第606話 強化

 剣を交え、付与を繰り返すことで分かったことがある。

 まずケルベロスの爪に付与されているヘルファイアだが、魔法よりも弱いということ。

 ただ光属性か聖属性の付与がないとどうしても武器にダメージが入る。

 魔法だと対象を燃え尽くすまで炎が止まらないけど、一定時間で消えるそうだ。どうも効果的にはヘルウォールに近いようだ。

 何故それが分かったかというと、獣王の手甲が被害にあったからだ。

 それともう一つ。魔法だと一気に属性の付与が搔き消されたが、爪だと何合か打ち合うことで属性の付与が消えることが分かった。

 それでも付与が消えたら魔法を掛け直さないといけないからミアの負担が大きい。

 獣王やルリカたちは回避を選択して攻撃事態を受けないようにしているが、カイナはそういうわけにもいかない。

 もともとパワー型のためスピードはそこまでない。

 比べる対象がルリカたちだから遅く感じるのであって、一般レベルだと十分上位には入る。

 ただ今相手にしているのはケルベロス。どうしても速度に関しては軍配がケルベロスに上がる。

 あとは不用意に離れて、後衛陣が襲われるのを防ぐため、どうしても間合いを詰めて戦うことになっているというのもある。

 俺の場合は魔法の付与が切れるのは自分で分かるが、ミアはそういうわけにはいかないため、ある程度余裕をもって補助魔法を唱えている。

 今はマナポーションでMPを回復することが出来ているけど、何度も使うと効果がなくなるため注意が必要だ。

 ケルベロスが人化したことで、数が減ったというのに圧倒出来ていない。

 この時ケルベロスが召喚を使って取り巻きを呼び出して数を増やされたら不利な展開になったと思うが、不思議なことにケルベロスは人化してからは今のところ召喚魔法は使っていない。使う仕草すらなかった。

 これが人化したことで使えなくなったというなら助かるが、実際のところ使えないのか、ただ使っていないだけかは俺には分からないから、警戒する必要はある。

 俺は再び付与が消えた剣に属性を付与し直して剣を振るった。

 自然回復向上やウォーキングのスキルの恩恵があっても、戦いが長引くことで俺からも余裕がなくなっていく。

 せめてこの付与し直す回数が減らせればもっと余裕があるのに……。

 俺は考えながら、戦いながらスキルのリストを確認する。

 スキルに振るためのスキルポイントはまだ残っている。

 なら戦闘を有利に進めることが出来るスキルを習得すればいい、というのが出た結論だ。

 戦いながらスキルを探せるのは、並列思考があるためだ。

 ただその分戦闘力は落ちているため、付与が切れる前に付与し直すというMPの節約が出来なくなった。

 それでも……とスキルリストを見ていてあるスキルに目が止まった。


【強化】道具や魔法を強化してくれる。ただし人体には無効。


 これならいけるか?

 人体には無効とあるが、一応レベルが上がれば使うことが出来るようになるみたいだ。

 ……鍛冶スキルの前にこれを知っていればと思うのはやめよう。

 リュリュたちの故郷に行って気分転換になったし、巨人たちの村にもいけたわけだしね。

 俺は早速習得すると、強化のスキルを魔法を付与した剣にかけた。

 見た目は変わっていないが一合、二合、三合……スキルレベルは一だけど、付与が消えるまで二倍近く剣を交えた。

 さらにこのスキル、遠くにいる対象にも使うことが可能だ。

 獣王たちは……離れすぎていて駄目だけどカイナはスキルの有効範囲内にいる。

 これもレベルが上がればより遠くのものにスキルを使えるようになるみたいだ。

 俺は強化をカイナに使うと、


「ミア、少しだけ補助をするタイミングを遅らせてくれ。俺の方でもカイナをサポートするから」


 と叫んだ。

 こういう時念話などで相手に説明出来ると便利なのに……。

 今度受信機の念話バージョンの魔道具が作れないか調べてみるか?

 俺はそんなことを考えたが、すぐに頭を切り替えた。

 まずはこの戦闘を終わらせることが先だ。

 そしてカイナの補助を俺も担うことで、ミアは獣王たちの方に補助する余力が生まれた。

それから程なくして一体の魔物の気配が消えた。

 獣王たちは相手をしていたケルベロスを倒すと、すぐにこちらに援護に来てくれた。

 カイナが守り、獣王たちが攻撃をする。

 攻撃に重きをおける獣王たちの攻撃力は凄まじく、合流すると同時に一気にケルベロスを倒した。

 残ったボスは取り巻きと違って激しい抵抗をしていたが、最後はクリスの精霊魔法に撃ち抜かれて消滅した。

 こうして俺たちの九九階の攻防は幕を閉じ、残すところの階は一つになった。

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