第603話 フォルスダンジョン・26
連携を取り出したケルベロスは、二体一組、三体一組で固まって攻撃を仕掛け、また守っていた。
一体が攻撃に回れば、残りが補助や守りに徹してといった形だ。
相手が攻撃を仕掛けてくればこちらも守りに比重を割く必要があるから、どうしても攻め切ることが出来ない。
その一つの要因に、召喚による個体のレベルは下がっても、魔法の効果に影響がない点だ。
もちろん威力が弱くなっているから、例えば今までは一回防いだら属性の付与が切れていたのが、二回、三回と付与が切れるまでの回数は上がった。
だからといってその攻撃を属性が付与された状態で防がないと、燃やし尽くすまで炎が消えないことには変わりない。
また三つの頭が攻撃のタイミングをずらしてくるのも俺たちの勢いを削ぐ効果があった。
結局戦闘が終わりそうだと思ってから、実際に戦闘が終わったのは二時間後だった。
確かに今までも階を進むごとに相手も戦い方を変えてきたけど、まさか戦いの終盤であそこまで連携を密にとるようになるとは思わなかった。
ケルベロスが出るのは残すところ九九階のみだが、次はさらに相手の連携の練度が上がっている可能性が高い。
「一度作戦を練り直す必要がありそうだな」
獣王の言葉に反対する者は誰もいない。
相手の練度が上がるなら、こちらもそれ相応の準備をする必要がある。
それでも悪いことばかりではない。今知ることが出来たから。
それに俺たちの練度も決して悪いわけではない。
最初に比べれば連携は取れているし、互いに得手不得手も心得ているから、それを補うように動くことも出来ている。
ケルベロスが連携してきても俺たちが崩れず戦えたのは互いにカバー出来ていたからというのもある。
「鍛錬所で連携を深めるのか?」
「それもいいが、やはりここはダンジョンがいいんじゃないか?」
獣王はケルベロスとは別の階で連携を深める練習をしないかと提案してきた。
それもケルベロスと同じように四足歩行で戦う魔物の階……七一階からのヘルハウンド、七六階からのオルトロス、九一階からのマンティコアのどれかがいいんじゃないかというのだ。
確かに五〇階以下にもタイガーウルフなど出るけど、さすがに役不足か?
一度は通過してきたとはいえ、上層階で出る魔物が強敵であることは変わりがない。
けどある程度のリスクを承知で戦わないと、確かに俺たちの訓練にはならないかもしれない。
悩んだ挙句、結局仮想ケルベロスの相手はどの魔物も当てはまらないということで、三種の魔物とそれぞれ順番に戦うことになった。
ケルベロスのように厄介な魔法を使ってこないから、結局選べなかったのだ。
「けど思うんだが、俺たちが例えば七二階でヘルハウンドの戦った場合、その時の戦闘の様子はダンジョン側の他の階、例えば次に七八階のオルトロスと戦うことを選んだ時に反映されたりしないのかな?」
「それはないんじゃない? そうだったなら一階からの私たちの戦い方をもとに攻略の難易度を上げてきてそうだし。あくまで同一の魔物と……ケルベロスならケルベロスの階でのみ適応されるんじゃないかな」
俺の疑問にルリカが答えた。
確かに一階からの戦い方をダンジョンが読み取っていったなら、もっと苦戦しているはずか?
ただ俺たちの場合は結構階ごとでパーティーを組むメンバーを変えていたり、武器を新調したりと根本的な戦闘の仕方は変わっていないけど、別のところでの変更は結構ある。
その辺りは考えるだけ無駄か。
それからは毎日各魔物と一回ずつ戦った。
時には取り巻き召喚を繰り返させて魔物のレベルを下げたところで、後衛陣のミアやクリスが接近戦で戦う練習もした。
最初は反対したが、過保護なだけじゃ成長出来ないという獣王の言葉に、俺もルリカも反対することが出来なかった。
ミアとクリスがやる気だったというのもある。
「僕も昔やりましたね」
とフィーゲルが遠い目をして言った。
ただそのお陰で確かに接近されてもある程度戦えるようになったと。
それでもシールドで保護することだけは認めてもらった。
最初は攻撃を躱し切れずに攻撃を受けていた二人も、回数を熟すことで初動の反応からどう動くかを予測することが出来るようになったみたいで、最後の方では余裕をもって躱すことが出来るようになっていた。
それを読んで反撃の魔法を撃つまでに至っていた。
「ま、やれることは全部やった。あとは九九階を突破するだけだな」
ダンジョンの上層階巡りを始めて一週間後。準備は整い、いよいよ九九階に挑むことになった。
戦いと並行して消耗品も十分用意した。
主にMPやSPを回復するためのポーションなど、長期戦になっても大丈夫なように。
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