけど、最後の三日間は素直に休んでいた。

 ただ皆が模擬戦をしている姿をジッと見ていて、一緒に見学しているジンたちに戦いの解説をお願いして話を聞いていた。

 プレケスに到着して思ったのはマジョリカに比べて活気がないということ。

 門番に聞いて向かった宿は空きが多く全員が一緒に泊まることが出来た。


「それで明日はどうするの?」

「サイフォンたちはレイラのところに行くんだよな?」

「ああ、そのつもりだ。ソラたちは家を探すんだろ?」

「とりあえずどんな空き家があるかをね。買うか借りるかはサイフォンたちの話を聞いたあとになると思うけど」


 サイフォンたちも寮に入るなら大きな家である必要はないが、そうでないならある程度大きな家が必要になってくる。

 あとは実際に学院が始まるまでの日数を教えてもらって、宿と家、どちらが出費を抑えられるかも調べる必要がある。

 プレケスで欲しいのは転移用の魔道具を置ける家だからな。

 ただここで新しく転移用の拠点を作るとMPが心許なくなっていくから、マジョリカに置いておいた魔道具は回収してある。

 歩いてだいたい一〇日の距離だけど、ゴーレムを使った馬車なら半分以下の日数で行き来は可能だと思うからね。


「んー、品揃えはあまり良くないわね」

「野菜は安いですが、お肉は高かったです」


 家を探しに商業ギルドに行く前に、装備を扱っているお店や食料品店に寄ったけど、武器防具の品数は少なく、棚に空きが見えるほどだった。

 食品店では野菜は多く並んでいるけど、肉は品薄でマジョリカの2倍近い値段になっている。

 聞けばダンジョンを利用している冒険者はある程度増えてきているらしいけど、低階層で狩る人が少ないため肉自体の値段上がっているそうだ。


「肉がないのは悲しい」


 それを聞いたヒカリは肩を落としていた。

 お昼を食べるために屋台を見て回ったけど、肉を扱うお店は二軒しかなかった。

 そもそも屋台の数自体が少なかったというのもある。

 マジョリカだとダンジョンのあるギルド周辺では冒険者目当てで多く並んでいたけど、プレケスは閑散としていた。


「僕たちが前に来た時はもっと活気はあったんですけどね」


 とはシュン談。


「何度か寄ったことがある屋台がありません」

「そうね。あそこの野菜とベーコンのサンドイッチは美味しかったのにね」


 コトリとカエデも残念そうに話している。

 その後商業ギルドに寄って、少人数用の家から大人数で利用できる屋敷タイプの家を見て回った。


「向こうの世界でしたら、一生縁がない家ですね」

「うん、絶対無理です」

「それがこんな安く……」


 ミハルやコトリ、シュンはそう言うが、この世界でも今見ている家、というか屋敷は一般的な人が買うとなるとなかなか手が出ないと思う。

 元は貴族が住んでいた屋敷らしく、調理場もお風呂回りも魔道具がふんだんに使われている。

 魔道具を使うには消耗品の魔石を定期的に交換する必要があるからな。

 とりあえずギルドで紹介された家六軒を見て回って、今回は保留して帰ることになった。

 かなり必死に売り込みをしてきたけど、買い手がいなくて困っているのかもしれない。

 その後冒険者ギルドに寄ったけど、ギルドは閑散としていた。

 依頼票を見たけど、ウルフやタイガーウルフなど、肉に関する報酬が他の町と比べて高く設定されている。


「サンドワームか……」


 クリスから話を聞いたことがある。

 とにかく大きく厄介な魔物であるということを。

 サイフォンからも聞いたことがある。

 酒のツマミとして人気があることを。


「サンドワームは砂漠の階層で出る魔物です。シズネさんがいなかったらあの階を突破出来なかったかもしれません」


 コトリが言うには、とにかく地面の中を移動して奇襲を仕掛けてくるから厄介な魔物だということだ。

 特にコトリたちは斥候職がいないから魔物を感知することが出来ないから、普通なら奇襲を防ぐことが出来ない。

 そこでコトリたちが取った対抗手段は力業。

 地中から飛び出すなら、それをさせなければいいということで、シズネが地面を凍結させて移動したらしい。


「砂漠なのに寒かったんですよ」


 あ、ミハルが遠い目をしている。


「防寒具を持っていて良かったよ。ほら、砂漠の夜は冷えるって話を聞いてたからさ」


 とシュンは助かったと言った。

 その後一通り依頼票を確認した俺たちは、宿を戻ることにした。

 お店回りに家の見学、さらに冒険者ギルドの確認と一日中歩き回っていたから、そろそろ日も暗そうだったしね。

 そして宿に戻れば、すでにサイフォンたちが帰っていて、レイラと話したことを教えてもらった。

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