第613話 報酬

 全員が奥の部屋に入った瞬間。目の前にはダンジョンコアがあった。

 獣王が触れると、十個の宝箱が部屋に出現した。

 これはどの宝箱を開けてもいいようで、開けた人に適した報酬が手に入るそうだ。

 その手に入れた報酬をどうするかは持ち主の判断に任されるようで、売ることも可能なようだ。

 ちなみ獣王、フィーゲル、ネネはそれぞれ装備品を入手した。ガントレット、弓、腕輪みたいで満足していた。

 俺たちパーティーの方も装備品が多かったけど、武器ではなくアクセサリーなどの補助をメインとするものだ。

 ちなみにミアはスキルスクロールを入手して、それを読んでスキルを入手したということにしたようだ。

 俺の場合も一応腕輪になるのか? 宝箱に手を入れた瞬間腕輪が光ってデザインが変わっていた。

 ただ唯一装備品ではなく魔道具? を入手した者がいた。ヒカリだ。


「それは……どんな効果があるんだ?」


 獣王はそれを前にして尋ねた。

 俺もそれは気になる。

 ヒカリが手にしたものは瓢箪のようなもので、鑑定しても鑑定不可と出ている。


「これは素晴らしいもの」


 とヒカリは大事そうに抱えている。


「どんなものなんだ?」


 俺も聞いてみたが、


「……内緒。今度お披露目する」


 とだけしか教えてくれなかった。

 気になるところだけど、いずれ教えてくれるみたいだからその時を待つか。

 その後ダンジョンを出ると、外で待っていた冒険者たちに囲まれた。

 その中にはナオトたちの姿もあった。


「とりあえずさすがに疲れたからよ。わりいな」


 ただこの時ばかりはすぐに解散となった。

 色々と話を聞きたそうな人もいたけど、さすがにこの時ばかりは解放された。

 獣王が急いだのは、例の仲間たちの件があったからだ。

 今回は俺とミアだけでなくクリスたちもついてきて、ミアの治療を見守った。


「それでは治療します」


 ミアがリカバリーの魔法を唱えた。

 光が目の前に眠る人たちを包み込む。


「……エンド様?」


 固唾を呑んで見守っていると、やがて一人が目を開けた。

 心配そうに見ていた獣王が、その一言を聞いて破顔した。

 一人が起き上がると、次々と眠っていた人たちが起き上がっていく。

 獣王は起き上がった人たちに何があったかを簡単に説明していく。

 なんというか、拍子抜けするほど呆気なく治療は終わってしまった。


『俺が力を与えたんだ。あんぐらい簡単だ』

 そんなことを思っていたら頭の中にスティアの声が響いた。

 さすが神様だ、と思うことにした。


「ありがとうよ」


 部屋を出る時、獣王は深々と頭を下げてきた。


「それでダンジョンのことは何て説明するんだ?」

「……まあ、クリアしたとか適当に……はいかねえか。その辺りはネネとフィーゲルに任……相談することにする」


 それを聞いたフィーゲルは苦笑し、ネネは呆れ顔だ。

 それでもきっと二人は協力するんだろうな。


「ソラたちはどうするんだ?」

「……ここでの目的も済ませたし、発つとするよ。エルザやアルトをマジョリカに帰さないといけないしさ」


 ダンジョンに通ってレベルこそ上がっているけど、それでも俺たちの旅に連れ回すわけにはいかない。


「そうか……まあ、帰る時は言えよ。盛大に送り出してやるからよ」

「そういうのはいいかな」


 俺はルリカたちの方を一度見てから丁重に断った。



 夕食を済ませると、エルザたちと一緒に過ごした。

 その時マジョリカに帰ることも伝えた。

 寂しそうな顔をしたのは、また留守番の日々を過ごすことになるからだろうか?


「大丈夫。二人は私が守るから!」


 とシズネは気合が入っているけど。

 結局このままシズネはナオトたちと別行動を取りそうだ。

 俺としてもエルザたちと一緒にいてくれるのは助かるけど、シズネは二人のことになると加減を忘れるから心配だ。

 ある日警備隊に連れていかれたなんてことが起こらないことを願うばかりだ。


「主、お肉が欲しい」


 エルザたちの様子を眺めていたら、ヒカリが俺にお肉が欲しいと言ってきた。

 夕食は食べたばかりだけど、お腹が空いたのか?

 そんなことを考えて夕食の風景を思い出す。

 かなり食べていた。

 サイフォンとアルゴが一〇〇階を攻略したってことで、二人の奢りで豪華な夕食が提供された。量も凄く、食べきれないものは俺がアイテムボックスに回収したほどだ。


「えっと、今から食べるのか?」

「違う。欲しいのは調理前のお肉」

「調理前?」

「そう……ウルフのお肉がいい」


 俺は何に使うのか首を傾げたが、ウルフの肉ならたくさんあるから問題ない。

 俺がウルフ肉を一塊出すと、ヒカリはアイテムポーチから例の瓢箪を取り出した。

 そしてヒカリが瓢箪の口を肉に近付けると、スッと肉が消えた。


「主、楽しみに待つ」


 ヒカリは満足げに頷くと、瓢箪を再びマジックポーチに戻した。

 一体何をするんだ?

 気になるがきっと聞いても教えてくれないだろうな。

 今は話してくれるのを待つしかないか。

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