第617話 ウィルの頼み
アルテアのダンジョンから戻った翌日。約束通りウィルに会いにレイラの家までやってきた。
隣に立つのはヒカリとミア、さらにその後ろにはエルザとアルト、シズネの三人だ。
まずヒカリがついて行くと言い、心配したミアも付いてくることになった。
エルザとアルトの二人はタリヤやお世話になっている屋敷の人たちにお土産を渡したいということでついて行きたいとお願いされ、シズネは二人が行くということでいる。
「あ、ソラ。それにミアもヒカリちゃんも久しぶりですわ。それにエルザちゃんとアルト君に……」
「シズネです。メイド見習いです」
驚いたことに迎えに現れたのはレイラだった。
そしてそんなレイラに対して礼儀正しく挨拶するシズネ。うん、まるで別人だ。
それより何故レイラがいるんだ?
確か首都の方に行っているんじゃなかったか?
「お父様に会いに来たのよね? 案内するわ。えっ、お土産? 分かった、エルザちゃんたちは別室に案内するわね」
最終的に俺とヒカリ、ミアがウィルのいる書斎へと向かい、エルザたちはタリヤたちのいる場所に行くことになって途中で別れた。
「わざわざすまないね」
ウィルは俺たちを見て開口一番謝罪してきた。
ウィルの横にはレイラが座り、俺たちはその正面に三人並んで座った。
一同が座るとそば付きのメイドさんがお茶の用意をしてテーブルに並ぶ。飲み物の他にもお菓子もある。
「ヒカリちゃん、食べましょう」
それを見たヒカリがそわそわし始めたから、それを見たレイラが気を使って食べようと言ってきた。
ウィルもそれを止めることなく最初に手を伸ばしたから、まずはお菓子を食べることになった。
そしてお茶を飲み終えてひと段落したところで、ウィルが言ってきた。
「今回来てもらったのは、実は頼みごとがあってね。ああ、この件に関しては別に断ってもらってもかまわない。というかこれはある意味ソラ君たちではなくて、君の知り合いたちに頼みたいことなんだ。それでソラ君を呼んだのは、そのつなぎ役になってもらいたいと思ってね」
「つなぎ役ですか?」
詳しく聞くと、どうもウィルの用があるのはナオトやシュン、アルゴやサイフォンたちのようだ。
「ああ、実はね……」
ウィルがチラリと横にいるレイラを見ると、レイラは困ったような表情を浮かべた。
「レイラがプレケスの領主代行に任命されてね。それと同時にフォルトゥナ魔導学院の管理も任されたみたいなんだ」
そう言った時にウィルは凄く疲れたような表情を浮かべていた。
そもそも何故レイラがそのような大役を受けることになったかというと、まずは今のプレケスの状況が酷く悪いのと、他に領主を任せることが出来る人材がいないからみたいだ。
本当はウィルのパートナー、レイラの母親が行くことになっていたけど、彼女が中央からいなくなると中央の管理が立ち行かなくなるかもしれないということでその話が立ち消えて、その白羽の矢がレイラに立った。
これはレイラの母親が原因で、それが無理なら自分が行くとごねたみたいだ。
それがすんなり通ったのは、国の上層部も他に任せるのが不安だからというのもあったみたいだ。
「ちなみに妻がそこまでごねたのは、変な者に任せてそのしわ寄せが自分のところにくるのを嫌がったからみたいなんだ。実際今のプレケスは酷い状態みたいでね」
前領主が不正に手を染めていたり、魔導学院の上層部もそれに与していたりと、色々な問題が表面化したそうだ。
「それで今回ラス獣王国の武闘大会の話を聞いてね。サイフォン君たちのことはレイラも知っているし、彼らに魔導学院でしばらく指導をしてもらえたらと思ってね」
「けど前から指導してる人たちがいるんじゃ?」
「いや、魔導学院は主に座学などが主体でね。マギアス魔法学園と違って学院生はダンジョンに行くことが殆どないんだ。それもあって今回レイラが管理を任されることになったのを機会に、ダンジョンの行けるようにしたいって話になってね。まあ、あとは今、プレケスの冒険者が減っているって事情もあるみたいなんだけどね」
確かナオトたちがダンジョンに潜っている間、領主が許可した冒険者しか入ることが出来なくなって、その時に街を去った人が多かったという問題か。
俺たちがサイフォンたちとマジョリカで再会したのはそれがあったからだしな。
ただそれはあくまで理想であって、無理強いをするつもりはないみたいだ。
プレケスのダンジョンは既に攻略済みだから、ダンジョンが暴走することもないみたいだしな。
それでもそのような試みをするのは、やはりダンジョンが大きな富を生むからだろう。
「とりあえず話してみますが、確約を出来ませんよ?」
「ああ、それはもちろんだ。レイラ、なんだったらソラ君について行って直接話してみたらどうだ?」
「分かりましたわ」
その後エルザたちと合流した俺たちは、家に戻ることになった。
「タリヤ。これあげる」
帰る時、見送りにきたタリヤにヒカリがあるものを渡した。
「これは?」
「美味しいお肉。塩コショウだけで十分」
それは瓢箪に入れていたオーク肉だった。
「いいのか?」
「うん、お菓子もらった。それにエルザたちもお世話になっている」
「そっか」
「うん、だから主、またお肉を所望する」
「帰ったら渡すよ。オーク肉でいいのか?」
「うん」
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