第599話 フォルスダンジョン・24
九一階に出るマンティコアは、出現と同時に真っ直ぐ突撃してきた。
その速度はヘルハウンドよりも速く、オルトロスよりも力強かった。
シールドマスターにミアの補助、吸収が付与された盾に下調べがなければ、その衝撃で吹き飛ばされていたかもしれない。
ただ戦って分かったのは、一番の脅威はその身体能力の高さではなく、巧みに使ってくる尻尾からの攻撃だった。
先端がサソリの尾のようなその尻尾を鞭のように振るい、その先端が触れると状態異常の麻痺にかかるようだった。
しかも厄介なのが即効性ではなく、徐々に浸透するといった感じだ。
幸いだったのが、それが分かったのはボスを倒した戦闘後だったからだ。
「何でこの情報が資料に載ってないんだ?」
と思わず呟いていた。
「それで俺たちの戦い方を見てどう思った?」
「普通に戦い慣れてるって感じだな。バランスも悪くない。正直七人で上層階を挑戦してるって聞いた時は耳を疑ったが、これなら納得だ」
獣王は褒めてくれたが、相性の問題もあったと思う。
魔法などの遠距離攻撃を使う相手だと、どうしてもクリスとミアの方の守りに人を割くことになってしまう。
マンティコアは近接戦闘メインということもあって、守りの人員を攻撃に回せた。もちろんその分突破されたら危険だから、細心の注意を払って戦い、自分たちの立ち位置にも注意していた。挑発も定期的に使って、可能な限り俺の方に注意を引くのも忘れない。
あとは召喚を使われなかったのも大きかった。
少しの休憩を挟み九二階に進むと、今度は獣王中心に戦うことになった。
獣王は回避中心で隙が出来たら攻撃を打ち込むスタイルで、ネネは魔法メインで攻撃、フィーゲルは弓と魔法を併用して戦うスタイルみたいだが、基本弓で攻撃していた。
フィーゲルの使う弓は魔道具で、矢を単体で放つことも出来るが、魔力を籠めることで魔力の矢を精製して攻撃することが可能なものだった。
「ただ自分の扱える属性の矢しか作れないんだけどね」
とフィーゲルは言っていた。
フィーゲルの使える魔法は水と風だから、水の矢は当ると凍結で動きを鈍くし、風は矢自体の速度を上げて攻撃力を上げるみたいだった。
俺なら色々な属性の矢を作れるからやれることが多そうだけど、そもそも弓矢は使ったことがないからな。
フィーゲルが活躍出来るのは魔法の弓矢だけでなく、弓を扱う腕あってこそだから。
そして九三階からは改めて陣形を組んで挑んだ。
まずは五人一組でパーティーを作り、獣王のチームに獣王とネネ、セラとルリカとヒカリの攻撃陣が集まり、残りでもう一組作ることになった。
「近接組にネネさんが入っているけどいいのか?」
先ほどの戦いでは魔法をメインで戦っていた。
一人だけ遠距離攻撃の人が入ることになるが、四人のサポート役になるのだろうか?
俺が尋ねると獣王とフィーゲルは苦笑し、
「ネネは状況によってスタイルを変えるんだ。まあ、俺たちのパーティーは物理メインの奴らばっかだったから魔法メインで戦うことが多かったが、本当は近接戦闘が得意なんだよ」
と言ってきた。
リュリュの話だと昔は獣王よりも圧倒的に強いって話だったからな。
それに獣王たちの様子を見ると、強い信頼のようなものを感じる。
その獣王の言葉はすぐに証明されて、獣王に負けず劣らずの激しい打ち込みをしている。
俺はその様子をチラリと一度見て、周囲にいるマンティコアを見た。
半円形に俺を囲むマンティコアの数は五体。全て召喚された取り巻きだ。
噛み付き攻撃に前脚により打撃や踏み付け攻撃に集中して避け、尻尾による攻撃は半ば無視をする。
マンティコアの尻尾による攻撃は状態異常がメインになっているため、直接的な威力は他の攻撃に比べて格段に下がるからだ。
俺にはスキルレベルがカンストしている状態異常耐性があるから状態異常にはかからないからだ。
これはカイナにも言えることで、カイナはゴーレムだから毒や麻痺は効かない。
俺が防いでいる間にクリスが拘束系の風魔法で動きを鈍らせて、その間にカイナとフィーゲルが攻撃を仕掛けている。
また逆にフィーゲルが補助の魔法で牽制している時はクリスが攻撃に回る。
魔法は補助よりも攻撃系の方が消費が激しいから、互いに補っている感じだ。
そして数が減ったら俺とカイナが交代し、剣を振るって一気にマンティコアを倒していく。
上手い具合に連携が繋がり召喚されたマンティコアを倒して援護に行こうと思って獣王たちの方を向いたところ、向こうもちょうど決着したところだった。
その後の九四階と九五階も基本的な戦い方は変わらず、召喚で多くの取り巻きが呼び出された時はその都度獣王たちのいるチームから俺たちの方に援護に来てくれて、危なげなく突破することが出来た。
九五階を突破後に、
「強いな。どうだ? うちの騎士団にはいらないか?」
とセラの戦いぶりを見て獣王が勧誘していたけど、
「ボクは対人戦はあまり得意じゃないのさ」
と断っていた。
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