第615話 帰郷

「すいませんでした」


 翌日。獣王が意識を取り戻したということを聞いた俺たちは、獣王のもとを訪れた。

 ベッドの上の獣王は元気そうで、サイドテーブルにはたくさんの書類が積まれている。

 ミアは部屋に入るなり平謝りだったが、


「いや、あれは俺が悪い。正直侮っていたからよ」


 と獣王は言った。

 油断していたことを謝り、むしろあんな結果で終わったことを後悔しているようだった。


「すぐには無理だが、俺が全快したらまた戦ってくれ!」

「はい、それまでにもう少し自分をコントロール出来るように頑張ります」


 獣王が首を傾げたため、ミアがまだ力を上手くコントロール出来ないと説明した。

 ちなみにミアが獣人に変身したのは、あのスキルスクロールで覚えたスキルによるものだとも説明していた。


「あれでもまだ万全の状態じゃねえのか?」


 それを聞いた獣王は顔を引き攣らせていた。

 ミアはネネにも謝っていたけど、


「これでしばらくは静かにしているでしょう。その間は仕事がはかどるから助かります」


 とむしろ上機嫌だった。

 獣王は仕事を溜めるタイプかな?

 それから俺は数日中には獣王国を発つことを伝えた。


「そうか……寂しくなるが仕方ねえな。アルゴやサイフォンたちはどうするんだ?」

「俺たちがマジョリカに行くっていったらついていくって言ってたよ」


 それからは獣王国で色々な買い物をした。

 主に屋台の料理とか、獣王国でしかなかなか手に入らない調味料とか、食料関係が多かった。特に多いのが香辛料だ。

 アイテムボックスに入れておけば劣化することがないから、とにかく色々買った。

 そして出発の日。俺たちは獣王たちに見送られて城の鍛錬所から旅立った。

 正確には転移だな。

 この場にいるのは獣王はじめ、獣王とダンジョンを上っていたメンバーと、リュリュだけだった。


「じゃあな。次の武闘大会にも出ろよ」


 獣王はアルゴやサイフォンたちを捕まえて誘っている。

 そこにはシュンもいる。


「では皆さん、気を付けて」

「また来るっす」


 俺たちも別れの挨拶を済ませる。

 ミアは眠っていた人たちからまたお礼を言われてちょっと困っていた。


「それじゃ!」


 俺は声を掛けて転移を発動すれば、視界は鍛錬所からマジョリカにある家へと切り替わった。



 長いこと留守にしていたけど部屋には誇り一つない。

 きっと留守の間最果ての町から移住してきた人たちが見てくれていたに違いない。


「空気の入れ替えをしますね」


 エルザとアルトがパタパタと駆け出す。

 俺たちも各部屋を回って窓を開ける。

 それが終わるとエルザは台所回りの確認をしている。


「ソラお兄ちゃん、食材を少し出してもらってもいいですか?」

「作るのか? 今日は向こうで買ってきたものでも大丈夫だぞ?」

「あの、駄目ですか?」


 駄目ではないけど……はい、出します。

 エルザの背後でシズネが睨むから俺はエルザに言われた食材を出していく。


「エルザ、料理する?」

「はい」

「ならこれも焼く」


 ヒカリがトコトコやってきて瓢箪から肉を出した。


「主、外に出る。料理は任せる」


 俺がその様子を眺めていると追い出された。

 俺は仕方ないから帰って来たことをヒルルクたちに伝えようと家を出ると、ちょうどタリヤに会った。


「あ、ソラさん、帰っていたのですね」

「さっき帰ってきました」


 タリヤはレイラの家の使用人で、エルザやアルトに家事などを教えてくれた先生だ。


「そうですか。なら時間がある時で大丈夫ですので、一度領主様の家まで来てもらってもいいですか?」


 何の用だ?

 突然のことに戸惑ったが、色々世話になった身としては断ることが出来ない。

 とりあえず頭の中で予定を考える。

 スティアをエリアナのところに連れて行かないといけないし、かといって領主のウィルを待たせるのも悪い。


「帰ってきたばかりですし、三日後なんてどうですか?」


 悩んでいるとタリヤから提案された。

 それなら先にスティアを連れて行くことが出来る。

 俺がそれで頼むと、タリヤは帰っていった。

 けど本当に何の用だ?

 とりあえずヒルルクたちには帰ってきたことを伝えて、戻ってきたらタリヤの話を皆にした。


「厄介ごとじゃないの?」


 ルリカはそう言うが……うん、否定は出来ない。

 わざわざ呼ぶほどだし、タリヤもなんか俺たちがいるかを確認しに来ていたみたいだしな。

 ま、悩んでも仕方ないか。


「ご飯が出来た」


 俺たちが話していると、料理を持ったヒカリたちやってきた。

 テーブルに次々と並べられる料理の中に、異彩を放つものがあった。

 いや、見た目は普通の肉だ。

 それなのに何故か引き付けられる。

 その原因は匂いだ。

 凄く食欲をそそる。

 それは俺だけでなく、皆も感じているようだ。

 それを見たヒカリは、実に満足そうに頷き、一人一つだけと言った。

 確かに俺たちパーティーにナオトたち、サイフォンやアルゴたちの人数を足すと二四人と多い。

 しかしその肉が盛られた皿はたったの二つしかない。

 俺たちはヒカリの言うことに従い、食事を開始した。

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