第596話 新メンバー
宿に戻ると珍しい人が待っていた。
「なんか久しぶりだな」
「はい、久しぶりっす」
それはフクスト村から戻ってきてから獣王について忙しく働いているようだと聞いていたリュリュだった。
「今日はどうしたんだ?」
「獣王様から用事を頼まれたっす。ソラたちを……皆を晩餐会に招待するって突然言い出したんすよ」
リュリュは疲れているのかため息を吐いた。
この皆というのは俺たちパーティーメンバーだけでなく、サイフォンやアルゴ、ナオトたちも含まれているそうだ。
ちなみにサイフォンたちには別の人たちが声を掛けにいっているそうだ。
「主、行く!」
ヒカリが乗り気なのは、美味しい肉料理が出ると聞いたかららしい。
リュリュの話だと王城に招待というけど、別に堅苦しいものではないらしい。
俺としても料理には興味があるし、別に模擬戦をするわけではないから反対する理由はない。
それに獣王はあまり王様って感じがしないから接しやすいというのもある。失礼かもしれないけど。
俺たちがそのままリュリュに案内されて王城に向かえば、既にサイフォンたちは到着していた。
晩餐会といっても一つのテーブルを皆で囲んで食事をするというかたちではなく、複数のテーブルに分けられている。
皆で集まると三〇人近くいるからな。
サイフォンたち一部の者たちは既にお酒を飲んでいるのか、顔を赤らめて上機嫌で話している。
その中には獣人の姿もあるようで、城の関係者なのだろうか?
聞こえてくる内容から武闘大会のことが話題になっているようだ。
「あっちはあっちで楽しんでいるっす。それともソラたちも飲むっすか?」
俺がその申し出を断ると、答えが分かっていたかのようにあるテーブルに案内された。
そこには三人の先客がいて、一人は獣王で他にもう二人いた。
そのうちの一人が獣王の奥さん、リュリュのお姉さんにしてこの国の王妃ネネで、もう一人がフィーゲルと名乗った。
「まあ、まずは食事だ。腹が減っているだろう?」
テーブルの上に並べられた料理に釘付けになっているヒカリを見て言った。
食事は時々獣王からダンジョン攻略の様子を質問されたり、武闘大会に間に溜まっていた仕事がやっと終わったなどと、会話を交えながら進んだ。
そしてテーブルの上の料理があらかた片付いた頃に、獣王が真剣な表情になって尋ねてきた。
「今日、ギルドから報告があったが、八〇階を攻略したというのは本当か?」
「間違いないよ」
「……そうか……ソラよ。このまま進むのか?」
「もちろんそのつもりだけど」
「……七人でか?」
獣王はテーブルに着く俺の仲間たちを見て言った。
俺が頷くと、
「俺の、俺たちの力は必要か?」
と獣王は尋ねてきた。
そういえば獣王たちは八一階あたりまで攻略しているんだったか?
けどそれなら別に俺たちに同行する必要はないはずだ。
獣王には自分たちで組んでいるパーティーがあったはずだから。
俺がそんなことを考えていると、
「……いや、違うな。俺たち三人を同行させてくれないか?」
獣王はそう言うと、現在の獣王たちの置かれた状況を話し出した。
獣王たちがダンジョンの攻略を止めていたのは、表向きは武闘大会の事後処理に追われていたからとなっている。
もちろん忙しかったのは本当だからそれも一応嘘ではない。
でも本当の理由は、パーティーメンバーの三人が、攻略中にダンジョン内で死んだからだ。
死んだといってもダンジョンの機能によって復活部屋の方に転送されて命に別状はないが、眠ったまま起きないということらしい。
「それでネネが言うには、眠ったままの者たちはダンジョンを攻略すれば目覚めるということらしいんだ」
獣王がネネを見ると、彼女は静かに頷いた。
何でそんなことが分かるんだ? と思うけどネネはフクスト村で巫女をやっていたほどの力の持ち主だ。もしかしたらまだ神託のようなものを受けているのかもしれない。
それはさておき獣王の申し出だけど、それは正直ありがたいと思った。
獣王たちから参加するのは獣王にネネ、そしてフィーゲルの三人らしく、獣王は前衛。ネネは前衛よりの魔法使い、フィーゲルは弓と魔法を使うということだった。
「俺は構わないけど、皆は?」
確認のためルリカたちに聞いたが、反対の意見はなかった。
「そうか。なら準備もあるだろうし、俺たち……というかネネとフィーゲルがどんな戦い方をするかを知ってもらうためにも、一度皆で集まって模擬戦でもしない?」
獣王は嬉しそうに言ったが、
「あなたは戦う必要ないと思いますよ」
とネネに釘をさされていた。
それを聞いた獣王は悲しそうな顔をしたが、ここで助け舟を出すと面倒ごとが増えるかもしれないと思い俺は黙った。
ルリカたちは別に構わないという感じだったから、獣王の相手はルリカやヒカリに任せよう。
そして翌日約束通り互いの出来ることを確認すると、八一階へ向けての準備に時間を費やした。
既に体験している獣王たちのアドバイスを受けながら。
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