第589話 フォルスダンジョン・20(ミア視点)

 唇を噛み締めた。

 増え続けていくヘルハウンドに対して、ヒカリちゃんたちが前面に出て戦ってくれている。

 私たちはカイナに守られながら援護することしか出来ない。

 クリスは連続して魔法を使っていて、今は何度目かのマナポーションを飲み終わったところだ。

 私はヒカリちゃんたちの動きを目に追いながらヒールを飛ばしながら、補助魔法が切れる前に重ね掛けをする。

 ……それしか出来ないから。

 私は手に持つ杖をギュッと握った。

 もし……私がヒカリちゃんたちのように戦えたら。ううん、その半分、いや、四分の一ぐらいでもいい。

 そうすればカイナが自由に動くことが出来て、ヒカリちゃんたちの負担が減ると思う。

 でも現実はそれが出来ない。

 旅の間にルリカたちから体の動かし方を教えてもらっていたし、獣王国に来てからもエルザちゃんたちと一緒に教わっている。

 それでも実際に魔物と戦って、浅い階層なら戦えたけど、五十階を超す頃には難しくなっていった。

 ルリカたちからは無理する必要はないと言われたけど、それでももどかしい。

 純粋な身体能力なら私はルリカたち以上だと思う。

 それなのに敵わない。

 経験の差だ。

 ソラも色々なスキルを習得しているけど、スキルはあくまできっかけに過ぎないって言っていた。

 だからソラも模擬戦をして自分の腕を磨いている。

 ま、まあ、多少はルリカたちに巻き込まれている感じを受けなくもないけど?

 その時だった。

 ルリカがこちらを振り返り、何かしている。

 ルリカの見ているのはクリスだ。


「ルリカちゃん、左側のヘルハウンドを狙うみたいです。その間補助主体で足止めをお願いされました」


 やはり何か合図を送っていたみたい。

 クリスは大きく息を吐いて再び精霊魔法を唱えた。

 使うのは風と水。同時発動は負担が大きいって言っていたのに……。

 私はクリスに補助魔法をかけてルリカの方を見た。

 ルリカは普段通りの動きで攻撃を躱して懐に潜り込むと、剣を振り下ろした。

 それを見て目を大きく見開いた。

 ルリカの腕の動きが速すぎて残像が見える。

 ただ剣を振るうごとにルリカの周囲が仄かに赤く染まる。

 顔を見ると何かを我慢しているように口を結んでいる。

 私はそれを見てヒールを唱える。

 ただルリカ一人に集中するわけにはいかない。

 そう思うのにルリカが気になって、気付くと目で追っていた。

 ルリカは物凄い勢いで一体、二体とヘルハウンドを倒していく。

 その倒す速度はセラよりも速く、セラとヒカリちゃん二人合わせてよりも尚速い。

 ヘルハウンドもルリカを脅威と感じたのか、クリスの魔法の拘束から抜け出した個体がルリカを襲う。

 それでもルリカは近付いて来たものから倒す。

 そしてルリカの周囲は静かになった。

 周囲にいたヘルハウンドを倒したルリカは、顔を上げて……体が大きく揺れた。

 それを見て私はチラリとセラたちの方に視線を向けてから駆けていた。

 距離があるから間に合うかと心配になったけど、ルリカが倒れる前に抱えることは出来た。

 ルリカの体は軽く、露出した腕は赤くなっている。熱も感じる。

 私は手を添えてヒールを唱えた。


「……ミア?」

「ルリカ、大丈夫? 本当無茶なんだから」

「ありがとう。それよりセラたちの方に行かないと」


 ルリカはそう言って自分の足で立ったけど顔を歪めた。

 ヒールは効いているのに治療出来ていない?

 私がもう一度ヒールを使うと、ルリカは何処かホッとしたような顔をした。


「とりあえずルリカは休んで」


 私はルリカに肩を貸してクリスたちのもとまで戻った。

 というか魔法を使いながらカイナとクリスがこちらに向かってきたから早く合流することが出来た。


「ルリカちゃん、あまり無茶をしないでください」

「……クリスは人のことが言えないでしょう」


 言われたクリスの目が泳いだ。

 確かにクリスもかなり無茶をしていたと思う。


「ルリカはここで二人を守るといい。セラたちの援護は私がする」


 そこにカイナが口を開き、答えを聞かずにセラたちの方に行ってしまった。

 多少強引だけど、ルリカには一番効果的だ。

 カイナがここを離れたら私たちを守る人がいなくなるから、ルリカがここに残らないといけなくなる。

 それを見越しての行動に違いない……たぶん。


「とりあえず二人はゆっくり休んで。ルリカのお陰で数はかなり減っているから」


 実際取り巻きの数はもう十を切っている。

 ルリカが大量に倒してくれたのもあるけど、召喚を繰り返すごとに相手のレベルも低くなっているから、セラたちの倒す回転が上がっている。

 ただセラたちもかなり体を酷使しているみたいで、いつもよりも動きが悪くなっている。

 それでもそんな二人のもとにカイナが合流したことで、決着がついた。


「私たちも合流しましょう」


 ルリカの言葉に、私は頷き速足で近付くとヒカリちゃんとセラの二人にヒールを使う。

 私の神聖魔法で傷は癒やせるけど、疲労を回復することは出来ない。


「……まずは体力を回復させよう。それまでは遠距離から援護しましょう」


 ルリカの言葉に私たちは頷き、ボスと戦うソラに目を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る