第597話 無双再び?
「もう九〇階まで攻略したのですが!」
受付嬢の声が室内に響いた。
その表情は驚き一緒に染まっていた。
それを聞いた周囲の冒険者たちも、
「さすが獣王様だ!」
と獣王を称える声が広がる。
その中には俺たちのパーティーについて話す人たちもいる。
「マジョリカのダンジョンを攻略したって話だからな」
なんて声が聞こえてきた。
もっとも賞賛された獣王は微妙な表情を浮かべている。
ここまで注目されるのには訳があった。
もちろん俺たちのパーティーに活動を止めていた獣王たちのパーティーメンバーの三人が電撃参戦したのも大きいが、一番の理由は八一階の攻略を今日の朝から始めて、昼過ぎには九〇階までの攻略が終了したからだった。
ここまで攻略がスムーズに終わったのは獣王たちのお陰……ではなく、ミアの力によるものだ。
そう、八一階から出たのはアンデッド系の魔物。その天敵であるミアの前に、彼らは為す術もなく消えていった。
まず八一階。ボスが出現した次の瞬間、霧となって消えた。
まだこの時には何があったか分からなかった。
次の八二階。出現したボスは俺たちの方に向かってこようとして脱兎の如く反対方向に駆け出した。
俺たちが何事かと警戒しながら近付いていったが、途中で霧となって消えた。
八三階でも同じことが起こり八四階。そこでネネがあることに気付いた。
「あの魔物、ミアさんを見ていますね」
まるでその声がデスハウンドにも聞こえたかのように、魔物の震えが激しさを増した。
実際ミアだけが一歩踏み出せばデスハウンドはそれに反応して距離を取り、最後これ以上先に行けないとなると、最後絶望の表情を浮かべながら消えた。
いや、骨だけだから表情とか分からないけど、なんとなくそんな感じを受けた。
そういうことがあって、それを九〇階までただ繰り返した。
俺たちは一度も攻撃どころか、魔物と戦いもしていなかった。
マジョリカでも確かアンデッドの出る階があったけど、難なく突破したことをこの時思い出していた。
「ま、まあいいじゃいない。何の被害もなく突破出来たんだしさ」
それはルリカの言う通りだ。
「うん、早く先に進みたい」
そう言ったのはヒカリだが、別にヒカリは戦えなかったからそのような言葉を発したわけじゃない。
「アンデッドだと肉は落としませんからね」
「仕方ないさ」
ということでクリスとセラに慰められていた。
特にダンジョンのデスハウンドは魔石がない特別仕様だから、宝箱からは骨の素材と、一点の魔道具を手に入れることが出来た。
「獣王、俺たちは資料室に寄るがどうする?」
「……そうだな。あとで城の方に来てくれ。忙しいようならソラとミアだけでも構わない」
獣王コールを聞きながら、ちょっと疲れた表情の獣王が言っていた。
いつもなら調子を合わせるらしいが、さすがに何もしていないからそのような気分にはなれないみたいだ。
なんか否定しても、
「どうしたんですか獣王⁉」
とか、
「またまたご謙遜を」
とか言われて話を聞いてくれないみたいだしな。
俺たちの方も下手に理由を話してミアが注目されるのを避けるために、さっさとその場から離れることにした。
うん、獣王の尊い犠牲は無駄にしない。
ネネもこの時資料室に一緒に退避してきて、それを見たフィーゲルは諦めの表情を浮かべてため息を吐くと、肩を落としていた。
今回は消耗品を一切使わないこともあって、ルリカたちも資料室へと来ていた。
残り回数は一〇階。出る魔物は九一階から九五階がマンティコア。九六階から九九階がケルベロス。最後の一〇〇回がフェンリルになる。
とりあえず次に戦うことになるマンティコアだが、召喚以外の魔法は使ってこないみたいだ。
高い身体能力を武器に、正面から戦ったとある。
なんとなく獣王が好みそうな戦い方だ。
余裕があったからケルベロスについて少し調べたが、三つの頭からそれぞれ攻撃魔法を使ってくるとある。
ただしケルベロスの使う魔法は闇魔法で、特に強力なのがヘルファイアという魔法らしい。
これは対象を燃やし尽くすまで消えない闇の炎で、人体だけでなく道具にも適応されるみたいだ。
だからこれに攻撃されたら躱すか、魔法による障壁で防ぐしかないと書かれている。あ、あとは聖水の消化も可能? みたいに書かれているが、何だその最後のクエッションマークは!
……とにかく俺が挑発などで常にターゲットを取る必要があるな。
俺だったら転移で避けることも出来るし、複製で作った盾で防ぐことも出来る。
問題は三方向に同時に攻撃された場合や、召喚で取り巻きが増えた場合か……この辺りは九五階まで攻略出来たら魔法組と対策を練るしかないかな。
「俺たちは一度城に行くがルリカたちはどうする?」
「……私たちは少し体を動かしてから戻るとするよ」
何もしていないから力が有り余ってそうだしな。
結局獣王たちに会いに行くのは俺とミアだけになったため、ここでルリカたちとは別れて、ネネと一緒に獣王に会いに行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます