第590話 フォルスダンジョン・21
ヘルハウンドのボスは強かった。
レベルは七五。今まで戦ってきた、各階のヘルハウンドのボスと比べるとレベル自体は高いというわけじゃない。
けど強く感じるのは、一人で戦っているからだ。
今までだったら俺が攻撃を受け止めている間に仲間たちが攻撃を仕掛けて倒すというのがある意味必勝パターンになっていた。
俺は背後から聞こえる戦闘音を聞きながら気配察知を使った。
背後からの反応が増えている。
その意味することは一つだけ。召喚された取り巻きが、召喚を使ったという。間違いないと思う。
助けに行きたいと思うがそれが出来ない。
今、目の前のこいつを自由にするわけにはいかない。
俺が皆の援護に向かったらきっとこいつは召喚する。
なら俺のすべきことは決まっている。
仲間を信じてボスを引き受けて援護がくるまで待つ……もしくは倒すかだ。
ただそれは相手も感じていたようで、隙をついては距離を取ろうとする。
純粋な速さでは俺も追い付けないが、そこはスキルでカバーする。
距離が離れたら転移を使って間合いに飛び込み召喚を妨害する。
厄介だったのが召喚を餌に、反撃の一撃を喰らわそうとしてきたところか。
分かっていても距離は詰めないといけないから転移を使わざるを得ない。
それを相手も理解したから、利用してきた。
もっとも最初こそ手痛い一発を喰らったが、二度目は盾で防ぎ、三度目からは盾を使わないで躱すだけの余裕があった。
これは新たに覚えた記憶スキルのお陰だな。
このスキルのお陰で相手の挙動を把握し、次の動きを予想することが出来た。
元々はシュンたちの戦い方を覚えてものに出来ないかと思って覚えたが、魔物相手にも有効だった。
といっても魔物にも個体差があるし、普通ならそこまで活躍はしなかったと思う。
活躍できたのは目の前のヘルハウンドと、一対一で長い時間戦っていたからだ。
それとそのように対応出来たのは、並列思考のお陰だ。
これがなければ頭では分かっても体を上手く動かせなかった。
俺はヘルハウンドの打撃を盾で受け止めると、吸収を付与した剣で叩く。
一応斬っているけど完全に防がれている。
それでも一撃入れるごとに相手の魔力が減っているのが分かる。
が、このペースでは俺の魔力の方が先に底をつく。
そうならないのはMP変換のスキルのお陰だ。あ、あと自然回復向上の。
さすがにこれだけ激しい攻防の中では歩く暇などないから、ウォーキングスキルの効果、どんなに歩いても疲れない、は仕事をしていない。
俺はステータス画面を見ながら、一度剣を持ち替える。
持ち替えるといっても攻撃を盾で防いでいる隙に持っていた武器をアイテムボックスに収納して、アイテムボックスの中からお目当ての武器を取り出すだけだ。
この早業が出来るのも俺が一人で戦えている理由でもあるな。
マナポーションを飲むことが出来ればもっと余裕があるけど、さすがにそれは許してもらえない。
俺はMPとSPが回復するまでの間はミスリルの剣を使い、回復したら吸収の付与した武器で殴った。
それを何度も繰り返していると、フロア内の反応に変化があった。
気配察知を使って周囲の様子をうかがっていたら、突然物凄い速度で反応が消えていく。
何が起こっているかは気になるが、俺はボスに向き合い剣を振るう。
そして反応が消えるほどボスは精彩を欠き、俺の攻撃の通りがよくなっていく。
たぶん、どんなことが起こっているかボスからは見えるからだろう。
残念ながら俺からはちょうど背後になっているから見ることが出来ないが、それが逆に良かったのかもしれない。
攻撃を続けた結果。ボスから感じる魔力反応がかなり弱まった。
俺は逸る気持ちを抑えながら慎重に、時に大胆に強弱をつけながらさらにその魔力を削っていく。
するとボスが悲鳴を上げた。
肉を切り裂き、血が飛び散った。
俺は消えていく反応を察知しながらこのまま攻めるか、仲間たちを待つかを考えた。
それは一瞬のことで、すぐに攻撃する選択を選んだ。
理由は時間をかけると、何が起こるか分からなくなると思ったからだ。
実際ここでは資料にない、取り巻きによる召喚という予想外の出来事が起こった。
その不安が俺を動かした。
そうと決断したら、あとはソードマスターの攻撃スキルに魔法を織り交ぜて一気に攻めた。
ヘルハウンドは防戦一方で、徐々に後退していく。
壁際に追い詰めながらも、動きに注意を払う。
そして背後で最後の反応が消えたのを感じながら、俺はボスに止めを刺していた。
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