第620話 お願い

 はぁ、気持ちいい。

 足を泉に付けながら空を見上げる。

 今日は快晴で暖かいから、水の冷たさが余計に心地良く感じる。


「エルザはいいのか?」

「はい、私は少し休憩です」


 目の前では泳ぎ方を教わるアルトたちがいる。

 この世界では水で泳ぐという文化はあまりないみたいで、シュンたちが泳いでいるのを見て興味を持ったようだ。

 ルリカたちもコトリたちに教わっている。


「ソラお兄ちゃんは泳がないんですか?」

「俺はこのままでいいかな」


 俺も久しぶりに少し泳いでみたけど凄く疲れた。

 ステータス的には依然と比べて体力は上がっているはずなんだけどな……久しぶりに泳いだから? ウォーキングが悪さしているなんてことはないよな?


「……ソラお兄ちゃん。お願いがあるんです」

「お願い?」

「はい。レイラお姉ちゃんの話です。私たちも、希望すれば学院に通うことって出来るようになりますか?」


 それは予想外のお願いだった。

 エルザはあと二年もすればマギアス魔法学園に通えるようになるはずだ。

 それは俺も年齢制限がなくなる話を聞いて考えたが、やはり住み慣れたマジョリカを離れてわざわざ通うのはどうかと思ったほどだ。

 まさか俺たちがダンジョンを回っているから、それでか?


「今回獣王国に連れていってもらって、お兄ちゃんたちとダンジョンに行って、もっと色々学びたいと思ったんです。それは私だけでなくアルトも同じです」

「……俺は反対しないけど、別にそんな急がなくてもいいと思うぞ? それに向こうに行くせっかく仲良くなった人たちと別れることにもなるぞ」


 アルトのことを考えて、プレケスに行きたいと言うことか?

 アルトが魔法学園に通えるようになるまで、あと五年は待つ必要がある。

 ただプレケスに行くとなると、今まで築いた人間関係がリセットされることになる。

 近くの商店街の人たちとも顔見知りになったし、気にかけてもらっているのを俺は知っている。というか、シズネから聞かされている。

 うん、二人の良いところ自慢が後を絶えない。

 ちなみにこれは俺だけでなく、他の面々も同じことを聞かされている。


「はい、それでも行ってみたいと思います。それに寮に入ればお兄ちゃんたちの心配もなくなると思うから」


 ダンジョン攻略当初は変なのがいたけど、今はウィルが目を光らせてくれているから大丈夫だ。

 獣王国に行ってかなり時間も経っているしね。

 それに心配ではあるけど、シズネもいるからあまり心配していない。

 まあ、エルザたちにちょっかいを出して、シズネが暴走する方がある意味怖いんだよな。


「……別に俺たちは次にプレケスのダンジョンに行くかは分からないぞ?」

「はい、それも分かっています」

「いいじゃない。そこは快く背中を押してあげるところだよ?」


 エルザと話しているとミアがやってきた。

 あー疲れた、と言ってエルザの隣に座った。


「エルザちゃんがしっかり考えて出した結論なんだから応援してやらないと」

「もしかして知ってたのか?」

「あの、その、私がミアお姉ちゃんたちに相談したんです」


 たちということはルリカたちも知っている感じか。

 もしかしてエルザと二人だけになったのは話しやすいように場を作った?


「ああ、別に怒ってはいないよ。ただ、レイラに詳しくどうするか聞く必要はあるよな」


 あれはレイラの希望であって、学院の方針として決まったかどうかは分からない。


「あと、コトリやミハルもちょっと学院には興味を持っているみたいだから、シュンも通うなんて言うかもしれないよ?」


 ミハルが行くといったらシュンはついて行きそうだ。


「もしかしてミアたちも行きたかったり?」

「んー、私はいいかな。正直旅は楽しいし、ジッと話を聞くのはね」


 ミアは苦笑しながら言った。

 もしかしたら教会にいた時のことを思い出しているのかもしれない。


「けどヒカリちゃんは興味を示していたかな」


 あー、確かにヒカリは魔法に興味を持っていたからな。


「その点はエルザちゃんがしっかり学んで、ヒカリちゃんに教えてあげればいいんじゃないかな?」

「せ、責任重大です」

「ふふ、大丈夫よ。本当に興味あるなら優秀な先生がいるから、聞くと思うしね。今はどちらかというと料理の方に興味があるみたいだから」


 いかにお肉を美味しく食べるかをヒカリは追求はしているからな。

 魔法学院でその研究が出来るとなれば、通いたいと言いたそうだ。

 それに優秀な先生か……確かにクリスから魔法の話をよく聞いてはいるなヒカリは。


「分かったよ。それじゃ今度レイラと会った時にその話をしてみよう。本当に年齢制限がなくなるかとかの確認もしないとだし。あ、それといい物件があるかも聞かないとだな」

「? もし通うようになるなら寮に入れますよ?」

「プレケスにもダンジョンはあるからな。拠点は必要だよ」

「ふふ、素直に心配だって言えばいいのに」


 拠点が必要だっていうのは本当だよ。

 プレケスのダンジョンはフィールド型で、階層はマジョリカよりも浅いけど、攻略まで結構な時間かかったってナオトたちからは聞いているし。

 一階ごと帰って来られるというのもね。

 話を聞く限りアルテアのダンジョンみたいな感じだな。

 ……もちろん心配だってのもあるけどさ。

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