第616話 例の瓢箪
「ヒカリ、これはあの肉か?」
「うん、ウルフ肉!」
一口食べてその味に驚いた。
味付けは塩コショウのみのシンプルなものだった。
それなのに美味しい。噛めば噛むほど風意味が口の中に広がり後味が残る。
それが不快ではなくて、口の中にその風味が残った状態で新しい料理を食べると、それが絡み合って美味しさを引き立てている。
宝箱の中からヒカリだけが戦闘に関係のないものを手に入れたのに、特に残念がっていなかったのはこれが理由か。
「これはあの瓢箪に入れた結果なんだよな?」
「そう。これはお肉を美味しくしてくれる魔法のアイテム」
ヒカリはアイテムポーチから例の瓢箪を取り出してかかげた。
いい笑顔だ。
鑑定したけど何故か瓢箪としか表示されない。
「主、お肉を所望する」
「食事が終わったら渡すよ」
「うん、約束。料理は温かいうちに食べる方がいい」
それはヒカリの言う通りだ。
俺たちはその後獣王国でのことを話しながらゆっくり食事をした。
サイフォンがお酒を飲み始めたけど、ユーノが止めることはなかった。
ユーノも変な飲み方をしなければあまり止めはしない。
それにここだと飲める人間は少ないし、アルゴたちも基本深酒をしないから飲み過ぎることもないしね。
食事が終わったら魔法でお風呂の準備をして順番に入っていく。
「主、お肉が欲しい」
「今度は何の肉にする? それとも複数用意するか?」
「まだ一つでいい」
ということで今回はオークの肉を渡した。
「そういえばヒカリ、今まだって言ったけど……」
「うん、これ使い続けると成長する。凄い」
ヒカリの話によると、使えば使うほど機能が追加されるらしい。
何その高性能。確かに凄い。
あとは肉を中に入れる時間が長いほど美味しくなるそうだ。熟成でもさせているのか?
ただし一度入れると、二日は取り出すことが出来ないなど色々なルールもあるみたいだ。
他にも一度に入れる量も決まっているけど、こちらも使っていくと増えるみたいだ。
なんかスキルみたいなアイテムだな。
ヒカリはオーク肉を入れると、上機嫌にお風呂に入りにいった。
翌日。まずはいつものメンバーでアルテアに飛んでダンジョンに向かった。
「久しぶりー!」
「元気?」
「おう、ちびっ子は……縮んだか? それとデカブツは相変わらずだな」
「ちびっ子とは何よー。無様にタニアにやられた分際でー」
エリアナはちびっ子と言われて怒り心頭のようだ。
ペチペチとスティアを叩いている。
まあ、本気で怒っている……ようには見えない? からきっとこれがいつものやり取りなんだと思う。
スティアも気にした様子もなくされるがままだ。
この後すぐに帰っても良かったけど、カイナはカロトスと話したかったみたいだし、スティアはなんかミアをはじめ、ルリカたちに戦い方を教えると言い出したからだ。
その時人化した時には驚いたけど、あのダンジョンの魔物も普通に人化していたし、神様のスティアが人化の魔法を使えても不思議ではないか。
ミアの憑依を見て、エリアナも張り合う一場面があったが残念ながらエリアナにそこまでの力はなかったようだ。
いや、そんなことに労力を使うなら静かに回復に努めてもらいたい。
クリスと並んでその様子を眺めていたら、ふとクリスが尋ねてきた。
「ソラ、次は何処に行く予定ですか?」
「マジョリカに戻って来たし、行くならプレケスになるのかな……」
同じ魔道国家内だし、行こうと思えば数日で行ける場所にある。
その場合はナオトたちに手伝ってもらうことになるかもだけど、武闘大会を終えて、フェシスのダンジョンにも通っていたみたいだし、もう少しのんびりしたいんじゃないだろうか?
それを言ったら俺たちももっとのんびりするべきだと思うけど。
「とりあえず明後日ウィルさんに会ってからかな? クリスたちは……」
「ソラに任せますね」
残念ながら一人で行かないと駄目かな? 分からないでもないけど。
レイラの父親ではあるけど、マジョリカの領主で貴族だからね。
それを言ったら獣王は? ってなるけど、出会いは冒険者だったり、フットワークが軽いからあんまり一国の王様って感じがしないんだよな。
リュリュに小言を言われている姿を多く見ているってのもあるけど。
あとはどちらかというと戦友みたいな感じか?
結局その日は一日ダンジョンで過ごすことなって、ヒカリはスティアにお礼を言っていた。
珍しく満面の笑みを浮かべている。
スティアもそれを聞いて実に満足そうに頷いていた。
「それじゃソラ君またね~。ただ無理はしなくていいからね」
エリアナとしては神様探しを頼んだけど、無理はして欲しくないみたいだ。
無理をして途中で倒れたらそれまでだしな。
ただそれを言うと一〇〇階に挑んだのは無茶ではあったかもしれない。
それでもダンジョンを攻略する以上避けては通ることが出来なかった場面ではあったけど。
今度悩む場面があった時は、相談しにここに来るのもいいのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます