第614話 敗北?
鍛錬所は熱気に包まれていた。
そこでは武闘大会の再現ともいえる戦いが繰り広げられている。
一応何かあっては困るから武闘大会の時のように結界は張られている。
かなりの魔石が消費されるようだけど大丈夫か?
一応模擬戦用の刃を潰した武器を使っているけど、達人が使えば凶器になり得るから気は抜けない。
まあ、そのための結界ではあるけど。
それに戦う前にやり過ぎないようにと注意を受けていた。主に獣王が。
だからスキルなしの技術のみの戦いになっているけど、それでも見ている者は固唾をのんで見守っている。
現在戦っているのは獣王とアルゴだ。
獣王が間合いを詰めようとしているけど、アルゴが素早く斬撃を繰り返してそれを許さない。
獣王が自分の間合いに入ると理不尽なほど強いのは、先の獣王とサイフォンとの戦いでまざまざと見せつけられたからだろう。
攻撃を続けるアルゴに防戦一方の獣王だが、有利なのは明らかに獣王だ。
アルゴもそれを感じ取っているから色々と工夫して剣を振るっているけど、獣王には届かない。
派手な攻撃が目立つ獣王だけど、守りも一級品。
獣王曰く。守りが駄目だと生きていけないとのことだ。
この辺りは魔人のギードとイグニスに痛いほど叩き込まれたみたいだ。
そう言った時の獣王はちょっと遠い目をしていた。
「そろそろ決着がつく」
一緒に観戦していたガイツの言う通り、疲れからかアルゴの剣筋が乱れた一瞬をついて、獣王はアルゴを倒した。
「狙ってたのかな?」
「間違いない」
俺の呟きにガイツは肯定の返事をした。
「シュンもやるのか?」
「やらないよ。今やっても負けるだろうしね。そういうソラは?」
「俺も遠慮しておくよ」
この条件で一番勝機があるのはきっとシュンだ。
純粋な剣術だけならシュンが一番強い。
それはもうアルゴやサイフォンが敵わないほどに。
だからシュンで無理なら誰も獣王には敵わないと思う。
俺の場合はスキルがあってどうにか互角レベルだからな。
接近戦に特化したスキルを習得すれば分からないけど、スキルレベルが低いと結局通用しない。
長い目で見てスキルのレベルを上げれば勝てるかもしれないけど、今後もダンジョンを回ることを考えると習得するのは勿体なく思う。
俺だってスキルを無限に習得出来るわけではないのだから。いや、歩いてスキルポイントが溜まれば無限に覚えることは出来るけど。
限界突破してからは必要な歩数が一気に上がったからな。
特に今は転移で移動することが多くなったから、すっかりウォーキングスキルの経験値が稼げないでいる。
ダンジョンに通えば歩くことになるとは思うけど。
あ、フォルスダンジョンのようなものは例外ね。
もっとも残る五つのダンジョンは、フィールド型や迷宮型だって……いや、一つだけ都市型? みたいなダンジョンがあるとかって話だった。
「さて、次は誰だ!」
戦い終わった獣王が次の挑戦者を募る。
……うん、誰も名乗り出ないな。
既に獣王は十戦以上戦っているのに元気だ。
その中にはヒカリやルリカも含まれている。
結果は獣王の全勝だ。
あ、なんかこっちを見てきたからサッと視線を逸らした。
横を見ればシュンも同じようにしている。
「はい、お願いします」
そこに一人の候補者が現れた。
その候補者を見て誰もが驚いた。
獣王も驚いている。
「駄目ですか?」
「いや、いいけど。いいのか?」
思わず尋ね返している。
うん、俺だってたぶん獣王と同じように確認したに違いない。
許可がおりたことで、改めて候補者……ミアが獣王の前に立った。
手に持つのは一本の長い棒。
「それじゃ、やるか!」
「はい、お願いします」
ミアは頷くとあれを早速使ったようだ。
その光景に俺たちパーティーメンバー以外の者は驚きの表情を浮かべた。
だってそこにはケモ耳を頭に乗せたミアがいたから。
色々試した結果。わざわざ「憑依」と叫ばなくても、変身出来ることを知ったようでスッとミアはその状態になった。
「行きますね!」
驚く獣王を他所に、ミアは攻撃を仕掛ける。
それはシンプルな突き。
フェイントも何にもない、ただ真っ直ぐ突かれた一撃。
違うのはその速度。
踏み込みからの一連の動きは一切無駄がない。
初見でこれを防ぐのは難しい。
特にミアのことを知っていると余計に。
だってミアにこんな鋭い攻撃が出来るとは思わないから。
それでも獣王は腕をクロスさせて防いだ。
さすがだ。
けど出来たのは攻撃を受け止めるまで。
勢いを殺せず後ろに後退した。
獣王もそれを受けて戦闘のスイッチを切り替えたようだったけど、ミアの攻撃は止まらない。
既に目の前まで移動していたミアは、
「えいっ」
と可愛らしい掛け声で手に持つ棒を振るった。
獣王は回避は無理と悟ったのか咄嗟に腕でガードしたけど、今度は吹き飛んだ。
まるでバッドで打たれたボールのごとく獣王の体は水平に飛び、結界……を突き破って壁に激突した。
破片が飛び散り、煙が舞う。
その衝撃でちょっと地面が揺れたような気がしたほどだ。
誰もが言葉を失い、視線は自ずと激突した場所に向けられる。
するとふらふらとした足取りで獣王が姿を現した。
頭からは血が出ていて、目の焦点が合っていない。
「す、凄え攻撃だった」
そしてその一言を言って倒れた。
近くにいた者が近付き息をしていることは確認したが、意識はどうもないようだ。
それを見たミアは慌てて近寄ってヒールで治療をしていたけど、結局獣王が意識を戻すことはなかった。
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