第604話 フォルスダンジョン・27

 九九階。ケルベロスとの戦いは長期戦を考えて準備はしたけど、最初から長期戦を考えての戦いはしない。

 今までの経験から、短期決戦で決着がつくならそれに越したことはないことが分かっているから。

 だからダンジョンに入った瞬間。俺たちは二手に分かれた。

 まずは獣王をはじめ、俺、ルリカ、セラの四人は前進する。俺は走りながら魔法を使う。並列思考を使って最初に防御系の魔法を三人に使い、それが終わったら攻撃魔法に切り替える。

 ヒカリはその場に留まり、斬撃スキルで攻撃。この時フィーゲルも弓矢を放ちながら魔法の詠唱に入る。ある意味起用だ。

 カイナはその場に留まり守りを固め、クリスとネネは攻撃魔法を唱え、ミアは補助魔法を使う。

 この時後衛陣も徐々に距離を詰めるために前進した。

 仮想ケルベロスの訓練をして改めて分かったのは、行動範囲を狭めて戦うことの重要さだ。

 敵が固まっていれば、一発の範囲魔法で複数体を同時に巻き込むことが出来るのが大きい。

 ケルベロスは初手でヘルファイア、ヘルウォール、取り巻き召喚と使ったが、ヘルファイアは俺が防ぎ、ヘルウォールはクリスの精霊魔法がかき消し、取り巻きは獣王たち前衛陣が倒してく。

 その間ヒカリとフィーゲルはボス本体を攻撃して、次の行動を起こさせないように努める。

 ただ他のボスと違い、ケルベロスには三つの頭が存在する。

 それによる攻防一体の動きは、遠距離攻撃だけでは突破することが出来ない。

 ただそれは俺たちも承知済みで、狙いは相手を自由にさせないことだ。

 また距離を詰めることで、相手の足を殺す狙いもある。

 ケルベロスは三つの頭による攻撃も脅威だが、その機動力も油断ならない。

 縦横無尽に動かれると、足止めするのも、攻撃を当てるのも困難になる。

 そして初手のこの先制攻撃は、俺たちの狙い通りの展開を生んでくれた。

 獣王は素早く懐に潜り込んで殴打すれば、セラは斧を振り回し弱らせていく。ルリカは接近したところで疾風のスキルで加速して、精度の高い攻撃を繰り出していく。

 俺はその間魔法を使いながら切り結び、相手に攻撃させないことで防御の負担を減らしていった。

 それに対してケルベロスも激しい抵抗を見せる。

 召喚した取り巻きたちの数体が劣勢と見ると、自らにヘルファイアの炎を使い、文字通り火の玉となって体当たりしてきたのだ。

 そうなるとその個体には下手に手を出せなくなってしまい、その炎を消すための魔法を使うか、俺が止めるしかなくなる。直接触れると燃え移ってくるからな。

 もっともケルベロスのヘルファイアで自分の体を燃やす自爆攻撃は、火に対する耐性のあるケルベロスでも長くは生存することが出来なかったようだ。


「ちっ、厄介な攻撃をしてくる」


 獣王は舌打ちして悪態をつくが、相手も俺たちを倒すために必死なのだろう。

 実際そのわずかな時間でケルベロスは態勢を整えて、再び召喚を使って数を増やそうとしてきた。

 俺たちはその召喚を止めることは出来なかったが、確実に数を減らしながらさらに範囲を狭めるため間合いを詰めてく。

 移動空間が徐々になくなっていくと、ケルベロスは徐々に劣勢になり、戦い方も単調になっていく。

 機動力が封じられて、もう一つ、ヘルウォールを使ってこなくなった。

 これは攻防一体となった脅威の魔法ではなるが、狭い行動範囲の中では術者にとっても邪魔になるようだった。

 実際、ヘルウォールに触れたケルベロスが、その炎に焼かれて死んだのを目撃した。


「ソラ、一体そっちにいったぞ!」


 獣王の声に、俺は振り下ろした剣を引き戻し、体勢を整えて盾を構えた。

 足元に横たわるケルベロスは粒子となって消えていったが、俺の意識は既に次のケルベロスへと移っている。

 ケルベロスは全身を使って体当たりをしてきたが、勢いがついていないから威力は半減……いや、それ以下だ。

 突進が止まったケルベロスに対して、俺の肩越しから矢が飛び出し二つの目に突き刺さる。相変わらずの正確な射撃だ。

 矢を食らった顔が悲鳴を上げ、残りの二つの顔は怒り狂う。

 けどそこに追撃の攻撃が入る。

 まずルリカが疾風のスキルで死角から斬り付け、注意がそちらに逸れたところで頭上からセラ降ってきた。

 落下の勢いがついた振り下ろしは、意識外からの攻撃で完全に虚を突き、首を斬り落とした。

 これでさらに一体が減り、残りは……獣王が戦っていた個体も倒れて、四体になった。

 その四体はクリスとネネの魔法の波状攻撃でフロアの片隅に追いやられている。


「魔法が途切れたところで攻めるぞ。ソラはボスの注意を頼む。フィーゲルとヒカリは遠距離攻撃で援護だ。ルリカとセラは無理に倒そうとするな」


 魔法が途切れたところで攻撃を仕掛けたが、残念ながら一体も倒すことが出来なかった。

 フロアの隅に追い詰めることが出来たが、逆に俺たちの動きも阻害されている。

 ただそれは想定していたことで、俺たちが攻撃をしたのはケルベロスの取り巻き召喚を防ぐためだ。

 本命は次の攻撃。クリス、ネネ、フィーゲルが魔法の詠唱を終える。

 俺たちでは倒しきれなかったが、それでも手傷を負わすことは出来ている。

 何よりその場に足止めすることが一番の狙いだった。

 そして放たれた魔法は、身動きの取れなかったケルベロスたちを呑み込んでいった。

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