第605話 フォルスダンジョン・28
魔法が消えた時、そこには四体のケルベロスがいた。
そのうち一体は今まさに消えるところだった。
どうやらその一体が盾となって攻撃を防いだようだ。
ただ俺たちは残った三体を見て動きを止めていた。
正確にはそのうちの一体だ。
そこにいたのは人型の魔物。鑑定すればそれがケルベロスで、このフロアのボスであることが分かった。
「変身?」
人型となったケルベロスは頭が一つだけど、右肩と左肩にそれぞれ顔がついている。
驚く俺たちを他所に、さらに目の前で変化が起きる。
二体のケルベロスが人型に変化した。
「ハッ、むしろ好都合だ。こっちの方が戦いやすいだろうしよ」
「貴方、様子を……」
ネネの言葉が聞こえなかったのか獣王は突進する。
対人戦の経験が豊富だからそのような行動をとらせたのか、それとも人に変化したことで少なからず動揺したかは分からない。
一人が動いてしまった以上、俺たちも立ち止まるわけにはいかない。
一人突出してしまえば囲まれる危険だって増える。
「とりあえずボスは俺が注意を引く! ルリカたちは援護を。カイナは一体頼む」
挑発のスキルを使ってボスと、獣王がターゲットにした以外のもう一体の注意を引く。
挑発は上手く効果があったようで二体が俺の方を向く。
俺は動きながら魔法を放ち、さらに注意を引いていく。
俺の後ろをついてくるのはカイナだ。
このままボスを俺が受け持ち、カイナにもう一体を頼む。最悪俺が二体に囲まれたらとりあえずスキルを駆使して耐えるしかない。
しかし近付いてきたケルベロスに対してカイナが鋭い突きを放てば、攻撃を受けた方のケルベロスはターゲットを俺からカイナに変更した。
「カイナ、無理をする必要はないからな」
俺はボスと向かい合い剣を振るう。
俺の斬撃はボスがした手甲で防がれて、そのまま踏み込んで蹴りを放ってきた。
咄嗟に出した盾で攻撃を防げば、盾越しに衝撃を受けた。
吸収を付与しているのにかなり重い。
人化して体は小さくなったが、パワーは上がっている?
ケルベロスは盾で防いでもお構いなく拳を振るい、蹴りを放つ。
決して洗練された動きではないが、接近され過ぎて剣を振るうことが出来ない。
まさに攻撃は最大の防御と言わんばかりの動きだ。
このままの間合いだと不利だ。
だから俺も反撃の準備をする。
…………………………
……………………
……今だ!
俺は蹴りのタイミングでシールドマスターのスキルを発動して攻撃を弾く。
バランスを崩したケルベロスは踏み止まるが、体勢が整う前に俺は剣を振るう。
攻守が変わり、ケルベロスが守備に回る。
手甲で巧みに攻撃を弾き反撃を仕掛けてくるが、有利な間合いを維持すれば相手の攻撃が届くことはない。
体術を主体とする対人戦の経験は殆どないが、獣王と戦ったことが生きていた。
あの時は嫌々戦ったが、今は少しだけ、ほんの少しだけ感謝しよう。
ただあくまで有利に戦えているだけで、倒し切ることが出来ない。
その一番の要因はその両肩についている顔だ。
それは決して飾りではなく、魔法や炎を吐いて援護してくる。
それでも俺が戦えているのは並列思考や相殺出来る魔法を使えるからだ。
逆にカイナは防戦一方になってしまい、後衛陣が援護射撃をしている。ヒカリも斬撃を飛ばし間合いを詰めている。
ただ的が小さくなったことで、その援護も思うようにいかない。
特に離れず常に接近して戦っているから誤爆する危険があるためだ。
離れた場所で戦っている獣王たちはどうなっているか分からないが、こちらに来ないということはまだ戦っているということだろう。
向こうは獣王にルリカ、セラが戦っているが、魔法を使われて苦戦しているのかもしれない。
人化してもヘルファイアとヘルウォールを普通に使ってきたからな。
俺は自分で付与し直すが、カイナは常にミアから補助を受けているようだ。
ミアから継続的に神聖魔法を使っている時の魔力反応を感じる。もしかしたら獣王たちの方もカバーしているかもしれない。
俺はヘルファイアを防いだ盾に光属性を付与しし直しながら、徐々に焦りを覚えていた。
経験を積んで成長する。ここのダンジョンの特徴だ。
目の前のケルベロスは今まさにそれを体現している。
無茶苦茶だった動きが洗練され、無駄な動きがそぎ落とされる。
さらに単調だった動きにフェイントが生まれ、魔法を交えてこちらに息を吐く暇のない攻撃を使ってくる。
極めつけは手甲から突然伸びた三本の爪だ。
それにより間合いが伸びた。
だけど最悪だったのは、その爪に付与された効果だ。
「爪に触れるな!」
他のケルベロスがどうなっているか分からないがそう叫んでいた。
剣に付与されていた光属性が、突然消失したからだ。
その爪を鑑定すれば、そこにはヘルファイアと同じ効果が付与されていることが分かった。
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