第593話 料理
宿に戻って来ると、ルリカの顔色はだいぶ良くなっていた。
ひとまずルリカのことはクリスとセラに任せて、俺はヒカリと一緒に調理場を貸してもらい料理をすることにした。
料理と聞いてミアとエルザもついてきた。
「主、肉?」
「ああ、キングミノタウロスとヘルハウンドの肉を使ったな」
その言葉にヒカリは頬を綻ばせている。
特にヘルハウンドの肉はまだ食べたことがないからな。
調理方法は料理スキルのお陰で分かるから、それに従い調理していく。
ミアとエルザには口頭でそれを伝えていく。
ヘルハウンドの肉は筋を上手いこと切って下処理をしないと、噛み切れないとあるからそれが一番大事みたいだ。
たぶん料理スキルがアシストしてくれなかったら俺には無理だ。
実演と口頭の説明でそれを理解して実際に下処理をしていくミアとエルザの技術が高いんだろうな。
テキパキと料理するミアのことを見ていると、出会った頃が嘘のようだと思った。
それだけ俺たちのために何度も何度も料理をして腕を磨いてきたんだよな。
「それじゃヒカリ、これを焼いてもらえるか?」
「うん、任せる」
ヘルハウンドの肉の焼き方に関しては特に注意はない。他の料理とその辺りはだいたい同じだ。
だからこれに関してはヒカリに任せることにした。
味付けの方は……調味料を使う時には声を掛けるように言っておいた。
そして俺たちは色々な鍋を用意してまとめて料理を作っていく。
ここで作っておけば旅先の食事に困らないからな。
これも全てアイテムボックスのお陰だ。
ルリカとクリスと出会った当初に空間魔法を覚えている人はパーティーに誘われるという話を聞いたけど、納得だよな。
これ一つあるだけで冒険者としての活動環境ががらりと変わる。
そして完成した料理は今日食べる分を残してアイテムボックスに収納した。
料理を終えて部屋に戻ると、ルリカの様子を見に来ていたユーノとちょうど会った。
せっかくなので食事に誘うと、サイフォンやアルゴ、ナオトたちと皆で食べることになった。
こういう皆で食べる時は結構お酒を飲むことを許可されているのでサイフォンが一番嬉しそうだった。
お酒を飲む時はお酒を飲む人と飲まない人に別れて食事をする。
サイフォンたちは酒癖が悪いわけじゃないから絡まれることがないけど、匂いが苦手な人もいるからな。
これはミハルやコトリが主に駄目だった。
エルザやアルトは俺たちが保護するまで育った環境が環境だったためか、特に気にならないようだったけど。
異世界召喚組ではナオトとカエデがお酒を飲むが、中でもカエデが強いみたいだ。
シュン曰く、酔っているところを見たことがないらしい。
かといって積極的にお酒を飲むかというと飲まないらしく、勧められたら飲むみたいな感じのようだ。
一度ナオトにどれだけ強いのかシュンは聞いたことがあったみたいだが、その時は顔を引き攣らせて何も答えなかったとのことだ。
ま、まあ、酒飲みの世界は飲まない人間からしたら全く分からないからな。
俺は頭を振って、肉を頬張るヒカリ……とアルトを見た。
ヒカリはいつものことだけど、アルトも近頃良く食べる。
体も出会った頃に比べて大きくなっているし、肉付きもよくなっている。
これはダンジョンに通っているのも影響しているかもしれない。
昔はエルザの後ろに隠れていることが多かったけど、今ではそれもなくなってきている。
むしろエルザを守ろうとする時もあるみたいだ。
そう話すエルザは嬉しそうだったけど、ちょっと寂しそうでもあった。
そのエルザはヒカリとアルトの汚れた口元を時々拭いては色々な料理を食べて味わっている。
そんな二人を様子を見ながら、ふとここのダンジョンの攻略を終えた後のことを考えた。
気が早いと思いが、このダンジョン攻略が終わったら再び別のダンジョンを目指すことになる。
その時二人を同行させるのはやはり難しい。
残りのダンジョンはマジョリカとここを除くとあと五つ。その内の三つが帝国内にあるからだ。
帝国は色々な意味で心証が悪いからな。
セラを奴隷にして酷使したのもそうだけど、旅の途中であった帝国出身の冒険者の横柄な態度も最悪だった。
そんなところに連れて行くのはさすがに気が引ける。
それに将来のこともあるんだよな……。
そのあたりは俺が気にするようなことじゃないかもだけど、やはり心配になる。
……この辺りは本人たちの希望と、クリスたちに任せた方がいいかもな。
やはり異世界から来た俺とだと価値観とか、考え方も違うだろうから。
まずは俺も今日は食事を楽しみ、明日に備えよう。
明日からは七六階以降の攻略のための準備のために、忙しく働かないとだからな。主に錬金術で武器を作製したり、あとは使い捨てになるけど結界術のシールドを付与した護符を大量に作ったりな。
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