第594話 フォルスダンジョン・22
ルリカの体力が回復して、その後体を慣らして万全の状態になったところでダンジョン攻略を再開した。
その間資料で得た知識を共有したり、錬金術で大量の装備を作ったりと忙しく過ごした。
ルリカやヒカリ、セラの三人は特に覚えたスキルの見直しを入念にしていた。見直しというか、使いこなそうと訓練したといった方が近いかもしれない。
特に前回の戦闘でルリカが疾風の新しい使い方を見せたことで、ヒカリも新たな可能性を模索している感じだった。
「あれがオルトロス……」
双頭の魔獣。それぞれの目の色は赤と緑……ということは火と風を使うということか。
資料では目の色で使う魔法が分かると書かれていた。
オルトロスは叫び声を上げると俺たちに突進してくる。
それに対して俺は前に出るが、移動しながらの召喚を警戒してヒカリは斬撃で遠距離攻撃を繰り出す。俺も前に進みながら土魔法で攻撃する。
オルトロスはその攻撃を避けることもなく、勢いを殺さず突っ込んできた。
俺は足を止めて盾を構えてその攻撃に備える。
その時鑑定すれば、オルトロスのレベルは七七と表示された。
七五階のヘルハウンドと比べると差が二つ上だが、体感としてはヘルハウンドの突撃の方が衝撃が強かったような気がする。
その後も接近戦で戦ったが、拍子抜けするほどあっさり倒せた。
「なんか呆気なかったわね」
「魔法も使ってこなかったさ」
「魔力の高まりを感じましたから、使おうとはしていたみたいです」
ルリカ、セラ、クリスがそれぞれ感想を言う。
確かに魔力の高まる反応を何度か捉えたけど、その都度こちらの攻撃があたり弱まった。
「あと動きもヘルハウンドと比べると遅い感じだったわね」
「攻撃がよく当たった」
ルリカの言葉にカイナが同意する。
これは上手いこと囲むことが出来たのも大きかったと思う。
どちらに回避しても誰かしら待ち受けていたから、徐々に動ける範囲が狭まっていき最終的に追い詰めて倒した感じだった。
「それでどうする? このまま進むか?」
俺はもちろんのこと、他の面々にも疲労の色が見えない。
「休憩してからいきましょう。装備の点検もしたいし」
ルリカの言葉に反対する者は誰一人いなかった。
俺も剣と盾の状態を確認して、使った消耗品の確認を皆にする。
魔法対策の魔道具は活躍の機会がなかったから消費されていないが、投擲用の武器は使用したから減っている。微々たるものだったけど、使った量を把握しておくのは大事だ。
ただ使った分は皆に配って補充した。
戦闘中になくなっても補充する余裕なんてないからな。
以前からヒカリたちが使っているアイテムポーチはそれなりの収納量があるけど、それでも無限に入るわけじゃない。
中でもセラが使っている手斧はちょっとした大きさがあるから、ルリカやヒカリと比べると本数はどうしても少なくなってしまう。
もっともセラは遠距離よりも近距離メインで戦い、その方が力を発揮してくれるから今のところ大きな問題にはなっていない。
その後十分休憩を取って七七階に挑み、こちらも特に苦戦することなく倒すことが出来た。
目の色は変わらず赤と緑で、開始直後に火と風の魔法をそれぞれ放ってきたが、それを俺がオーラシールドで防ぐと、クリスは遠距離から精霊魔法を、ヒカリは斬撃のスキルで反撃した。
その間にルリカはセラを連れて疾風で距離を詰めると接近戦に持ち込み、ルリカたちが戦っている隙に俺たちが距離を詰めて合流して倒した感じだ。
ただ最後にオルトロスも相打ち覚悟で攻撃を受けながら火のファイアーボールを放ってきたため、それをルリカとセラが被弾した。
もっとも魔道具のお陰で被害はなかったが、そのことから攻撃を仕掛けていれば必ずしも魔法の妨害が出来るわけではないことが分かった。
そもそも魔物は言葉といえば唸り声だけだから、魔法の使う兆候はあくまで魔力の高まりから魔法を使ってくると判断していただけだからな。
正確に魔法を妨害する方法があったわけではないから、それが今分かっただけでも良かったと思うようにする。
ただそうなると、今後は召喚を妨害出来ると考えずに行動する必要がある。
「あまり難しく考えない方がいいよ。むしろ今分かって良かったと思うべきね」
「ルリカちゃんの言う通りです。次からはそれを念頭に入れて行動すればいいんですから」
ルリカとクリスは前向きだ。
実際二人の言う通り、今分かって良かったのは確かだ。
前情報なしに召喚を妨害出来ると思っていたのに出来なかった場合、動揺したかもしれない。
その一瞬の動揺が生死を分けることだってあり得たわけだからな。
そして俺たちはその場でお昼休憩を済ませると、そのまま七八階へと進んだ。
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