第602話 フォルスダンジョン・25
九六階。入場と同時に遠距離攻撃が飛び交う。
ヒカリの斬撃、ルリカにセラ、獣王の投擲攻撃。フィーゲルの弓。ネネの魔法。
カイナは盾を構え先頭に立つ。
俺とミアはその間に補助魔法をかけていく。俺は光の属性魔法を。ミアは聖水を媒介にして神聖魔法の補助を。特にカイナに集中して重ね掛けをする。
クリスは精霊魔法の詠唱に入り、それが終わったら魔法を待機させてケルベロスの反応を待った。
攻撃されたケルベロスは躱しながら、それぞれの攻撃を放つ。
右の顔は炎のブレスを。左の顔は召喚魔法で取り巻きを呼び出した。
中央の顔は何もしないでこちらの動きをジッと見ている。
「クリス」
ルリカの言葉にクリスが水の精霊魔法を放った。
別にクリスはヘルファイアやヘルウォール対策のために魔法を唱えたわけではない。
クリスから放たれた精霊魔法は、ケルベロスたちを呑み込むように視界一杯に広がる。
それを見た三体のケルベロスが、同時に防御のための魔法を使った。
目の前に聳え立つ赤い壁……ファイアウォールは、勢いを殺せずに呑み込まれていく。
しかしその魔法が消えた後ろ側から覗くのは、赤黒い壁だ。
それらはクリスの魔法とぶつかり、水の蒸発する音が聞こえてきた。
やがて魔法は重なり合うと、湯気となって双方ともに消滅した。
「気を抜くな! 次が来るぞ‼」
魔法が消えた次の瞬間、獣王の鋭い声が飛んできた。
湯気の向こう側に、赤い光が見えた。
それは徐々に大きくなって、湯気の中から飛んできた。
直径一メールぐらいの赤黒い炎。
間違いなくヘルファイアだ。
それが三発。こちらに飛んでくる。
俺はそれを見て、
「カイナ、一つ頼む」
と声を掛けて複製で盾を作った。
手の中に現れた盾は、炎に触れると燃え上がった。
俺はすかさず手を離して飛び退くと、宙に投げ出された盾は炎に包まれて……やがて消えた。
炎によって焼き尽くされたのか、それとも複製の効果時間が切れたのか……たぶん後者だな。
一応この方法でヘルファイアを防ぐことは出来そうだ。
カイナの方を見ると、あちらも問題なく防ぐことが出来た様だ。
ただ盾に付与された属性が消えていた。
重点的に重ね掛けしたのにもかかわらず。
「ルリカたちはどうだった?」
「投擲武器じゃ駄目ね。勢いは多少削ぐことは出来たけど止められなかった。それと資料通り爆発したわね」
ただ爆発によって飛び散る範囲は狭く、距離さえとっていれば被弾することはないだろうということだ。
あと爆発した炎は、すぐに消えたとも言った。
「基本回避がよさそうだ」
「そうだな。あと後衛陣はソラが守ってやれ。カイナも頼んだぞ」
獣王の言葉に俺とカイナは頷いた。
それからは防御主体の攻防が続いた。
戦って分かったのはヘルファイアよりもヘルウォールの方が厄介だという点だ。
止めの一撃を刺そうというところで使われて、倒しきれない場面があった。
ただその魔法は魔力の消費が激しいようで、こちらが攻撃を仕掛けている間は相手の攻撃の手が緩んだ。
時々単発でカウンターを仕掛けてくる程度だった。
最終的に時間こそかかったが、九六階を突破することが出来た。
ただ緊張感に包まれた戦いはこちらの消耗も激しく、終わったあとは皆座り込んでいた。
「なかなか手応えのある相手だったな」
息を切らせながら獣王がいった。
最前線で戦っていたのもあってかなり負担が大きかったようだ。
けど強敵と戦えたのか実に嬉しそうだ。
「けどこの調子ならいけそうだな。確かに魔法は厄介だが、各個撃破していけば倒せない相手じゃないしよ」
そこは召喚される取り巻きの数との兼ね合いになるけど、複数人で同時に攻撃すると相手がケルベロスでも倒すまでの時間がかなり早い。
特に後半あたりになったら、その処理速度はかなり上がっていた。
もちろん召喚するごとに魔物のレベルが下がっていくというのも関係しているが、それ以上に戦いを通じて連携の練度が上がっていたというのが大きいと思う。
まるで互いがどう動くのかを理解しているかのような動きだった。
それをコントロールしていたのが獣王だった。
「まあ、俺だったらどう動く。どう動いて欲しいかを考えれば、自ずとどう動けばいいか分かるもんよ」
と獣王は事も無げに言っていた。
そして十分な休憩を取って九七階に突入した。
九六階の経験を生かして取り巻きを召喚されても、慌てず一体一体確実に倒していく。
それを繰り返せば徐々にケルベロスのレベルも下がり、途中からは一方的に倒していく形になった。
お陰で九七階を突破するのにかかった時間は、九六階の半分以下だった。
そのままの勢いで九八階に突入し、順調にケルベロスを倒していく。
ただいよいよ戦闘が終わる段階になって、俺たちの攻撃の手が止まった。
それは今まで単体で攻撃してきたケルベロスが、突然連携を取り出したからだった。
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