第607話 極秘資料
フォルスダンジョン。ギルドが管理してからの長い歴史の中で、攻略したパーティーは僅か三パーティーと言われている。
そんな彼らが一〇〇階に挑み、残した資料がある。
それはギルドで厳重に管理し、九九階を突破した者のみが閲覧することを許されている。
けどその本当の理由は、九九階を突破した者でしか見ることが出来ないからだ。
「ここにダンジョンカードを挿せばいいのか?」
「はい、そうすれば見ることが出来るようになります。ただしカードの持ち主のみになりますので、その都度見る方がカードを挿してください」
資料として残された本は魔道具の一種で、九九階を突破したダンジョンカードがないと本の情報が表示されない仕組みになっている。
またカードの所持者本人の魔力に反応するようで、カードを挿入してあっても本人以外が見ても文字は読めない。
その理由はその本を読んで分かった。
「どうする? 攻略を進めるか?」
あの獣王が思わず尋ねてくるほど、本の内容は酷いものだった。
本には攻略者たちの声が書かれていて、フェンリルの強さだけは伝わってくる。
それにもう一つ、このフォルスダンジョンが本当の意味で攻略されていないことが分かった。
「まさかフェンリルを倒したパーティーが一つもなかったなんてな」
獣王の言葉通り、一〇〇階を突破したとされるパーティーはフェンリルを倒していなかった。
彼らに共通しているのは、一〇〇階の攻略に何度も挑み、そこでフェンリルに認められて道を譲られたという事実だった。
彼らは戦闘を繰り返し、その中でフェンリルは挑戦者たちに数々の教えを残している。
いわゆるどうすればより強くなるかを、戦いながら教えてきたということだった。
これは確かに公には出来ない内容かもしれない。
「平時だったら歓迎だったんだけどな」
「死ぬことが許されない今の仕様だとリスクが大き過ぎるよな……」
獣王の言葉に同意する。
ダンジョンは一度中に入ると、出現した魔物を全て倒すか、死ぬまで出ることが出来ない。
ということは一〇〇階に挑戦した人たちは、その都度倒されたことになる。
俺は獣王に連れていかれて見た人たちのことを思い出した。
「なあソラよ。無理をする必要はねえ。正直仲間たちのことは助けてえがよ」
獣王はそう言うが、一応俺たちにも俺たちの目的があってダンジョン攻略をしている。
ダンジョンに封印されていると思われる神様たちの解放。
実際マジョリカでは巨神カロトスが封印されていた。
遥か昔から存在している七大ダンジョンのここフォルスダンジョンも可能性は高い。
ただ資料を読む限り、勝てるイメージが湧かないのも事実。
一応どんな攻撃をしてきて、どのような戦いがあったかは書いてある。書いてあるんだけど、資料に書かれている多くが愚痴ってのがな……。
もう、とにかく相手が強いってことをこれ以上もなく強調している言葉がどうしても目に付く。
「二人とも難しく考え過ぎよ。ようは負けなければいいんだから」
重い空気の中、ルリカが突然言い放った。
「そもそもダンジョンなんてものはそういうリスクがあるところだよ? 負ける前提で考えているからいけないのよ。相手が強いなら勝つためにどうすればいいかをまず考えるものよ」
答えられないでいると、追加で言ってきた。
確かにルリカの言う通りだ。
それに資料に目を良く通せば、愚痴の中にどんな戦いだったかは書いてある。
それこそフェンリルの攻撃手段も。
最初は、取り巻きのミニフェンリルを召喚して、ボスであるフェンリルは一切動かない。
これを打ち倒すと今度はフェンリルと戦うことになるが、それ以降取り巻きの召喚はないとある。
その後は段階的に攻撃の種類が増えていくみたいだ。
「長期戦は必須か……」
ただ問題も一つある。
攻撃手段が切り替わるタイミングはいつか、ということだ。
資料によるとその殆どが何回戦ったら次の段階に進む、といった感じになっている。同一戦闘で切り替わったことはないようだ。
どうもフェンリルは挑戦者との戦いに満足すると、そこで本気を出すというか、急に一段階強くなって蹴散らしてきたみたいだ。
そのギアが上がった時に攻撃を防げば、次に進むと思えばいいのか?
「とりあえず資料を読んで、自身のレベルを上げるしかないな。どうせすぐに挑戦することは出来ないからよ」
装備品は付与である程度被害は抑えられていたけど、全部が全部防げたわけではないようだ。
小さな損傷はいくつもあって、修復する必要がある。
その間に各自準備をしようぜってことだ。
ならその間にやるべきことは一つ。スキルの熟練度上げることだ。
特に今回習得した強化のスキルの検証だ。
例えばヒカリの武器を強化した場合、斬撃のスキルにも影響があるのかや、斬撃のスキルや魔法に直接強化をかけることが出来るかだ。
スキルを強化することが出来るのは分かっているが、その強化するタイミングの練習だな。
補助系の魔法を強化する時はある意味動きがない状態だったからやりやすかったけど、攻撃系の魔法だと動きがあるからな。
俺はとりあえずヒカリとクリスに声を掛けて、強化スキルの練習をしたいとお願いすることにした。
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